英国政府は、従来のがん診断手法を補完する技術として、デジタルパソロジー(デジタル病理画像による病理診断)技術の普及を強化する計画を打ち出している。何が起きているのか。
デジタルパソロジー(デジタル病理画像による病理診断)は、がん診断の精度向上と迅速化につながる技術として注目を集めている。病理診断に使うスライドガラス標本を専用スキャナーでスキャンし、デジタル画像を作成することで、セカンドオピニオンの入手や医療関係者間での診断結果の共有が容易になるのもメリットだ。
英国では2023年11月の議会で、英国国家スクリーニング委員会(UK National Screening Committee:NSC)が英国保健省に対し、病理検査におけるデジタルパソロジーの利用機会を増やすよう勧告した。同委員会の働き掛けが、デジタルパソロジー技術の普及の追い風になる可能性がある。どのような動きが生まれ始めているのか。
がんを早期発見し、早期に治療を開始することは、回復を早め、生存率を向上させる傾向がある。「早期発見したがんの症例は増えており、国民保健サービス(NHS:National Health Service)は記録的な数のがん患者を診察、治療している」と英国保健相アンドリュー・スティーブンソン氏は言う。デジタルパソロジーの利用が増えれば、より深く、踏み込んだ治療を開始しやすくなる。「がんとの闘いに新たな武器が手に入る」とスティーブンソン氏は期待を寄せる。
イングランド地域を管轄するNHS Englandは、医療機関の病理科向けに、デジタルパソロジーの最適な使用方法に関するガイダンスを発行する動きを見せる。一部の医療機関はデジタルパソロジーを導入済みだが、NHS全体で見ればいまだに顕微鏡とスライドガラスを使う病理診断が一般的だ。
NSCは2020年に、英国乳房病理調整委員会(National Coordinating Committee for Breast Pathology)と英国王立病理学会(Royal College of Pathologists)から、デジタルパソロジーの有効性に関する調査要請を受けた。NSC委員長を務めるマイク・リチャーズ氏によると、NSCは英国国立・医療社会福祉研究所(National Institute for Health and Care Research)と共に、デジタルパソロジーの有効性を評価する研究を推進した。「この研究を受けて、政府はデジタルパソロジーの普及に向けたNSCの勧告を承諾した」とリチャーズ氏は説明する。
NHSがデジタルパソロジーを推進するのは目新しい動きではない。2018年に英国政府は、英国全土でデジタルパソロジーおよび医用画像センターのネットワークを構築することを目指して公的資金を投入し、幾つかのプロジェクトが結実した。成果の一つが医療データの相互運用性に関する資料「Interoperability Recommendations」だ。この資料は英国政府の研究資金助成機関であるInnovate UKと、生物医学研究支援機関のMedical Research Council(MRC)が作成し、2023年9月に公開した。この資料は、英国の医療機関がデジタルパソロジーを利用する際の共通標準を作成することと、標準規格を活用してデジタルパソロジーの検査プロセスにおけるガイドラインを確立することの重要性を訴えている。
2022年には17件のNHSトラスト(NHSにおける病院運営組織)が、英国ウェストミッドランズにおけるがん診断変革計画の一環としてデジタルパソロジーシステムを導入した。この施策は17件のNHSトラスト傘下施設に4つのネットワークを導入して、同一システムにデータを集約するものだ。治療と診断のばらつきを減らすとともに、患者の転帰(治療の結果)を改善する狙いがある。
英国保健省直下の国営企業でゲノム解析を推進するGenomics Englandも、全ゲノム解析をデジタルパソロジーの画像に結び付けるプロジェクトに取り組んでいる。「このプロジェクトは臨床試験の在り方を変革し、がん患者向けの新しい標的治療を生み出す可能性がある」と同社は期待を込める。
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