オンプレミス回帰(脱クラウド)とAIが“相性抜群”なこれだけの根拠複雑化が進むITインフラと運用【前編】

オンプレミスのインフラとクラウドサービスの双方向の移行が顕著になり、一段とややこしくなる企業のITインフラ。差し迫る課題は、運用をどうするかだ。

2023年05月29日 05時00分 公開
[遠藤文康TechTargetジャパン]

 人工知能(AI)技術で膨大なテキストを学習し、人間のように自然な受け答えをするチャットサービスの利用が広がっている。「AIに仕事が奪われる」という危機感がいよいよ差し迫った現実問題になる半面、人だけでは処理できない仕事量が発生する業務において、AI技術を活用する機運は一気に高まった。

 かねて“複雑化”の問題が指摘される、企業のITインフラと運用。この分野でも、AI技術を活用することの重要性が高まりつつある。昨今はオンプレミスのインフラ(以下、オンプレミス)からクラウドサービスへの移行だけではなく、オンプレミスに回帰する動きも顕著で、企業の課題は一段とややこしくなってきた。

オンプレミス回帰を誘発する課題が浮き彫りに

 ITインフラの動向を踏まえると、AI技術を使った運用の自律化、いわゆる「AIOps」がこれから一段と重要になるとの見方が強い。背景にある問題は、2つに大別できる。「インフラの複雑化」と「人材不足」だ。

インフラの複雑化

 調査会社IDC Japanで企業のインフラ市場のリサーチマネジャーを務める宝出幸久氏は、インフラの複雑化を助長する動向の一例として、クラウドサービスからオンプレミスにシステムを戻す「オンプレミス回帰」(脱クラウド)を挙げる。

 国内では、オンプレミス回帰の動きが既に目立ち始めている。それに加えて、昨今は世界的なインフレや円安が進行し、特にパブリッククラウド(リソース共有型のクラウドサービス)のコストが上昇するリスクが顕在化した。宝出氏は「コスト高を理由にオンプレミス回帰を選ぶ動きが加速する可能性がある」と話す。

 オンプレミス回帰の動きは大きな波になりつつある。それが分かるのは、IDC Japanが国内企業569社を対象に実施した調査で、パブリッククラウドへの移行実績を国内企業に尋ねた設問だ(注)。結果は、以下のいずれかを選択した企業が41.9%に上った。

  • 移行した実績があるが、すでにオンプレミスに戻した実績がある
  • 移行した実績があるが、今後オンプレミスに戻す予定がある

※注:出典は『2022年 国内ハイブリッドITインフラストラクチャ利用動向調査(IDC #JPJ48183222、2022年10月発行)』。パブリッククラウドへの移行対象は「最も重要なワークロードまたは最も規模の大きな環境」と限定。「その他」「分からない」の回答を除く。

 こうしてオンプレミス回帰の動きがある一方で、クラウドサービスの利用拡大の傾向は依然として続いている。宝出氏は「クラウドサービスもオンプレミスも両方使うのが当然の選択になっている」と語る。企業がクラウドサービスとオンプレミス間でシステムを行き来させる結果、インフラの複雑化が顕著になっている状況だ。

 運用面での問題は、クラウドサービスとオンプレミスで別々の運用ツールを使用しなければならない状況に陥りがちな点にある。「運用自律化を進めないと、運用が回らなくなってしまう」(宝出氏)。昨今は定型的な作業を反復するなど、作業ごとに自動化の手法を取り入れる企業は珍しくなくなった。ただし各手法の連携による運用自律化は、必ずしも進んでいない。システムが分散する中で重要になるのは、システム全体を取りまとめて機敏かつ安定的に運用できるかどうかだ。

 インフレや円安のリスクが浮上する中では、「FinOps」の観点でも自律的な手法の重要性が高まっていると宝出氏は指摘する。FinOpsとは、主にクラウドサービスのコストを継続的に最適化する手法を指す。FinOpsを具現化するために、AI技術を使ってシステムの稼働状況を分析したり、最適なリソース量を把握したりする製品やサービスが登場している。

人材不足

 従来、運用は人のノウハウやスキルに依存してきた。人材が不足すれば、企業にとって自律的な運用を検討すべき理由は大きくなる。運用に限らずさまざまな分野でIT人材が引く手あまたの中、運用のスキルを新たに習得しようとする人材は豊富ではなく、「運用人材の確保がしにくくなっている」と宝出氏は話す。特に経験豊富なベテランの運用スタッフが抜けた場合、その穴を埋めるのは容易ではない。

運用自律化への投資意欲

 IDC Japanが実施した上記調査によれば、「インフラ投資で重視する項目」として「AIを活用したITインフラ/運用管理の自動化や自律化」を選択した企業は、22.0%だった。調査項目の中では上から3番目にランクインしており、企業側でも運用自律化の重要性に対する認識は広がっていると見ることができる。

 一方で、実際に運用自律化への投資が進んでいるかどうかは別問題だ。全体として見ると「検討段階で止まる企業が少なくない」と宝出氏は指摘する。IDC Japanの上記の調査によれば、AI技術を使って運用の自動化や自律化を図っている企業は、13.5%にとどまる。

 従来は人に掛けてきたコストを運用自律化に振り分けるのは、企業にとって大きな方針転換になり得る。人の運用を学習したAIモデルの導入にしても、本当にAIモデルによる提案内容や判断を信頼できるのかどうかという問題もあるため、企業にとっては簡単な決断にはならない。

 運用自律化に取り組む際は、「まずは導入しやすい部分で運用自律化の手法を使い、役に立つことを確認しながらその適用範囲を広げるやり方もある」と宝出氏は提案する。AI技術を導入しやすいプロセスの一つは、例えばシステム監視だ。大量に発生するアラートを、AIモデルが重要なものだけに絞り込んだり、さまざまなデータと関連付けをしたりすることで、運用担当者はどのような対処が必要なのかを判断しやすくなる。こうした活用であれば作業を効率的かつ効果的にしつつ、重要な判断のプロセスは人に残すことができる。

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