システム運用が複雑になる中で、企業のシステム運用部門は人員不足やコスト抑制といった問題を抱えている。その課題に焦点を当てるのが統合運用管理ソフトウェアだ。統合運用管理の役割とは。
社内に多様なシステムがある企業のシステム運用部門を悩ませる問題が、運用管理の複雑化や負荷増大だ。システムの安定稼働を維持するための監視やトラブル対応、ジョブ(コンピュータによる業務の処理)実行といった基本的なタスクを滞りなく回す必要がある中で、オンプレミスシステムに加えてクラウドサービスの利用が広がっている。これが運用管理を複雑にして負荷を増大させ、場合によっては従来通りの運用管理タスクの継続を難しくする。一方で企業は運用管理のコスト増大や人員不足といった課題への対策を打たなくてはならない。
こうした状況への対策を提示する製品の一つが「統合運用管理ソフトウェア」だ。古くからある製品としては日立製作所の「JP1」や富士通の「Systemwalker」、NECの「WebSAM」などがある。OSS(オープンソースソフトウェア)としてはNTTデータ先端技術が開発する「Hinemos」も比較的広く知られている。定義の仕方によってはさまざまな製品が統合運用管理ソフトウェアに分類される。
時代によって背景に違いはあるが、統合運用管理ソフトウェアは、常に企業のシステム運用部門が抱える各種の課題を前提にして機能を拡充させてきた。昨今の統合運用管理ソフトウェアはオンプレミスインフラとクラウドインフラにあるシステムの一元的な運用管理を基本的な機能として備える。AI(人工知能)技術を運用管理に取り入れる「AIOps」による効率化に踏み込んでいる製品もある。
統合運用管理ソフトウェアの軸の一つになるのは「統合」だ。製品ごとの機能や対象とする運用管理の業務に違いはあるが、いずれもマルチベンダーのIT製品やサービスを運用管理の対象とし、ログ収集や性能監視、ジョブ実行といった運用管理に関する複数の機能を、単一の製品内で連携させることができる特徴を持つ。
ITサービスマネジメントや資産管理など、企業のシステム運用部門で必要になる業務を単一のソフトウェア群で運用管理する、という意味で「統合運用管理」やそれに類する言葉を使うベンダーもある。例えば日立製作所はJP1について、監視やジョブ実行、運用自動化、資産管理、セキュリティ管理など広範に及ぶ製品群を含めて「統合システム運用管理」という言い方をしている。特に各種運用管理のタスクに必要になる情報の集約やデータの関連付けなど、一元的な運用管理の根幹となる“横串”を指す製品については「統合管理」という製品ジャンルに分類している。
Hinemosの場合は「収集・蓄積」「監視・性能」「自動化」といった機能群の全てを1つにまとめた提供形態を採用している。統合運用管理ソフトウェアの基本機能をシンプルにまとめた製品だと言える。
システムの運用管理に用いるツールには監視やジョブ実行、資産管理、自動化などの機能に応じて多様な製品があり、分類の仕方もさまざまだ。例えばOSSの監視ツール「Zabbix」はサーバやネットワーク機器のログを収集し、稼働状態をまとめて可視化できる。“統合的”な要素はあるが、中心的な機能は監視だ。
このような各種の機能に応じた多様なツールがある中で、狭義での統合運用管理ソフトウェアを定義すると、「稼働状態や資産情報の関連付けによるシステムへの影響度合いの分析、インシデント対応、ジョブ実行など複数の役割を、単一の製品または製品群で提供するもの」だと言える。統合運用管理ソフトウェアは下記をはじめとする複数の役割を担う。
単一の製品に限定せず、より広義に「統合運用管理」を捉えるのであれば、統合運用管理ソフトウェアは「複数のツールを連携させて、運用管理の各種の業務を一元化するもの」だと言うこともできる。
こうしたある程度の説明は可能だが、企業のシステム環境の変化に応じて統合運用管理ソフトウェアは提供する機能を追加し続けてきたため、一言で説明するのは簡単ではない。昨今は特にクラウドサービスの利用拡大やAI技術の進化といった動きに合わせて、統合運用管理ソフトウェアも変わってきており、2021年現在の製品の機能や役割は多岐にわたる。
第2回以降はJP1とHinemosの2製品を例にして、企業ITの変化とともに統合運用管理ソフトウェアがどのように進化しているのか、どのような役割を担うのかなどをより具体的に紹介する。特にクラウドサービスの利用を前提にした運用、AI技術の活用など、システム運用環境の複雑化や運用負荷増大といった課題に焦点を当てる。
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