富士通は今後、健康・医療情報を中心にしてライフサイクル全体の情報を包括的に統合・管理できるICT基盤「PLR(Personal Life Record)」の構築を目指す。
富士通は7月5日、報道機関を対象に同社の医療分野における取り組みを説明した。同社は1970年代に病院向けの医事会計システムの提供を開始し、大規模病院から診療所までさまざまな医療機関に対して、電子カルテシステムを中心にした診療支援システムを提供している。また同社の医療ビジネスは営業部門300人、開発部門1300人(関連企業含む)の体制を取り、2009年度の売上規模は944億円にも及ぶ。
同社のパブリックリレーションズ本部 政策企画部 統括部長、御魚谷 武氏は「全人口の23%を60歳以上が占めるという超高齢化社会の到来に伴い、医療に対する社会不安が増大している」と説明した。また、患者(住民)、医療機関、行政のそれぞれの立場で医療分野における“不安”があるとし、そうした不安を示す幾つかの統計結果を紹介した。
患者の不安として、内閣府大臣官房政府広報室が2009年6月に発表した「国民生活に関する世論調査」の結果が紹介された。同調査では「日常生活の中で『悩みや不安を感じている』という問いに対して「自分の健康」(49.2%)、「家族の健康」(41.4%)という回答が上位を占めていた(複数回答)。また、都道府県別の人口10万人当たりの医師数の調査では、最大の京都府(279.2人)と最少の埼玉県(139.9人)で約2倍もの差があるなど、医師の偏在や地域間格差があると説明(※)。さらに、2007年度は前年比3%増の34兆円だった国民全体の医療費は今後も増大し続け、2025年度には56兆円になるという予測も紹介した。
※:厚生労働省大臣官房統計情報部「医師・歯科医師・薬剤師調査」2008年。
その上で御魚谷氏は、日本政府のIT戦略本部が2010年5月に発表した『新たな情報通信技術戦略』などの政府の取り組みを踏まえ、「これからは患者の視点では“治療の見える化”が、病院経営の視点では“経営の見える化”が必要である」と語り、そうした情報の共有や連携、活用のためにはICTの利活用が不可欠であるとその意義を説明した。
また、御魚谷氏は以下の5点を医療ICT普及への課題として挙げた。
上記の課題に対して、富士通はどう対応していくのか? 同社の執行役員 ヘルスケアソリューション事業本部 本部長、合田博文氏は「医療ビジネスの基軸として地域医療連携を推進し、個人を中心とした健康全般の情報を統合する『PHR(Personal Healthcare Record)』から個人を中心とした生活全般の情報統合『PLR(Personal Life Record)』の実現を目指す」と説明した。
PLRとは「個人に関する生涯のデータを一元的に集約する」というもの。そのためには、散在するカルテ情報や介護・健診情報だけでなく、社会保障情報や金融情報までを含めた生涯にわたるデータの連携・管理基盤の構築が必要となる。
同社は「ヘルスケアクラウド」という巨大な情報連携ネットワークによって、PLRの実現を目指す。また、その前提となるPHRを同社の地域医療連携ネットワークソリューション「HOPE/地域連携」を軸にして実現させ、PLRへと発展させていくという考えだ。
既に同社では、旭川赤十字病院(北海道)や「医療ネットしまね」(島根県)などのHOPE/地域連携を採用した地域医療連携の実績がある。今後は「地域医療再生基金」を活用して地域医療連携を目指す各地域との取り組みなどによって、さらなる事業の拡大を目指すとしている。
富士通は同日、介護事業者支援システム「HOPE/WINCARE-ES」を発表した。HOPE/WINCARE-ESは、介護情報を一元管理することで、介護保険請求処理を支援するシステム。同社では、中堅病院向け電子カルテシステム「HOPE/EGMAIN-NX」と連携することで病院と介護事業者とのシームレスな情報連携を支援できるとしている。HOPE/WINCARE-ESの販売価格は180万円からで、7月23日より出荷を開始する。
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