新型コロナウイルス感染症の濃厚接触者に注意喚起する「接触追跡システム」で感染経路を追跡することは、どのような社会的意義があるか。米国医療機関の導入事例を紹介する。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大を防ぐために、感染者と接触した可能性がある人に注意喚起を促す「接触追跡」システムは、公衆衛生機関だけに役立つ手段ではない。医療機関も、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染経路を追跡する取り組みに協力している。
「接触追跡」は公衆衛生における数十年来の手法で、主に手作業に頼ってきた感染症対策の一つだ。「宿主が感染力を持つ時期(宿主が他の人に感染を広げる可能性がある時期)に接触した人との関係を把握する」という考え方に基づいている。感染者と濃厚接触した可能性を、接触した相手本人に通知することは、感染拡大を遅らせるのに役立つ。
AppleとGoogleは、Bluetoothを活用する接触追跡システムのためのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)「Exposure Notification API」を共同開発し、2020年5月に公開した。このAPIは、公衆衛生機関がアプリケーションを通じて、COVID-19罹患者と濃厚接触した可能性のある人に連絡し、次にやるべき手順を案内できるようにすることを目的としている。
異なるアプローチを取るベンダーもある。例えばリモート患者モニタリングシステムを開発するSentinel Healthcareは、感染者と濃厚接触した可能性がある人をモニタリングし、接触追跡を支援するHIPAA(米国における医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令)準拠のシステムを開発した。
どのような方法を使用するにしても、COVID-19罹患者との濃厚接触の追跡を実施する場合、医療機関のCIO(最高情報責任者)や公衆衛生機関にとっては、患者のプライバシーを確保できるかどうか、人がこの対策を支持し参加するかどうかなどが気掛かりになる。それでもSARS-CoV-2の感染経路を追跡することは、通常の医療や経済活動の再開のためにも不可欠な取り組みだ。
University of Texas at Austin(テキサス大学オースティン校)Dell Medical Schoolの付属病院であるUT Health Austinは、Sentinel Healthcareのシステムを利用して、SARS-CoV-2に暴露した医療従事者と患者をモニタリングしている。
UT Health AustinのCIOを務めるアーロン・ミリ氏によると、Sentinel Healthcareのシステムには、COVID-19患者の在宅モニタリング機能や接触追跡機能がある。ミリ氏は、COVID-19危機の中で患者数を抑制する方法として、このシステムへの投資を決めた。
Sentinel Healthcareのシステムのユーザーは、モバイルアプリケーションからこのシステムにアクセスできる。アプリケーションはユーザーに、定期的に症状と体温を記録するよう促す。
このシステムはデータを監視し、ユーザーの症状悪化を検知すると、適切な医療従事者にリアルタイムアラートを送信する。医療従事者は、患者が医療機関に行く必要があるかどうか、あるいはオンライン診療のような別の方法で受診すべきかどうかを判断する。このシステムは、患者がドライブスルー型検査施設で受けた、SARS-CoV-2への感染を判断するPCR検査の結果データも追跡する。
UT Health Austinが患者をCOVID-19だと診断すると、同施設のリモートコールセンター担当者は、その患者が最近接触した全ての人に連絡する。
中編は、UT Health AustinおよびPenn State College of Medicine(ペンシルベニア州立医科大学)が接触追跡プロセスを運用する上で重視している課題を説明する。
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