量子コンピュータの設計には多数の要因が影響する。これらの最適な組み合わせを見つけるのに役立つと期待されているのが、マルチフィジックスモデリングだ。研究の最前線では何が起きているのか。
現在の量子コンピュータは、設計方法も動作も全て異なる。設計者は量子ビットの実装方法を選ばなければならない。最も一般的なのは超電導ループとイオントラップ型の2つだ。超電導ループを採用するのはIBM、Google、Intelで、イオントラップ型で最も著名なのがHoneywellだ。
各実装方法には設計上の選択肢が複数ある。設計者は素材、量子ビット数、量子ビットの配置、量子ビットの初期化方法、量子ビットの読み取り方法を選択する必要がある。
量子コンピュータは、各量子ビットのノイズの大きさによって個性が生まれる。量子ビットのノイズの大きさは、素材、製造プロセス、量子ビットの動作環境など、複数の要因が影響する。
画期的な技術が登場すると、開発者は膨大な時間を費やして最適なアプローチを探す。最終的には一つのアプローチが他を圧倒し、ドミナントデザインと呼ばれる支配的な存在になる。ドミナントデザインが確立されると、全ての製品がこれに従うことを市場は期待する。
量子コンピュータのドミナントデザインが登場するのは遠い未来になる。それまでは、研究機関や企業がさまざまな選択肢の実験に忙殺される。研究機関や企業は全て、量子コンピュータがゲームチェンジャーになると考えている。誰も後れを取りたいとは思っていない。
量子コンピュータの技術はまだ流動的で確立しておらず、効果的なものを探すための実験が繰り返される段階だ。新しいハードウェアが開発・テストされ、テスト結果に基づいて変更が加えられ、新しいハードウェアが構築される。通常は、最適な設計が見つかるまでこれを何回も繰り返す。
研究者はシミュレーションツールを利用して、ハードウェアを構築することなく新しいアイデアを試すことが可能だ。だが、量子コンピュータのシミュレーションは複雑だ。一種類の物理学(電磁気学や流体動力学など)をシミュレーションするツールでは不十分で、複数の物理学(マルチフィジックス)のモデリングが必要だ。このモデルは複数の現象を個別に予測する方程式を組み合わせ、各効果の相互作用を考慮して全体的な予測を導き出す。
そのノウハウを応用しようとしている企業の一つがフィンランドのQuanscientだ。同社の出発点はマルチフィジックスモデリングの学術研究だ。2021年、同社の最高技術責任者兼共同創設者のアレクサンドレ・ハルバッハ氏は研究成果を取り入れて新会社最初の顧客に応用した。
QuanscientのCEOユハ・リイッピ氏は言う。「最初のパイロット顧客は、インテリジェント眼鏡を開発しているフィンランドのスタートアップ企業だった。同社の製品は、近くを見るとき、遠くを見るときに応じてレンズの形状が変化する。当社は、設計上のさまざまな選択肢のシミュレーションを支援した。その結果、同社は製品開発の時間とコストを削減できた。これにはマルチフィジックスが必要だ。電場の動作と電場をかけたときのレンズの機械的反応をシミュレーションしなければならない」
Quanscientは核融合のシミュレーションに力を入れている。このシミュレーションには、超電導を可能にする電磁気現象と低温物理学が必要だ。マルチフィジックスモデリングでは、個々の力だけでなく力の相互作用の仕組みも考慮し、さまざまな現象をシミュレーションしなければならない。
同社が関心を持つもう一つの市場が量子コンピュータだ。量子コンピュータの設計には電磁気学と超電導が必要だ。量子コンピューティングアーキテクチャをシミュレーションする際の課題と核融合の側面をシミュレーションする際の課題は似ている。
「超電導アーキテクチャを利用する量子ハードウェアメーカーなら、当社のアルゴリズムを使って設計プロセスを高速化することが可能だ。だが、当社のツールが超電導アーキテクチャに限定されるとは思わない。当社の技術は他のアーキテクチャの量子コンピューティングにも応用できると考えている」(リイッピ氏)
「当社はAPIに取り組んでいる。これにより、研究者はシミュレーションコードを記述する柔軟性を得る。当社のユーザーは科学者や研究エンジニアであり、自分でコーディングすることに慣れている」
「他社と大きく異なるもう一つの点は、当社の『ネイティブマルチフィジックス』アルゴリズムだ。既存のツールの中には、複数のシミュレーションを連続して実行するものがある。このようなツールでは、シミュレーションの結果を待ってから次のシミュレーションを行う必要がある。当社のアルゴリズムならば異なるモデルを同時に実行できる」
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