QLCは書き込み速度が遅く、セルを書き換えられる回数も少ない。だが用途によっては非常に有用だ。QLCの真価を引き出す使い道とは何か。
SSDをHDDと同レベルの容量にすることを目指し、ストレージベンダーはNANDフラッシュにさらに多くのデータを詰め込もうとしている。その最先端のフラッシュストレージ技術がQLC(クアッドレベルセル)だ。その名の通り、QLCは1セルに4bitを格納する。
QLCもそれ以外のNANDフラッシュもデータを保存する方法は基本的に変わらない。電荷を使って各セルが“0”と“1”のいずれになるかを決定する。こうしたセルがシリコン基板上に数千個あり、これを使ってテラバイト規模の情報を格納する。
最初のフラッシュは1セルに1bitを格納するよう設計された。これをSLC(シングルレベルセル)と呼ぶ。間もなくさまざまな電圧を使って複数のステートを格納できることが発見され、2bitのバイナリ情報を使って4つのステートを各セルに格納するMLC(マルチレベルセル)が誕生する。TLC(トリプルレベルセル)は1つのセルに3bitのデータを格納することでステートを8つに拡大したものだ。
QLCは4bitのデータを使って16のステートを格納する。つまり16の異なる電圧レベルを使う。
QLCに移行すれば、総所有コスト(TCO)が削減される。QLCドライブならば(SLC〜TLCよりも)少ないドライブ数で済むためコストが低下する。HDDと比べると最大約8倍のストレージ密度が実現する。その結果、データセンターのスペースが節約される。これは素晴らしいことのように聞こえるが、問題もある。
PLC(ペンタレベルセル)も登場するようになったが、これについては別の記事(訳注)を参照してほしい。
訳注:Computer Weekly日本語版 11月20日号掲載の「PLC(ペンタレベルセル)フラッシュでフラッシュストレージはどう変わる?」参照。
セル容量の増加は、格納できるデータ量が増加する点においては優れている。だが、課題も増える。
セルは、書き込みごとに少し損傷する。つまり各セルには寿命がある。これを耐久性と呼び、フラッシュメモリで実行できるP/E(書き込み/消去)サイクル数で表される。
NANDは電圧を加えることで書き込みと消去が行われる。その際、絶縁体を通じて電子が送られる。これらの電子の場所(とその量)によって、電流がソースとシンクの間をいつ流れるかが決まる。これを電圧しきい値と呼ぶ。この電圧しきい値がセルに格納するデータ(1と0)を決める。この電子の送受信が絶縁体の摩耗の原因になる。各セルのサイクルの正確な数はNANDの設計によって変わる。
SLCのP/Eサイクルは通常約10万回だ。MLCは3万5000〜1万、TLCは5000に下がる。ただし、この数値はメーカーの努力によって継続的に改善されている。
QLCの場合、P/Eサイクルは当初100回程度と予想されていた。メーカーはこの数を1000回に増やすことに成功している。
1bitの変更でもセル全体の再書き込みが必要になるため、セルに格納するデータが増えるとセルの書き換え回数も増えることになる。
密度の増加はビットの区別を難しくする。QLCはTLCより密度が25%高くなり、速度は大幅に遅くなる。QLCの読み取り速度は他のフラッシュとあまり変わらないが、書き込み速度は最高160Mbpsで、従来のHDDよりも遅い。
QLCが低速で他のフラッシュよりも壊れやすいとしたら、検討する価値はどこにあるだろうか。
この問題をカバーするため、メーカーはQLCでキャッシュ技法を採用している。つまり、書き込み速度を上げるためドライブの一部をSLCキャッシュとして使用する。ドライブコントローラーがSLCセルからQLCセルにデータをフラッシュ出力するため、このキャッシュはハイエンドのSSD並みの速度で書き込むことが可能だ。ただしキャッシュ容量がいっぱいになるとQLCセルに直接書き込むため、速度が低下する。
QLCの書き込み速度と耐久性は他のフラッシュ技術よりも優れているわけではないが、企業での用途を無視すべきではない。QLCはTLCと同等の読み取り速度と耐久性を実現する。
1つのセルに多くのビットを詰め込むことで摩耗が起きるため、QLCは書き込み負荷が高いワークロードには適さない。書き込み操作が少なければドライブの耐用期間は長くなる。
Micron Technologyでシニアテクニカルマーケティングマネジャーを務めるジェイソン・エコールズ氏によると、QLCはオールフラッシュデータセンターの普及を一歩進めるという。
「多数のワークロードが既にフラッシュに移されているが、それを促すのが読み取りを重視するアプリケーションだ。ビジネスインテリジェンスや分析、NoSQLデータベースやコンテンツ配信、オンデマンド動画とストリーミング、ビッグデータとアクティブアーカイブ、データセンターのバックアップと復元などがその例だ」(エコールズ氏)
ビッグデータ、分析、動画ストリーミング、オブジェクトストレージなど、信頼性、読み取り速度、低電力が重要な場合はHDDの代わりにQLCを利用する場面が増えていると同氏は補足する。
QLCは人工知能(AI)、リアルタイム分析に適している。データでビジネスインテリジェンスを実行する企業は、QLCを使ってほぼリアルタイムに分析を行い、意思決定に役立てられる。メタデータやリッチコンテンツを含むデータベースにQLCを使用すれば、アプリケーションのパフォーマンスが向上する可能性がある。これらのワークロードはデータの書き込みより読み取りの方が多いため、QLCにとって理想的だ。データが記録後に変更されることはない。QLCはデータの高速な読み取りと並べ替えを可能にする。
オンデマンド動画、メディアストリーミング、コンテンツ配信には、並列の要求とストリームを多数サポートできるQLCが有効だ。
長期保存が必要だが書き込み回数が少ないアーカイブにもQLCの特性は適している。
QLCの主要ベンダーの1社がMicronだ。同社は2018年5月に業界初のQLC SSDの出荷と販売を開始した。
その後、同年にSamsung Electronicsが1TBのV-NANDチップを採用したコンシューマー向けQLC SSDをリリースした。同じく2018年、IntelはM.2 2280規格対応のQLC SSDを発売し、Western DigitalはQLCを採用した96層3D NAND「BICS4」チップを初めて市場に投入した。
QLCについての計画をまだ公表していないアレイメーカーもあるが、以下のベンダーは採用意向を表明しているか、採用すると目されている。
Pure Storageは2019年9月に「FlashArray//C」を発表した。「DirectFlash」NVMeフラッシュモジュールでQLC NAND SSDをサポートする。1.2PB、2.9PB、4.7PBの実効容量を展開している。
公式声明はないが、一部のアナリストはNetAppが2020年にQLCをエンタープライズSSD(恐らく「ONTAP」と「Eシリーズ」)に統合すると予測している。
2018年、AMAXがAIとディープラーニングのワークロード向け「StorMax NFS」を発売した。StorMax NFSはQLCを基盤とするMicron「5210 ION」SSDを特徴とする。
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