加速するSAP基盤の仮想化、クラウド導入も視野に
【事例】眼鏡のHOYA、グローバル化に向けてSAP基盤を仮想化
クリティカルな基幹システムを仮想化基盤に移行させる企業も増えているようだ。SAPシステムをVMware製品に適用した際のベンチマークテスト結果、VMware vSphereを使った国内企業のSAP基盤仮想化事例を紹介する。
ヴイエムウェアが2011年11月に開催したカンファレンス「vForum 2011」において、同社テクノロジーアライアンス部長 森田徹治氏がSAPのシステムを仮想化基盤に移行する意義と可能性、実際に取り組んだ国内製造業の事例を紹介した。
ヴイエムウェアが考えるサーバ仮想化基盤の発展プロセスは、部門やシステムごとにバラバラに導入される「サイロ型」、統一基盤の適用範囲を広げてリソースを共有化する「統合型」、そして最終形は全社規模のプライベートクラウド基盤となる「サービス型」だ。
森田氏は「統合型からサービス型へ移行する際は、基幹システムの仮想化が避けて通れない」と指摘。ヴイエムウェアの見立てによれば、仮想化しやすいインフラ系サーバやファイルサーバだけでは、一般に、企業が持つサーバ全体の約30%にしかならない。データベース(DB)サーバやコラボレーションサーバ、パッケージ/カスタムアプリケーションも仮想化基盤に載せれば約60%に達する。このレベルでこそプライベートクラウド導入の効果が得られるというわけだ。
SAPシステムへのVMware適用が急上昇
実際、よりクリティカルな業務システムを仮想化基盤に移行させる企業は増えているようだ。ヴイエムウェアの顧客調査によれば、2010年1月段階でOracleミドルウェアとOracle DBへのVMware適用率(インスタンスベース)は各25%、SAPシステムが18%だった。2011年4月にはそれぞれ34%(Oracleミドルウェア)、28%(Oracle DB)、28%(SAPシステム)へと高まっている。
特に基幹システムの代表格であるSAPシステムの10ポイント上昇が目立つ。SAPは2007年末からVMware製品を正式サポート。2011年8月発表の最新版「VMware vSphere 5」についても直後に対応を発表した(基本は64ビット環境のWindows/Linuxだが、それ以外も一定条件の下で対応)。こうしたSAPの姿勢がSAPシステムへのVMware適用を後押ししている。
森田氏は「SAP自体がVMware製品を積極活用してグローバルIT基盤を運用しており、1600台以上のVMware ESXホスト上で2万5000台近い仮想マシンを稼働させている(サーバ全体では4万3500台以上)。また、SAPが現在進めるIT基盤の再構築プロジェクトにおいて、「VMware Cloud Infrastructure」(VMware vSphere 5と同時発表されたスイート製品)を採用し、仮想化の割合を80%まで高めると表明している」と話した。
オーバーヘッドを6%に抑え込むVMware vSphere 5
性能が大幅に向上したVMware vSphere 5が新登場し(関連記事:ライセンスのカウント方法も分かる! VMware vSphere 5の全貌)、さらにVMwareをSAPシステムに適用しやすくなったのは間違いないだろう。森田氏が紹介したSAPシステム標準の「SAP SDベンチマーク」の結果は次の通りだ。
テストに用いたサーバは、Xeon X5690/3.46GHz(2ソケット・12コア)搭載の富士通「PRIMERGY RX300 S6」。ハイパースレッド機能で1コアを2スレッドに分け、1つの仮想マシンに24vCPUを割り当てる。メモリは96Gバイト。この上にSUSE LinuxとRDBMSの「MaxDB 7.8」、販売管理モジュール「SAP SD(Sales&Distribution) 6.0」を実装した2-Tier構成のサーバを構築し、並行ユーザーは4600人、平均応答時間は0.99秒、SAPS値(※)は2万5120を達成した(参考:First SAP SD Benchmark on vSphere 5)。
(※)SAPS(SAP Application Benchmark Performance Standard)は、SAP Business Suite環境でスループットを測定するための単位。100SAPSは、標準SDアプリケーションベンチマークで1時間に2000の業務項目を完全に処理する能力として定義されている。なお、SD標準ベンチマークの「完全な業務処理」とは、1回の注文に対する業務ワークフロー(受注伝票の作成、出荷伝票の作成、受注伝票の照会、出荷伝票の変更、出庫確認、受注一覧の作成、請求書の作成)を完遂することを意味する。
前バージョンや物理サーバ環境と比較すると、VMware vSphere 5の性能向上がよく分かる。VMware vSphere 4.1によるSAP SDベンチマークは並行ユーザーが2000人強(ハードウェアも一世代前のPRIMERGY RX300 S5)。つまり、VMware vSphere 5は処理できる並行ユーザーの数が2倍強となったわけだ。仮想マシンごとサポートするvCPUの数が従来の8個から4倍の32個にとなったことが大きい。また、今回のSAP SDベンチマークをPRIMERGY RX300 S6上で直接実行したところSAPS値は2万6630。仮想サーバ環境より6%上昇したにすぎない。つまり、仮想化したことによるオーバーヘッドはわずか6%だ。
「処理が重いSAPは仮想化に向かない」「仮想化するとオーバーヘッドが大きく、余分なリソースが必要になる」などの既成概念は既に覆っている。一部の先進的な企業は実践の中でそのことを熟知している。
次に森田氏は、VMwareによる仮想化基盤へSAPアプリケーションを移行した国内の有力製造業の事例を紹介した。
VMware vSphere 5に関する記事
仮想化基盤への移行で運用コストを75%削減
光学ガラス大手のHOYAは、1996年にSAPシステムを初導入。以来、コア業務の財務・管理会計(FI/CO)、販売・購買・在庫管理(SD/MM)から戦略計画ツール(SEM)、EAIツール(NetWeaver PI)までをSAP製品で固め、世界27カ国108拠点で8インスタンスのSAPシステムを展開していた。
ただし従来は、UNIXとOracle DBでSAPシステム基盤を構築していたため、運用・保守コストが高く付いていた。また、事業拡大やグローバル化が進むにつれ、変化へ迅速かつ柔軟に対応できないこともネックとなっていた。
