コンフィデンシャルコンピューティング始動【前編】
データの「最後の弱点」を解決するコンフィデンシャルコンピューティング
保管中のデータと転送中のデータについては暗号化による保護の方法論が確立している。だが処理中のデータは無防備で、漏えいの危険性がある。これを抜本的に解決する取り組みが始まった。
米サンディエゴの爽やかな気候の中、Open Source Summitが開催された。同イベントが発信したニュースの中で本誌が注目したのは、Linux Foundationの発表だ。Linux Foundationは、同イベントで非営利団体「Confidential Computing Consortium」(CCC)の設立を明らかにした。
CCCの目標は、「Confidential Computing」(コンフィデンシャルコンピューティング)の導入促進、企業レベルでのコンフィデンシャルコンピューティングの利用奨励、そしてセキュアなエンクレーブ(隔離領域)の導入と開発を簡素化するグローバルな技術標準の推進だ。
ところで、コンフィデンシャルコンピューティングとは何だろうか。
コンフィデンシャルコンピューティングとは
コンピューティングは、オンプレミス、パブリッククラウドからエッジまで、さまざまな環境に広がっている。こうした状況はどの業界でも同じだ。企業が自社のワークロードを異なる環境に移行するに当たって、機密度の高い知的財産やワークロードデータの保護管理が不可欠になる。こうした保護管理には、適切な保証と透明性の向上も求められることが増えている。
クラウドコンピューティングにおける現状のアプローチでは、保管中のデータと転送中のデータには保護管理の対策が取られている。だが処理中のデータの保護という問題が残っている。機密度の高いデータを完全に暗号化するというライフサイクルを実現する中でも、処理中のデータの暗号化は最も難しいステップになると考えられている。
ハードウェアベースのコンフィデンシャルコンピューティングは、暗号化したデータをシステムの他の部分に公開することなくメモリ内で処理し、公開される機密データを減らすことを可能にする。そのため管理が強化され、透明性が向上する。
CCCが取り組む最初のプロジェクトが「Open Enclave SDK」だ。このオープンソースフレームワークは1つのエンクレーブ抽象化を利用して、複数のTEEアーキテクチャで実行されるTEEアプリケーションを構築できるようにする。
Microsoftが貢献するのがこのOpen Enclave SDKだ。MicrosoftでCTO(最高技術責任者)を務めるマーク・ルシノビッチ氏は次のように話す。「TEEは処理中データを保護するのに非常に有望だ。TEEに携わる開発者の間では、既にOpen Enclave SDKの人気が高まっている。このCCCへの貢献によって、当社はさらに多くの開発者にツールが広まること、そしてクラウドとエッジコンピューティングの信頼性とセキュリティを強化するアプリケーションがさらに開発、導入されるようになることを期待している」
Intelでコーポレートバイスプレジデント兼システムソフトウェア製品担当のゼネラルマネジャーを務めるイマド・ソウソウ氏は次のように付け加える。「『Intel SGX』(Software Guard Extensions)とMicrosoftのOpen Enclave SDKを組み合わせれば、セキュアなエンクレーブの開発が簡素化され、運用環境への展開が広がる」
Red Hatが貢献する「Enarx」は、TEEを抽象化するプラットフォームだ。これにより開発者は「プライベートで、代替可能、そしてサーバレス」なアプリケーションを開発、実行できるようになる。
Red Hatでシニアバイスプレジデント兼CTOを務めるクリス・ライト氏は次のように話す。「セキュリティ向けハードウェアサポートは進化し続けている。だが、セキュリティが確保されたコンピューティング環境を作り上げるのはいまだ難しい。当社のEnarxプロジェクトの目的は、高度なセキュリティと機密性をサポートするアプリケーションを開発者がコンピューティング環境に展開できるようにすることと、このプロジェクトによってCCCに寄与することだ。コンフィデンシャルコンピューティングを標準にするために、幅広い業界とCCCに協力できることを喜んでいる」
Googleでセキュリティ部門のバイスプレジデントを務めるロイヤル・ハンセン氏は、ユーザーがワークロードの保護方法を最適に選択するには、コンフィデンシャルコンピューティングに対する共通の言語と理解が必要だと話す。
「オープンソースコミュニティーが『Asylo』(訳注)やOpen Enclave SDKのような新しいプロジェクトを導入し、ハードウェアベンダーがプログラム、OS、仮想マシンの保護についての考え方を変えるような新しいCPU機能を導入する。それに伴い、CCCのような団体が新しいセキュリティ機能を企業とユーザーが理解し、ニーズに応じて活用できるようサポートすることになるだろう」とハンセン氏は言う。
訳注:コンフィデンシャルコンピューティング用のオープンソースのフレームワーク。
後編(Computer Weekly日本語版 11月6日号掲載予定)では、ハードウェアベースのコンフィデンシャルコンピューティング実現の鍵となるIntel SGXを中心に解説する。
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