自治体もまた、一般企業と同じくコスト削減とサービス向上に迫られている。スウェーデンの自治体は大学の研究プログラムを利用してAIやRPAのトライアルに着手。現場の不信感を解消しつつ成果を挙げている。
スウェーデンの主要自治体がルンド大学(UoL)主導の研究プロジェクトを活用して、人工知能(AI)を使った基本サービスの提供を検証している。
支援事業運営の自動化に関するUoLの研究プログラムレポートの導入部には、さまざまな福祉事業で基本的な行政業務を遂行する能力は、人間よりもソフトウェアロボットの方が優れているという説を後押しする内容が書かれている。この研究で検証された業務領域には、サービス利用者の収入と支出に関する一般的なデータ収集などがある。
スウェーデンの16の大規模自治体がこのAI研究プロジェクトに協力し、Akademikerförbundet SSR(全国専門家組合)から資金が提供されている。同組合は行政、人材管理、福祉分野で働く大学卒業者を対象としたスウェーデン有数の組織で、7万2000人以上のメンバーを擁する。
プロジェクトコーディネーターのルピタ・スベンソン氏に話を聞いたところ、同じ作業をした場合、AIロボットの処理効率は人間の2倍になるとUoLの研究は結論付けているという。
「ロボットの使用で非常に効果が上がったことから、自治体ではロボットの利用が不可欠になっている。社会保障や社会的支援の運営にロボットを採用する自治体が増えるだろう。現在の進捗(しんちょく)率と開発速度を考えると、今後2~3年で国内全自治体の主な行政業務をロボットに置き換えることが現実になると予想される」(スベンソン氏)
今では自治体へのロボット導入は肯定的に受け止められている。だが当初は地方自治体の「行政官」がAIに不信感を抱いており、「人間がロボットのデータ収集精度を疑っていた」ため効率が低下することがよくあったとスベンソン氏は話す。
「ロボットは作業効率を倍増する能力がある。だが、その効率を最大限に高める上で問題を抱える自治体も当初はあった。職場に来たばかりのロボットを信頼できない行政官がいたためだ。行政官の多くは二重検査を行って、ロボットの仕事の正確性と安全性を定期的に確認していた。サービスの申請者が正しい情報を理解して提出しているかどうかを確認したかったのだ。技術に不透明な点があったし、ロボットが正しく機能しているかどうかも不明だった。だが定期的な二重検査を行うと、AIのサポートによる効率向上が全く得られない恐れがある」(スベンソン氏)
UoLの研究では、人間の行政官と「AIの同僚」の信頼感の向上が重要だと予測された。
技術へのなじみが深まれば、ロボット導入への信頼が高まり、定型業務をAIに置き換える不安は減少すると考えられる。AIの進化、特に人間の判断スキルを適切に補完できるアルゴリズムの開発によって、AIに積極的に投資することへの自治体の関心が高まる。それが行政のIT管理者が運用しているアナログシステムの置き換えにつながると期待される。
ロボットへの信頼が大きく高まったのは、ランツクルーナ市でテストモードのAIトライアルを実施していたときだった。ロボットは単純な計算ミスを起こしがちで二重検査が必要な場合もあったが、AIは高度な自律化の可能性を秘めていることが分かったと話すのは、ランツクルーナ市の経済支援、家庭福祉行政の管理責任者を務めるエミラ・タリク氏だ。
「実施したトライアルで行政の基本業務に使ったロボットは、わずか7カ月のテストを経て自律するようになった。定型申請の70%以上はロボットが処理するようになった。テストモードでは、あらゆる種類のケースをロボットに処理させた。うまくいかなかったケースでは、改訂版のアルゴリズムを開発し、再テストを行った。修正を反映すると、ロボットの全体的なパフォーマンスは即座に向上した」(タリク氏)
AIとロボットアシスタントの活用を始めたばかりの自治体にとっては、業務遂行とサービス提供の全体効率を高めることが最重要課題となる。自治体は人件費の高騰を背景に、あらゆる領域でサービス遂行効率を向上させる自動化ソリューションを求めている。スウェーデンの地方自治体の大半(95%)は、コスト削減プログラムを実施中だ。必然的に、AIとロボットが職務を段階的に代行することにつながるだろう。
スウェーデンの290自治体のうち、2019年末時点で自治体サービスの利用者に充実した電子サービスを提供できていたのは95の自治体にすぎない。福祉支援タスクに自動化機能を使った電子サービスを運用しているのは、たった20の自治体だった。
AIを広く使用する過程では、自治体には将来の資源配分ニーズを審査するための徹底的な検討が必要になる。それには、技術と費用の両面を分析して自動化プログラムの最適な導入方法を判断し、地方自治体のサービスをこれまでよりも低コストかつ年間予算を削減するような最適な形で提供しなければならない。
スウェーデンの自治体は、適切に構造化されたデータを利用する大量の反復業務に自動化ソリューションを使うことへの関心を高めている。専用のRPA(ロボティックプロセスオートメーション)プロジェクトを通じたデジタル化が増え、作業方法やプロセスの変化が続いている。情報のデジタル化が進んでいる職場では、手作業が機械や技術に置き換えられつつある。
セーデルテリエ市は、2019年に「Ragnhild」というロボットを導入してRPAを拡張した。このロボットは、手作業で行っていた反復業務や給与支払い業務を請け負った。
Ragnhildの導入によって、効率とコスト管理の両方を改善するAIの潜在能力がはっきりと示されたと話すのは、セーデルテリエ市でコミュニケーションおよびデジタル化部門の担当マネジャーを務めるマリア・ダール・トガーソン氏だ。
「Ragnhildが反復業務を引き受け、職員が顧客サービスや資源管理などの価値の高い作業を行えるようにした。ロボット導入の決定は、効率を高めたいという絶対的なニーズによる。自動化とロボットには将来性がある。今後、退屈な定型業務はロボットが担うようになるだろう」(トガーソン氏)
イノベーションが起きているのは、大都市の地方自治体だけではない。2019年、スウェーデンの小都市ウップランズブローは、採用活動を支援するために面接ロボット「Tengai」を導入した最初の自治体となった。Tengaiは、ストックホルムに本社を置くAI企業Furhat Roboticsと人材コンサルティングパートナーのTNGグループが開発、提供している。
ウップランズブロー市で開発責任者を務めるカール・オーランダー氏は次のように語る。「AIはとても聡明(そうめい)な技術だ。Tengaiは採用方法に大革命をもたらし、選抜と雇用のプロセスの速度を上げた。その結果、自治体にとって最も重要な資源である“時間”と“費用”が削減される」
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