そこで2009年夏から1年かけて、SAPシステム基盤の再構築計画を練り上げた。それはVMware vSphereとMicrosoft SQL Serverを組み合わせたプライベートクラウド環境を構築し、それを外部事業者のホスティングサービスで運用・監視するというものだった。ハードウェアとして採用したのは、デルのPCサーバ「PowerEdge R610」とiSCSI仮想化ストレージ「EqualLogic PS6000」だ。2010年7月から8インスタンスとも移行作業を始め、11月には新基盤を稼働させた。
その結果、運用・保守コストを4分の3も削減することに成功。さらに一部業務では処理速度が2倍になった。また、VMware vSphereによるサーバ仮想化とEqualLogicによるストレージ仮想化が相まってシステムの柔軟性・拡張性が高まり、VMware vSphereの高可用性技術であるvSphere vMotionとvSphere HA(関連記事:VMware vSphereで仮想マシンの信頼性を向上させる方法)によって可用性が担保されているという。仮想化によりハードウェアの制約がなくなったことで、一部で使用する古いSAP R/3 4.0Bの延命にもつながった。
グローバル化に対応するためにSAPを仮想化基盤へ
オイルレスベアリング最大手で、高い免震・制振技術でも知られるオイレス工業もSAPシステムを仮想化基盤へ移行した1社だ。同社は2000年問題を契機にメインフレームをHP-UX版のSAPシステムへリプレース。適用業務は、財務・管理会計(FI/CO)、販売・購買・在庫管理(SD/MM)、生産管理(PP)、人事管理(HR)など広範囲に及んだ。
オイレス工業が抱える課題もビジネスの急激なグローバル化に伴うものだった。欧州・アジア・米国の14拠点とデータ連携するにはSAPシステムの24時間稼働が求められたが、夜間のバックアップ時にシステム停止していた。ビジネスの環境変化にSAPシステムが柔軟に対応できていなかった。
そこでオイレス工業が選択したのは、SAPシステムをUNIX版からWindows版に切り替え、VMware vSphereで構築した仮想基盤へ移行、オンラインバックアップが可能なストレージ装置を導入することだった。新基盤は2011年から稼働している。
VMware vSphereを採用した理由は、24時間稼働を可能にする高可用性技術(vSphere vmotion、vSphere HA、vSphere FT)とともに、UNIXと同等以上の性能と拡張性を得るためだった。実際、IAサーバの追加だけで容易にシステムを拡張できるようになった、テスト・開発効率がアップ、一部タスクの処理速度は数倍に達するなどの効果が得られたという。
以上が森田氏が講演の中で紹介した2つの事例である。いずれも事業のグローバル化に伴い、基幹システムにも変化へ迅速に対応する柔軟性が求められるようになった。UNIX環境で運用していたSAPシステムをWindows環境に切り替え、VMwareで構築した仮想化(プライベートクラウド)基盤上で再構築している。負荷が大きく高い可用性が求められる基幹システムは仮想化に向かないと見られていたが、既に技術は追い付いている。今後もSAPシステムの仮想化基盤移行は増えるだろう。ひいては企業のプライベートクラウド導入に拍車を掛けそうだ。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[サイボウズ株式会社] AIに何を聞いても「汎用的な答え」しか返ってこないのはなぜか? -
製品資料
[サイボウズ株式会社] なぜAIは組織で定着しないのか? 全社活用を阻む「3つの壁」の突破法 -
製品資料
[株式会社スタディスト] 「不適合品率」改善はどこから始める? すぐにできて効果が大きいポイントとは -
製品資料
[株式会社スタディスト] 食品ロスを利益に変える「現場標準化」のすすめ -
技術文書・技術解説
[株式会社スタディスト] チョコ停・ドカ停を防ぐ「事前対策」の進め方
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
いまIBM iエンジニアが直面する「5つの技術的課題」とその解決策
-
2
SAPの負荷増に苦しむZeissが「リアルタイム分析」「安定運用」を両立させた道
-
3
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
4
8割がアナログに逆戻りする“やっぱりな理由” DXを阻む2つの落とし穴
-
5
Microsoft 365侵害企業の9割はMFA導入済み 1002人調査で見えた盲点
-
6
なぜ「Claude Code」拡張は消しても危ないのか? Cursorで不正版配信
-
7
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
8
なぜMicrosoftは「Rust」を標準言語に? AIで進むC/C++書き換えの課題
-
9
「データのバックアップ」に関するアンケート
-
10
脱VMwareの真実:データセンター大手がNutanixを選んだ「コスト以上の理由」
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
2
顧客対応自動化の要点:RAGとデータ連携で“業務で使える生成AI”にする方法
-
3
侵入から横展開まで27秒の脅威にどう立ち向かう? 防御のカギがEDRの理由
-
4
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
5
マンガで解説:情シスの負担を減らす「MDRサービスのインシデント対応」の中身
-
6
有識者が語る、中堅中小企業に求められる最新のサイバーセキュリティ対策とは
-
7
10G回線の真価をフルに享受するには? 導入前にチェックしたいポイント
-
8
なぜAIは組織で定着しないのか? 全社展開を阻む「3つの壁」と突破のヒント
-
9
ランサムウェア攻撃“究極の対策”はこれだ
-
10
パスワードレスへの移行で失敗しないためには? 導入・運用上の注意点を解説
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー