英国政府は、自治体が市民に提供する健康増進アプリケーションの実証実験を支援している。政府がヘルスケアITツールの普及を推進する狙いと、市民が懸念する「個人情報保護」の問題は。
前編「健康づくりで映画券ゲット 『健康増進アプリ』を英国自治体が始めた“深刻な理由”」に続き、後編となる本稿は、政府が市民向け健康増進アプリケーションを提供することの狙いと、市民の懸念について解説する。
英国保健省によれば、肥満に関係する疾患によって国民保健サービス(NHS:National Health Service)には年間約60億ポンドのコストがかかっている。肥満は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の重症化リスクの一つであり、NHSの支出にさらなる悪影響を与えているという。
前編で紹介したウルバーハンプトン市のトライアルプロジェクトについて、英国保健省は「肥満に関連する健康問題を抱えて暮らす人々が、より健康的な体重に近づくよう支援し、それを維持するために必要なツールを提供する政府施策の一部だ」と説明する。この施策とは、英国政府が2021年3月4日の「世界肥満デー」(World Obesity Day)に発表したもので、1億ポンドの予算投入を見込んでいる。
このプロジェクトの前提には、2021年10月25日(現地時間、以下同じ)時点で英国の成人人口の半数近くとなる約2800万人が「NHS login」を利用するようになったという事実がある。NHS loginは、NHSが提供する複数のデジタルヘルスケアサービスを横断的に利用するための認証用システムだ。
英国保健省は、NHSのサービスを予約したり、健康記録を確認したりするための公式アプリケーション「NHS App」を無料で提供している。NHSX(NHSのデジタル推進部門)とNHS Digital(ビッグデータ研究などIT活用の司令塔となるNHSの組織)の協力の下で、2021年5月17日にCOVID-19のワクチン接種証明サービス「NHS COVID Pass」が登場。その利用申請に使えるNHS Appの普及を後押しした。
医療や介護分野における英国政府のデータ活用プロジェクトにおいて、秘密保持と透明性をめぐる懸念が取り沙汰されている。一部のプロジェクトは、特にプライバシー保護の運動家の間で議論を巻き起こしている。
英国の医療機関が市民の機密情報を適切に保護するよう助言や異議申し立てをする政府組織National Data Guardian for Health and Social Careは、2021年10月4日に公開した公式ブログのエントリ(投稿)で、医療と介護分野に関する政府のデータ戦略案に対する見解を示した。ブログエントリを執筆した同組織の医学博士ニコラ・バーン氏は「誰が自分に関するデータにアクセスする可能性があるのかを、その理由とともにオープンにし、実施する上で明確で曖昧さのない言葉を用いて説明する必要がある」と強調する。
バーン氏は機密情報を利用するメリットだけでなく、リスクがあることも認識してもらう必要性にも言及する。「人々は通常、データ利用に伴いリスクがあることを分かっている。だからこそ、特定の利用方法や状況に対して、どのようなリスク軽減策をしているのかも説明しなければならない」(バーン氏)
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