短納期・多品種、同時並行開発が主流である組み込みソフトウェア開発。そのプロジェクトを効率的に管理する上で求められる管理ツールの要件とは一体何だろうか?
短納期・多品種が基本で複数のプロジェクトが同時進行することが多い「組み込みソフトウェア開発」。1人の開発担当者が複数のプロジェクトに携わることが多く、プロジェクト管理者は、複数プロジェクトを横断的に管理しなければならない。
組み込み領域に注力した事業を手掛けている横河ディジタルコンピュータは、2002年から“組み込み開発プロジェクトの見える化を実現する計画・進ちょく管理ツール”として「microEPS」を提供している。
横河ディジタルコンピュータの組込みプロセスシステム事業部(EPS事業部)コンサルティング企画部 マネージャの小針孝之氏は「組み込みソフトウェア開発は“職人作業的な一面”もあり、求められる管理ツールには現場のニーズに適応できる柔軟性が必要となる」と説明する。そのため、「組み込み開発プロジェクトに適応した管理ツールの開発に当たっては、一般のシステム開発プロジェクトとは異なる“組み込み開発ならではの要件”も求められる」と語る。
さらに「一般的な開発プロセス改善モデルでは、手順書の作成や実施後のエビデンス報告などが必要であり、単純に帳票を増やしてしまうと、プロジェクトリーダーの業務負荷がさらに増大する」と指摘。その上で「microEPSの開発コンセプトは“プロジェクトリーダーの業務負荷を軽減する”ことだった」と説明する。同社は、組み込み開発におけるプロジェクト計画や進ちょく管理プロセスをツール化することで、「プロジェクトリーダーの属人的な管理業務を最小限に抑えるとともに、開発プロジェクト全体の見える化を目指した」(小針氏)と、microEPSの開発経緯を説明する。今回は、横河ディジタルコンピュータのプロジェクト計画・進ちょく管理ツールであるmicroEPSを紹介する。
microEPSは、「複数プロジェクトの横断的な進ちょく管理」や「現場の開発状況に合わせて柔軟な変更」「早期に導入できて簡単に使えること」などをコンセプトとしたツールだ。microEPSではプロジェクトに関する情報を一元管理するサーバを設置し、各ユーザーはWebブラウザ経由でその情報を閲覧するというクライアント/サーバ型のシステム構成を取る。
microEPSには「ホーム」「工程管理」「進捗管理」「文書管理」「課題管理」「障害管理」「検索」「日別工数」などの機能が搭載されている。これらの機能は、メイン画面上部のタブメニューに分かりやすく設置されている。また、導入時には一部の機能のみを選択して利用することもでき、導入後にカスタマイズすることも可能だ。小針氏は「こうした開発現場のニーズに合わせてカスタマイズできる柔軟性の高さも、microEPSならではの特徴」としている。
同社のEPS事業部 eSPITSツール支援グループ リーダの中山司郎氏は「一般的には進ちょくを把握するために作業別のガントチャートを確認するが、microEPSを使いこなすプロジェクトリーダーはむしろガントチャート以外の情報から進ちょくを確認している」と、ほかのツールとの差別化ポイントを説明する。また、「microEPSでは、プロジェクトに関する情報を一元管理することで、プロジェクトを横断した管理や過去データの再利用などが容易に行える仕組みを提供し、プロジェクトリーダーの管理業務の負荷を軽減する」とそのメリットを強調する。
ここからは、microEPSの主要な機能やその特徴について、組み込み開発プロジェクトに携わる現場担当者やプロジェクトリーダー、プロジェクトマネジャーそれぞれの視点で紹介していく。
現場担当者のメイン機能となるのが、日々の進ちょく状況を確認・登録する「日別工数」だ。現場担当者はボタンを押すだけで複数プロジェクトを横断して自身の作業を確認できる。現場担当者が日々の作業時間と進ちょく率を入力すると、リアルタイムにサーバで集計される。集約されたデータは、工程管理や進ちょく管理のガントチャートなどにも反映され、管理者は複数プロジェクトの実績状況を横断的に確認できる。
また、1週間分の作業登録データをそのまま週報としても利用でき、現場担当者の報告業務の負荷を軽減する。さらに進捗管理機能を利用することで、担当作業の予定と実績を比較した進ちょく状況を視覚的に確認できる。
プロジェクトリーダーを支援する機能としては「工程管理」機能が挙げられる。WBS(作業分解図)をベースに構成されている工程管理画面では、WBSをチェックするだけでプロジェクトの進ちょく状況を把握できる。また、フォルダアイコンが青色の場合は進行中、黄色の場合は未着手など、各作業の進ちょく状況を色分けして示すとともに、遅れが生じている作業には「!」マークを表示させることで、WBS画面だけでプロジェクトの進ちょく状況を確認できる。
また、各作業の詳細画面ではフリーテキストによる説明スペースも用意しており、ここには作業の目的や概要、完了条件、参考事例など、管理作業を円滑に進めるための情報を自由に書き込むことができる。さらに、ファイルの添付やURLリンクの登録もできるため、成果物や手順書、チェックシートなどのドキュメントを張り付けてプロジェクトメンバーで共有することも可能だ。
そのほか、microEPSでは過去に作成したプロジェクトのWBSを「ひな型WBS」としてテンプレート登録できる。ひな型WBSとして保持できる情報は、各工程の予定や詳細情報、添付ファイル、課題カテゴリ、メトリクス定義などがある。類似プロジェクトが発生した際にはひな型WBSを再利用することで、開発計画の策定作業を軽減し、プロジェクトの早期立ち上げを実現できる。
microEPSを活用すると、プロジェクトマネジャーはプロジェクト進ちょくサマリーによって、複数プロジェクトを横断したプロジェクト全体の作業予定と進ちょく状況をふかん的に把握することができる。また、開発担当者単位の業務負荷率をグラフで確認できるため、どの担当者がどれだけの業務を抱えているのかといった、リソース管理にも役立てることができる。
さらに、現場担当者やプロジェクトリーダー、プロジェクトマネジャーすべての階層で活用できるのが「課題管理」だ。プロジェクトの作業を進めていく中で、問題点や疑問点、課題などが発生した際、その内容を課題管理画面で登録すると、各メンバーのホーム画面に新着順に課題が一覧表示され、課題に対してフォローを入れることもできる。これにより、個人持ちになりがちな課題をプロジェクトメンバー全員で共有し、解決策を考えることが可能となる。
microEPSの価格体系は、指名ユーザー制となっている。ただし、閲覧だけのユーザーはライセンスにはカウントされずに利用できる。閲覧ユーザーとは具体的には、データの参照だけを行う上位管理者や品質保証担当などを指す。microEPSの現バージョンは「3.10」で、2010年中をめどに「4.0」へのメジャーバージョンアップを実施する予定。
今後の機能強化について、中山氏は「集めたデータをmicroEPS自身が分析し、より視覚的に表示できる“ダッシュボード機能”を追加する」としている。また、小針氏は「業界標準の開発プロセスへの準拠を目指す企業を、積極的にサポートしていく」と今後の方針を示した。具体的には、ソフトウェア開発の能力成熟度モデル統合「CMMI」や、車載ソフトウェア開発の業界標準プロセスモデル「Automotive SPICE」に準拠したアクティビティをmicroEPSのWBSに埋め込み、アドオン機能として提供するという。
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