活用の機運が高まる人工知能(AI)技術。企業ITの分野でもAI技術を搭載した製品やサービスは多彩だ。自律型運用が必要になる背景や、用途の一例を紹介する。
“第4次AI(人工知能)ブームの到来”とも表現される昨今、さまざまな業務においてAI技術を活用する取り組みが進展するとの見方が強まっている。クラウドサービスの活用が広がり、データが日々生まれ続ける中で、企業のIT運用に新たな課題が生じることは不思議ではない。
AI技術を製品やサービスに取り入れる動きは、「統合運用管理」といったシステム横断の領域ばかりではなく、セキュリティ対策やネットワークなど個々の領域においても目立つ。背景には何の問題があり、解決のためにAI技術をどう活用できる可能性があるのか。
運用ツールのサイロ化(孤立していて連携できていない状態)を課題として挙げるのは、日本IBMのソフトウェア事業部で運用自律化分野を統括する上野 亜紀子氏だ。その背景には、複数のクラウドサービスとオンプレミスのインフラ(以下、オンプレミス)の併用、仮想マシンとコンテナの利用などによって、システムの構成要素が多様化している現状がある。
システムが多様になり、システムごとに別々の運用ツールを使わざるを得ない場合、企業は各システムの内部で何が起きているのかを把握しにくくなる懸念がある。それと同時に、何らかのトラブルが発生した場合に、迅速な対処ができなくなる問題に直面することも考えられる。こうした課題が深刻化するほど、AI技術の有用性は高まる。
AI技術を使った運用の自律化「AIOps」を実現する上で、上野氏は「個々の運用ツールのデータを集約して可視化し、システムの可観測性(オブザーバビリティ)を高める必要がある」と指摘する。
AIOpsは目的に応じて、さまざま用途が考えられる。初歩的な用途は、状況把握までを自律化し、どのような対処が必要なのかを人が判断しやすくすることだという。例えばイベント(システム稼働状態の変化)情報のグルーピングやフィルタリングがある。メトリクス(システムの稼働状態を把握するためのデータ)をAIモデルに分析させることで、故障の予兆検知も可能だ。自律化の範囲をどこまで広げるかは、企業の判断次第だと言える。
クラウドサービスの利用が広がる中で目立ちつつある課題は、適切にコスト管理をすることの難しさだ。「クラウドサービスとオンプレミスはリソース配分の考え方が異なる点に注意が要る」と上野氏は指摘する。オンプレミスはリソース量を頻繁に変更することがないため、一定の余裕を持たせたリソース配備が基本。クラウドサービスでは、余分なリソース量はコスト上昇を招き、絞り過ぎはアプリケーションの処理速度といったパフォーマンスを落とす一因になる。
こうした違いを踏まえてクラウドサービスを利用することが重要だ。だがCPUやメモリ、ストレージなど、さまざまなリソースの最適量を判断するのは容易ではない。「AIモデルがボトルネックや調整すべき点を提示することで、最適な状態に近づけるための意思決定がしやすくなる」と上野氏は語る。
人の作業だけでは対処し切れない状況は、さまざまな領域に広がりつつある。自律型運用の機能を備える製品やサービスが多彩なのは、こうした状況の裏返しだ。セキュリティベンダーSentinelOneでアジア太平洋および日本担当のバイスプレジデントを務めるエバン・デビットソン氏は、次のように話す。「高度化する脅威に対抗するには大量のデータを収集して分析しなければならず、それは人の作業としては複雑過ぎる」
例えばSentinelOneが提供するエンドポイントセキュリティツールは、AIモデルがデータの相関分析とコンテキスト化(振る舞いの状況や脅威の情報を関連付けて把握できるようにすること)を担い、状況をまとめる。担当者は何の対処が必要なのかを判断しやすくなり、インシデント対処を迅速化しやすくなる。
データ保護ツールベンダーのVeritas Technologiesも、同社のツールにAI技術による自律化機能を搭載し始めた。日本法人ベリタステクノロジーズの常務執行役員を務める高井隆太氏は、「データ保護の分野も単に“人の作業を反復する”だけの自動化では対処できなくなりつつある」と語る。
ランサムウェア(身代金要求型マルウェア)といった脅威から事業を守るためには、保護すべきデータの把握や、バックアップデータの正常性の確認、復旧を迅速化するための作業などが重要になる。一方でデータがクラウドサービスやオンプレミスに散在したり、データ量が増大したりするほど、作業量や確認事項は膨らむ。高井氏は「学習と適応をしながら、人の手をなるべく介さずに機能を実行する、AIモデルによる自律化が重要になりつつある」と話す。
AI技術によって運用を改善できる可能性があるのはネットワーク分野も同様だ。ジュニパーネットワークスでソフトウェアの技術分野を統括する塚本広海氏は「単にネットワークがつながればよいのではなく、運用者やエンドユーザーがより快適に使えることが重要になっている」と話す。クラウドサービスの導入によるネットワーク構成の複雑化、Web会議システムをはじめとしたリアルタイム性のあるアプリケーションの利用拡大など、ネットワークが追随すべき多様な変化が起きていることが背景にある。
人の作業に依存しているのでは事業の機敏性や、エンドユーザーの満足度を損なう懸念が生じるため、人に依存しない運用が重要になってきたのだという。「AI技術を使って自律的に可視化や分析をすることで、プロアクティブ(先を見越した姿勢)な対処が可能になる」と塚本氏は強調する。
システムに多様な変化が起きていることに加えて、人材不足が懸念される中で「人の経験値に依存しない運用」が必要になっている。このこともAI技術の必要性が高まる一因であり、各ベンダーに共通した見方でもある。
一方で各種の製品が備える自律化機能は、人の判断や作業を“補完する役割”に重点を置いていることも現状の特徴だと言える。運用負荷が課題になる場合は、部分的にでも自律化を取り入れながら、運用体制を強化することが重要だ。
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