CATIA V6への移行を足踏みさせていたデータ交換上の問題を解決する機能強化が図られた。より柔軟な移行シナリオ展開が期待できる。
ダッソー・システムズは2012年1月18日から日本国内でのV6R2012xの提供を本格的に開始する。この日から、同社パートナーに対しての教育もスタートした。
新版の目玉は、CATIA V6ユーザーだけでなく既存のV5ユーザーにとってもビジネスの可能性を広めるバージョン間の下位互換性の保証にある。
CATIA V6は2008年に発表された同社の3次元CADソフトウェア。同社CATIA営業部 ディレクター 田中昭彦氏によると「企業が本格的にCATIA V6を導入し始めたのが2011年。日本国内での事例も複数出てきた(関連記事)が、互換性について不安視するユーザーが少なくなかった」という。
今回、CATIA V6R2012xのリリースと併せて、バージョン5の最新版「CATIA V5-6R2012x」の提供を行い、CATIA V6とCATIA V5間でのデータ下位互換性を持たせることを発表している(CATIA V5同士で別バージョンの場合は上位互換のみ)。
「CATIA V4からV5への移行は、ジオメトリカーネルなどの根幹のデータ構造が大きく変更されていたため非常に労力の掛かるものだったが、CATIA V5とV6のジオメトリカーネルは同じものを使っているため、大きな影響はない。既存CATIA V5ユーザーはCATIA V5-6にバージョンアップすることで、従来静的にしかデータ受け渡しができなかったV6ユーザーとのデータ交換の場面で相互編集や属性変更などが行えるようになる」(田中氏)としている。
田中氏が「CATIA V5ユーザーにとっては、CATIA V5およびV6ユーザーとの取引においてビジネスチャンスを広げるものになると考える」と語るように、バージョン擦り合わせの問題が解決されれば、サプライヤ、OEMメーカーの選定にも幅が広がることになり、CATIA V5、V6ユーザー双方にとって利益の大きいバージョンアップとなるだろう。
なお、CATIA V5およびV6で使用しているジオメトリカーネルについては、パートナー企業向けの外販も始めている。
とはいえ、CATIA V5とV6の間で全ての情報が下位互換性を持つわけではなく、下位互換を保証するのは、個別の設計図の情報に限られる。フィーチャーやジオメトリについては、データ構造が共通のため問題なく互換できるが、構成情報やリンク情報はCATIA V5とCATIA V6でデータ管理方法が異なるため、下位互換が難しい。ただし、設計時のナレッジをアノテーションとして示すことは可能であるため、例えば、部品メーカーとの設計変更などのやりとりは格段に楽になるとしている。
実際の協調設計の場面では、フィーチャー情報を双方向で編集できる利点は大きく、CATIA V6ユーザー側はV5向けに静的データに変更する必要がなくなるだけでなく、CATIA V5ユーザー側もV6ユーザーのデータにある設計意図の情報を得られるようになる。編集時に設計意図を読み込めるため、V5ユーザー側で何らかの設計変更を行う際にも、ナレッジやルールに即した作業を行える(動画参照)。
同社ではCATIA V5のサポートを「少なくとも2020年までは継続する」(田中氏)としており、今後のアップデートは全て下位互換性維持を前提とした開発になるという。
また、田中氏は「是が非でもCATIA V6への移行を進める必要はなく、V6プラットフォームでなければ実現しない“ライフライク・エクスペリエンス”コンセプトに即した機能――DMUではなく、エレキ・メカ・ソフトを複合的・動的に組み合わせてた仮想検証環境の実現――を必要としないユーザーはCATIA V5-6へのバージョンアップでも十分にビジネスの可能性を高められる」としており、バージョンアップを強制するのではなくユーザー側の既存投資を保護していくスタンスを強調した。
なお、既存CATIA V5ユーザーがCATIA V5-6に移行する費用は無償(保守サポート契約済みの場合)となっている。また、CATIA V5からV5-6を経ずにCATIA V6に移行する場合については、機能モジュールごとに個別見積もりを行うとしている。
このほか、2011年11月30日に発表された意匠デザイナを対象としたスケッチツールである「CATIA Natural Sketch」についてもあらためてV6ポートフォリオへの追加がアナウンスされた。
CATIA Natural Sketchは、デザイナがスケッチブックにイラストを描くように作成した2次元的なイラストに対して、3次元化するための制御点を与えることで、CATIAの機能を使い、2次元イラストを3次元データ化するツール。タブレットデバイスとペンを使い、点と線で表現したイラストに対して、奥行きに相当する制御点を加えて3次元化させる。ベースがCATIAであるため、例えば作成した面に対して既存のサーフェスを貼り込むこともできる。周辺環境の設定も可能なので、光の反射具合なども、デジタルデータ上である程度確認できるようになっている(動画参照)。
デザイナが作成した3次元データは、CATIAデータとして利用できるため、ラフスケッチから図面を書き起こす際の工数が少なくて済む。
「例えば、自動車のデザイン変更などのように、既存のデザインをベースに変更を加える場合も、CATIAデータを読み込んだ上で、デザイン変更を進められる」(同社CATIA営業部 藤本貴幸氏)という。
CATIA Natural Sketchはエレキ・メカ・ソフトのみならず、あらゆる情報をデジタル環境下で検証していこうというV6プラットフォームのコンセプトを意匠デザイン領域にも適用させたものといえる。
CATIA Natural Sketchのデモムービー
SIMULIA製品群でのアップデートもあった。SIMULIAでは「ExSight」という製品が新たにV6プラットフォーム上に追加される。
ExSightは、複数の解析ソフトウェアの機能を統合するプラットフォームとして位置付けられる製品。
当面は同社が提供する解析ソフトウェア「Abaqus」のユーザーを対象としたものだが、「例えば熱解析と電磁解析、といったように複合的な物理領域のシミュレーションを一度に実現できるようになる」(同社 シムリア事業部 シニア・ディレクター 細川治男氏)という。HPC環境への対応もできており、「既存の国内ユーザーで64コア並列環境での運用事例がある(理論上は1024コア並列まで対応)」(細川氏)という。
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