AI技術の発展に欠かせない存在である機械学習だが、現代に至るまでどのような軌跡をたどってきたのか。1950年代から1970年代の歴史を解説する。
機械学習は人工知能(AI)の中核技術として、画像認識や自然言語処理、自動運転など幅広い分野で活用されている。この技術が確立されるまでには、さまざまな発見と試行錯誤が繰り返されてきた。機械学習の進化の歴史を、1950年代から1970年代に焦点を当てて解説する。
心理学者フランク・ローゼンブラット氏が、人間の脳の仕組みを模倣した計算式システム「パーセプトロン」を発表した。これはデータから学習が可能な初期の人工ニューラルネットワーク(ANN:Artificial Neural Network)であり、ディープラーニング(深層学習)およびニューラルネットワークの基礎となった。
計算機科学者アーサー・サミュエル氏は、機械学習について、「明示的にプログラムしなくても学習する能力をコンピュータに与える研究分野」として定義した。
数学者オリバー・セルフリッジ氏は、論文「Pandemonium: A Paradigm for Learning」を発表した。この論文は、自律的にパターンを見つけ出して自己改善できるモデルについて説明したもので、機械学習分野における画期的な貢献とされている。
スタンフォード大学の大学院生のジェームズ・アダムズ氏が、カメラを搭載した遠隔操作可能なロボット「Stanford Cart」を開発した。Stanford Cartはカメラで捉えた周囲の情報を基に、自身の動きを推測することができた。
コンピュータ科学者ドナルド・ミッキー氏が、コンピュータ「MENACE」(Matchbox Educable Noughts and Crosses Engine)を開発した。強化学習の手法を用いて、ボードゲーム「Tic-Tac-Toe」で最適な戦略を選ぶようプログラムされている。
コンピュータ科学者のエドワード・ファイゲンバウム氏、ブルース・G・ブキャナン氏、分子生物学者ジョシュア・レーダーバーグ氏、科学者カール・ジェラッシ氏が、プログラム「DENDRAL」を開発した。これは、化学者が新しい有機分子を見つける手助けをする、世界初と考えられている専門家システムだ。
大学教授のジョセフ・ワイゼンバウム氏は、チャットbotの元祖である「ELIZA」を開発した。ELIZAは人間との会話をシミュレーションして、あたかも人間のような感情があるように振る舞うことができた。
研究機関SRI International(旧称Stanford Research Institute)は、世界初と考えられている、移動能力を持つ汎用(はんよう)ロボット「Shakey the robot」を開発した。このロボットには、AI技術やコンピュータビジョン、ナビゲーション機能、自然言語処理(NLP)といった技術が使われており、後に自動運転車およびドローンの原型として知られるようになった。
データの中から一番近いものを探し出す「k近傍法アルゴリズム」が登場し、コンピュータは基本的なパターン認識能力を備えるようになった。
「巡回セールスマン問題」というよく知られた問題がある。セールスマンが各都市を1回訪れるという条件で、都市を巡る最適経路を決める問題だ。この問題を考える上で、最近傍法が用いられた。
大学教員アーサー・ブライソン氏と数学者のユー・チー・ホウ氏は、システムを効率的に動かすための「最適制御」の研究において、「誤差逆伝播」(バックプロパゲーション)の考え方を導入した。バックプロパゲーションとは、予測データと正解データの誤差を計算する学習方法だ。これにより、多層ニューラルネットワークの効率的な学習が可能となり、ディープラーニングの基礎につながった。
同年、マービン・ミンスキー氏と数学者シーモア・パパート氏は、パーセプトロンに関する論文を発表した。ニューラルネットワークの限界を指摘したことで、ニューラルネットワークの研究は一時停滞し、より明確なルールに基づいたシンボリックAI(ルールや論理を使った推論型のアプローチ)の研究が注目されるようになった。
数学者ジェームス・ライトヒル氏が報告書「Artificial Intelligence: A General Survey」を発表した。報告書では、AI技術が実用化に至っていないことや、その技術的な限界が指摘され、英国政府によるAI研究への支援を大幅に削減する一因となった。
コンピュータ科学者の福島邦彦氏が、多層構造のANN「ネオコグニトロン」に関する研究を発表した。この研究は、パターン認識分野に大きな貢献をもたらし、特に画像認識などの技術の基盤を確立した。
次回は、1980年代〜2000年代における機械学習の進化を解説する。
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