AIブームの陰で過熱する「AI半導体」の“深刻なごみ問題”とは?エコなAIチップ製造への道【前編】

AIチップの需要が急上昇している中、その裏で深刻化するのが使用済みチップの処理問題だ。なぜAIチップのリサイクルは難しいのか。その実態に迫る。

2025年02月07日 05時00分 公開
[Jacob RoundyTechTarget]

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 AI(人工知能)技術の盛り上がりが続く中、AI技術に関する演算を実行するための集積回路やその関連部品(AIチップ)需要が生まれている。2022年11月にAIチャットbot「ChatGPT」が登場して以来、AI業界では競争が激化している。世界中のハードウェアベンダーが、高性能と最先端機能を持つAIチップの開発に躍起になっている一方、古いAIチップのリサイクルや資源収集における持続可能な取り組みはあまり重視されていない。

 プロセッサベンダーは、新しいAIチップを続々と打ち出している。その代表例がNVIDIAだ。同社は2024年11月に時価総額で3兆6000億ドルを超え、米国最大の上場企業となった。この急速な成長をけん引しているのはAIチップだ。

 こうしたAIチップの急激な成長と普及に伴い、AIチップの開発に関する倫理的な問題も浮上している。再利用性に配慮したAIチップ製造に使用する材料、持続可能な資源の確保、環境への配慮、AIチップの寿命について、電子廃棄物への影響に関する問題提起もある。環境に配慮したAIチップ製造について考えてみよう。

「AIチップのリサイクルプログラム」は存在するのか?

 資源の枯渇とAIチップの廃棄に伴う環境問題への懸念が広がる中、個人利用者だけではなく、AIチップを大量に使うデータセンターにもリサイクルの仕組みが求められている。だが今のところ、そのようなリサイクル制度は十分に整備されていない。

 一部の地域や自治体には電子機器の回収制度を設けているが、AIチップに特化した制度の整備は進んでいない。Best Buyなど、一部の家電量販店は消費者向けにリサイクルプログラムを提供しているが、データセンターにはあまり選択肢がない。プロセッサベンダーがそのようなプログラムを用意しているならば、企業は古いGPU(グラフィックス処理装置)を送り返したり、リサイクルセンターに持ち込んだりできる。ただしこうした取り組みはまれであり、材料や部品を回収できる保証はなく、それらを再利用可能な状態に再生できる保証もない。

 リサイクルには複数の障害がある。半導体やマイクロチップは非常に小さく、リサイクル可能な材料を取り出すのが困難だ。取り出す工程では汚染や排出量増を伴うことがほとんどで、取り出せる量も限られる。リサイクルされない製品は、埋立地や発展途上国のリサイクル施設に送られる可能性がある。電子デバイスとシステムの将来の発展に関する予測をまとめたロードマップ「International Roadmap for Devices and Systems」は、「こうした施設は環境安全指針を整備していなかったり、児童労働を実施していたりする可能性がある」と指摘している。

 AIチップ製造業界は、AIチップから半導体を分離する技術やリサイクル技術、再利用性を考慮した設計技術を進化させるとともに、環境を優先した製造を実現する循環型経済を構築しなければならない。

環境に影響を与えるAIチップ産業の急成長

 AIチップを再生できれば理想的だが、容易ではない。部品は使っているうちに経年劣化し、完全には復元できない。再生チップでは、新たなAIアプリケーションが要求するレベルの性能を発揮できない可能性がある。以下は、AIチップ産業の急速な成長におけるさまざまな要因と、それらがもたらす環境への影響の例だ。

チップの寿命と需要

 半導体業界は急速に変化しており、状況を複雑にしている。チップの標準的な寿命は3〜5年だが、プロセッサベンダーはそれよりも速いペースで高性能かつ先進的なチップを生産している。

 新型チップの部品製造には時間を要する。製造工程は複雑かつ精密だ。半導体工場では、シリコンウエハーの洗浄に必要な超純水(極めて高い純度を持つ水)を作るために水を消費する。この工程は時間と資源を消費し、無駄も発生する。これらの部品の需要が供給を上回ると、環境問題を悪化させる要因になる。

再生できない材料の使用

 AIチップを構成するのは、トランジスタ、半導体、回路、絶縁体、配線、コネクターなどの電子部品だ。これらの部品を製造するためには、銅、ガリウム、ゲルマニウム、シリコンなどの主要材料の他、さまざまな希土類元素(レアアース)や重要鉱物などが必要になる。

 これらの資源の大半は有限であり、企業がチップを製造すればするほど、これらの有限資源の枯渇が進む。ガリウム、ヒ素、セレンなど一部の化学物質は、人体や環境に害を及ぼす危険性のある有害物質だ。製造プロセスでは電力や水、労働力も必要になり、適切な管理を怠れば環境に負荷を掛ける廃棄物が発生する。

電子廃棄物の増加

 国際連合(UN)のレポート「The global E-waste Monitor 2024」によると、世界の電子機器廃棄量は、2010年以降、公式に報告されているリサイクル量の5倍の速さで増加している。2022年には6200万トンの電子廃棄物が発生し、2010年の3400万トンから82%増加した。電子廃棄物の量は2030年には2022年から32%増加して、8200万トンに達すると国際連合は推定している。電子廃棄物の総量のうち、適切にリサイクルされたのは22.3%であり、電子廃棄物のリサイクルで賄われたレアアースはおよそ1%に過ぎなかった。

 プロセッサベンダーが監視や改善を怠れば電子廃棄物は増加の一途をたどり、部品の供給はますます難しくなる恐れがある。その結果、チップの製造による悪影響が拡大しかねない。


 次回は、環境に配慮したAIチップ製造の方法を提唱する。

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