IBMが4158量子ビットまでの量子コンピューティングロードマップを公開課題はスケーラビリティ

IBMが133量子ビットから4158量子ビットまでの量子コンピューティングロードマップを公開した。そこにはどのような課題があり、どう解決するのか。

2022年07月05日 08時00分 公開
[Cliff SaranComputer Weekly]

 IBMが量子コンピューティングのロードマップを更新した。「IBMが『量子セントリックスーパーコンピュータ』と呼ぶものに量子コンピュータを拡大するための方法を見つけたい」と話すのは、IBMのジェイ・ガンベッタ氏(IBMフェロー、量子コンピューティング担当バイスプレジデント)だ。

 IBMは133量子ビットの「Heron」プロセッサを2023年にリリースする。このプロセッサはゲートとチップ間結合(カプラ)の設計が見直され、速度と信頼性が向上する。

 「同じ制御ハードウェアで複数のHeronプロセッサを制御できるようにする。これによって量子チップ間で古典的な並列処理が実現する」

 IBMは複数のチップの量子ビット間で2量子ビットゲートを実行するため、カプラにも取り組んでいる。ガンベッタ氏は、この技術を実証する「Crossbill」を2024年にリリースする予定だと言う。Crossbillは408量子ビットのプロセッサで、Heron技術をベースとするモジュール型のカプラで結合した3つのチップから成る。

 2024年には長距離量子通信をチップ間に導入し、約1メートルの極低温ケーブルを介して量子ビットチップ間を接続する長距離カプラで量子プロセッサのクラスタを構成する予定だ。

 「これを実証するため、最低3個の462量子ビットプロセッサを相互リンクさせて1386量子ビットを実現する『Flamingo』をリリースする予定だ」

 その次に予定されている量子プロセッサが「Kookaburra」だ。2025年にリリース予定のKookaburraは、量子並列化のために量子通信リンクをサポートする1386量子ビットのマルチチッププロセッサになる予定だ。3個のKookaburraチップを量子通信で接続して4158量子ビットを実現するという。

 ハイブリッド型のアプローチで量子優位性をより早く実現するため、ソフトウェアにも取り組んでいる。ソフトウェアで問題を小さな量子プログラムと古典的プログラムに分解し、オーケストレーションレイヤーでデータストリームをワークフロー全体にまとめあげる。IBMはこのアプローチをQuantum Serverless(量子サーバレス)と呼んでいる。

 「量子サーバレスの軸は、量子リソースと古典的リソースの柔軟な組み合わせを可能にすることだ。2023年には量子サーバレスをIBMのコアソフトウェアスタックに統合し、回路ニッティング(circuit knitting)などのコア機能を実現する予定だ」

 IBMのケイト・ピッツォラート氏(量子戦略およびアプリケーションリサーチ部門ディレクター)は、量子コンピュータの相互接続の課題を次のように語る。「スケーラビリティの課題は、機器に配置できる量子ビット数と、4158量子ビットのシステムを実現するために機器を相互接続する方法に制限があることだ」

 IBMが開発しているショートカップリング技術を使えば、300〜400量子ビットのシステムを相互にリンクできる。300〜400量子ビットのクラスタ間では接続が低速になる。アプリケーションのパフォーマンスが大幅に低下しないように、ロングカップリングでは十分な高速性を確保する必要がある。

 「1000量子ビットを収容できる冷却器にハードウェアをできるだけ多く詰め込むという考え方だ」(ピッツォラート氏)

 2021年11月に公開された「IBM Quantum System Two」は、モジュール方式を採用し、システムをスケールアップしながら構築する方法を示した。量子ビットシステム同士の接続に1メートルの制約があるならば、システムのクラスタを円筒形に配置して相互接続される多数の300〜400量子ビットシステムを収容する冷却器を備えるように各円筒を構築する。

 「モジュール方式のハードウェアとそれに付随する制御エレクトロニクスと極低温インフラで量子プロセッサをスケールアップする方法の限界を2025年までに排除する予定だ。ソフトウェアとハードウェアでモジュール方式を推し進めることは、競合他社に先んじてスケーラビリティを実現するための鍵になるだろう」(ピッツォラート氏)

 IBMは、ブレードサーバがデータセンターの構造、エネルギー、冷却の要件を変えたのと全く同じように、将来のハイブリッド型データセンターが古典コンピュータと量子コンピュータのためにどのようになるかを既に考えている。

 「電気的要件や冷却水の要件、必要な設置面積、インフラとシステム要素の標準化など、データセンターの設計で重要な側面は思考過程に不可欠だ。IBMにはシステムとデータセンターの設計に関する豊富な経験がある。これを量子データセンターの設計に生かすことができる」(ピッツォラート氏)

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