AI市場に押し寄せるM&Aの波【前編】
AI企業を買収する側とされる側、それぞれの事情
新型コロナウイルスの流行に伴って、AIソフトウェア関連の合併買収(M&A)が活発化している。その背景には何があるのか。
2021年の4~5月の2カ月間に、AI(人工知能)ソフトウェア関連のM&A(合併と買収)が相次いだ。Microsoftは同年4月、200億ドルで音声認識ベンダーNuance Communicationsを買収すると発表。同年5月には機械学習ベンダーDataRobotがデータ分析ベンダーZeplの買収を、視線追跡ベンダーSmart Eyeが感情認識ベンダーAffectivaの買収を発表した。
M&Aが流行する背景
AIソフトウェアベンダーのM&Aは急ピッチで進んでいる。2021年前半に明らかになった注目すべき案件だけで、
- パナソニックがSCM(サプライチェーン管理)ベンダーBlue Yonderの71億ドルでの買収を2021年4月に発表
- 意思決定支援ベンダーBigBear(BigBear.aiの名称で事業展開)と同業のGigCapital4が両社の合併を2021年6月に発表
- IBMがネットワークパフォーマンス管理ベンダーTurbonomicの買収を2021年4月に発表
- 営業活動自動化ベンダーPeople.aiがCRM(顧客関係管理)システムの生産性向上ベンダーHero Researchの買収を2021年5月に発表
などが挙げられる。「RPA」(ロボティックプロセスオートメーション)分野では、UiPathがAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)管理ベンダーCloud Elementの買収を2021年3月に発表した。
「今後は間違いなくM&Aの案件が増える」と、調査会社Futurum Researchのアナリストであるフレッド・マクリマンズ氏は語る。その背景には何があるのか。
パンデミック(感染症の世界的大流行)に起因するデジタルトランスフォーメーション(DX)計画の加速に伴い、AI技術の成熟期間が速くなったとマクリマンズ氏はみる。AI技術の開発はコストも時間もかかる。「ほとんどのベンダーは、社内でAI技術を開発するより買収した方が効率的かつ効果的だと考える」(同氏)
AIソフトウェア市場の変動は、他の技術分野で劇的な合併買収が続く中で起きている。データ分析やデータマネジメントを手掛けるベンダーは、自社製品の機能拡張や補完を目的として、新興AIソフトウェアベンダーを買収している。一方でAIソフトウェアベンダーは、自らが開発した独自の有望な技術を製品化して市場に参入するために資金を獲得する必要がある。そのために、もっと強力なプレーヤーの力を必要としている。M&A活発化は、AIソフトウェア市場の成熟を反映しているとも言える。
マクリマンズ氏は「技術を手に入れるため、商品化を早めるため、そして顧客や市場シェアを獲得するための買収は、今後1年半から2年の間は増え続ける」と予想する。まだ“幼児期”を脱したばかりのAIソフトウェア市場にとって、このプレッシャーを乗り越えるのはそれほど簡単なことではない。
企業のDXを支援するCR Strategy Partnersでビジネス戦略パートナーを務めるクリス・シップリー氏によると、ベンダーの買収は主に人材の獲得を目的としている。技術者は希少で人件費が高い。「特に新興の企業ほど、買収価格は技術者の人数によって決まるという話を聞いたことがある」とシップリー氏は言う。同氏はスペインのAIソフトウェアベンダーSHERPA EUROPE(Sherpa.aiの名称で事業展開)の出資者でもある。
AIソフトウェアは1つの技術ではなく、さまざまな技術で成り立っている。AIソフトウェア市場に足を踏み入れるかどうかは「主にベンダーの製品に対する野心に左右される」とシップリー氏は語る。「AI技術はかつて難解な技術だったが、今や主流技術になった。純粋なIT企業だけでなく、あらゆる業種の企業がこの分野に乗り出すだろう」(同氏)
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