ネットストーキングの加害者は、ストーカーウェア(行動追跡アプリケーション)に加えてさまざまツールを駆使してストーカー行為に及んでいる。その実態とは。
前編「『浮気っぽければ監視して当然』が8割 『ネットストーキング』を正当化する人々」は、セキュリティベンダーKaspersky Labsの調査結果に沿って、オンライン行動の監視に対する英国人の認識を取り上げた。ジーナ・マーティン氏は、「この調査から、ネットストーキング(インターネットを利用したストーカー行為)と家庭内暴力で、英国が非常に深刻な問題を抱えているという憂慮すべき現状が分かった」と話す。マーティン氏は英国でスカート内盗撮を取り締まる法律の制定を働き掛け、その活動が窃視犯罪を罰する法律「Voyeurism (Offences) Act 2019」の施行につながった。
「ネットストーキングは人を苦しめる行為であり、物理的な暴力や虐待につながることもある」とマーティン氏は注意を促す。同氏は、より多くの人がその危険性を認識し、ネットストーキングに対抗するためのツールやアドバイス、支援を得ることの重要性を強調する。
マーティン氏はネットストーキングに関する教育の必要性を訴えている。Kaspersky Labsのプリンシパルセキュリティリサーチャーであるデービッド・エム氏もそれに賛同する。
今回のKaspersky Labsの調査でストーカーウェア(行動追跡アプリケーション)の普及が明らかになったことについて、エム氏は「大きな懸念材料だ」と述べる。今回の調査で明らかになった懸念点は「『氷山の一角』である恐れがある」と同氏は主張する。一般的なストーカーウェアは、監視対象の人が気付かないままバックグラウンドで動作するからだ。
第三者が自分のスマートフォンにストーカーウェアをインストールするのを避ける対策として、エム氏は
ことを挙げる。ストーカーウェアを誰かにインストールされたと思ったら、慈善団体Refugeに支援を求めたり、ストーカーウェア対策に取り組む団体Coalition Against Stalkerwareに連絡して、次に取るべき行動を提示してもらったりすることをエム氏は推奨する。
親密な関係にあるパートナーを、ITを使って監視、ストーキングし、虐待する行為は、スマートフォンだけで実行されるわけではない。技術ライターのバリー・コリンズ氏は、Kaspersky Labsが2021年11月に開催した、ネットストーキングと虐待に関するパネルディスカッションに参加した。その中でコリンズ氏は、加害者がスマートフォン以外のデバイスやサービスを悪用する方法を間近で経験した2つの事例を紹介した。
1つ目は、コリンズ氏の友人の女性が被害を受けた事例だ。この女性はパートナーから暴力を受けていたため、パートナーが自分に接近することを禁止していた。だがこの女性は、その後も自分の現状をパートナーが知っていると感じた。パートナーが知り得ないはずの、自分の子どもに話したことなどの生活のこまごまとしたことを、パートナーが話題に出してきたからだ。コリンズ氏とその女性は、女性のスマートフォンを交換することで対処した。その後、その女性の所有するスマートスピーカー「Amazon Echo」の正規の機能「Drop In」(「呼びかけ」)を彼女のパートナーが悪用していたことを突き止めた。
Drop Inは、Amazon Echo間でのコミュニケーションを可能にし、これらのデバイスを通話用デバイスとして機能させる。着信があり、Drop Inがアクティブになると、Amazon Echoに緑の光がつく。ところがコリンズ氏の友人はこの緑の光に気が付かず、普段通りに会話をしていた。それがパートナーに筒抜けになっていたのだ。
2つ目は、音楽配信サービス「Spotify」でストーキングされた女性が、不安を感じてコリンズ氏に連絡した事例だ。コリンズ氏が調査したところ、加害者はSpotifyでこの女性をフォロー(行動を追う対象に追加)し、Spotifyの利用状況から女性の様子を探っていた。加害者は女性の友人に連絡したり、作成した公開プレイリストに画像とテキストをアップロードできるSpotifyの機能を悪用したりして、女性に嫌がらせをした。
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