英国では行動制限が解除されたことでパスポートの需要が急増した。そのような中、英国旅券局はITシステムではなく紙で申請処理をする事態に陥り、約36万人のパスポート発行が遅延した。その原因とは。
2022年、英国人へのパスポート発行を担う英国旅券局(HMPO:HM Passport Office)で、数十万人分のパスポート発行に遅れが生じた。背景には、HMPOが一部のパスポート申請処理をITシステムではなく、効率性に劣る紙ベースの方法で処理する事態に陥ったことがあった。
英国会計検査院(NAO:National Audit Office)によると、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)に伴う行動制限の解除を受けてパスポートの需要が増加し、HMPOが処理したパスポート申請数は記録的なものとなった。2022年1月~9月にHMPOが処理したパスポート申請数は約690万件で、2019年の同時期と比較して約21%増加した。
NAOはHMPOの業務実績に関する調査報告書の中で、「HMPOは約13万4000件の申請を、新しく導入したITシステムではなく、紙ベースの方法で処理しなければならなかった。原因は、同局が利用するITシステムの、機能面での限界だった」と説明した。
HMPOが利用するITシステムは、申請の優先処理や関連付け処理(例えば、兄弟姉妹の申請で利用する書類が同じ場合、それらをひも付ける処理) ができない。同局はこれらの処理を実施する場合において、効率性に劣る紙ベースの方法で申請を処理した。この結果、約36万人の申請者のパスポート発行に10週間以上の時間がかかり、遅延が生じた影響で旅行計画に支障が生じた可能性がある。
行動制限が解除された後のパスポート需要増加に備え、HMPOはITシステムで対処する計画を以前から立てていた。ただしこのITシステムは、急増した申請件数に対処できるような設計ではなかったと報告書は指摘する。ITシステムはCOVID-19の影響で完成が遅れた上に、全ての種類のパスポート申請に対処できなかった。
パスポート発行に遅れが生じた他の要因としては、人材採用やパスポートの需要管理がうまく進まなかったことが挙げられる。
NAOの責任者を務めるガレス・デービーズ氏は次のように述べる。「HMPOが導入したITシステムの機能に不足があった点や、例年を大幅に上回る処理件数といった要因により、数十万人分のパスポート発行に遅れが生じた。影響を受けた人々は、旅行計画に対する不安を抱いたり、本人証明の手段がない状態に不便さを感じたりした」。HMPOは今回の教訓を生かし、同様の水準の需要が予想される2023年に備えていくとデービーズ氏は話す。
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