確認状による取引先企業の監査人との連携では2つの方法が案として挙がっている。
金融庁は10月18日に企業会計審議会監査部会を開催し、審議中の「不正対応監査基準」(仮称)に関連して、被監査企業の取引先に提出を依頼する確認状に、取引先企業の監査人による署名を求めたり、調査を依頼可能にする連携策を打ち出した。循環取引などの不正リスクを解明することが目的。金融庁は「現状の確認状のプロセスと併存する、新たなオプション」としている(参考:金融庁の公表資料)。
9月25日の監査部会で示された不正対応監査基準の原案では、「不正リスクに対応した監査事務所の品質管理等」として「監査人間の連携体制の整備」がうたわれている。今回の連携策はこの項目に対応する。
確認状による取引先企業の監査人との連携では2つの方法(スキーム1と2)が案として挙がっている。スキーム1は不正リスクについて取引先の確認が必要な場合に、確認状に対して取引先だけではなく、取引先の監査人の確認を求める内容。取引先の監査人は対象となる取引が計上されていることを確認し、確認状に署名する。金融庁では「幅広い不正リスクに対応する。事実関係の照合のみを想定していて、取引先の監査人が所属する監査法人の審査などを経ずに署名できるようにすることを検討している」としている。署名入りの確認状については実務指針で様式を決める。
スキーム2は、実際に不正の兆候が疑われる場合など、より詳細な調査が必要な際に採る方法。被監査対象企業の監査人が取引先の監査人に対して連携を依頼し、取引先の調査をしてもらう。その回答も事実関係の確認ではなく、調査の結果を具体的に報告することを求める。そのため、取引先の監査人が所属する監査法人の審査なども必要になるとみられる。被監査対象企業の監査人と、取引先の監査人との間には準委任契約が結ばれるという。具体的な連携方法などについては実務指針で定める予定。
金融庁の企業開示課長 栗田照久氏は「かなり重い手続きで最終兵器に近い。被監査対象企業の監査人が不明瞭な取引について監査手続きを実施し、監査役にも調査をしてもらい、それでも解明できない場合にする手続きと考えている」と話した。
2つの方法とも取引先の監査人による守秘義務違反の恐れや、不正が最終的に発見されなかった場合の訴訟リスク、逆に不正を発見できなかった場合のリスクなどがある。金融庁は法的責任を説明する資料を用意。守秘義務については「秘密の漏えいには該当し得ても『正当な理由』があるとして守秘義務は解除されると判断されるのが通常と考えられる」などとしている。
この連携策については委員の間から反対の声が上がった。日本公認会計士協会は意見書を提出した。その中で被監査対象企業と、取引先の監査人の連携について「財務諸表監査の枠組みを超える可能性が高く、極めて大きな問題」と指摘。具体的には、「被監査会社と取引先が共謀している場合は効果が少なく、手続きとして有効性が期待されるケースは限定される」「(紹介を受けた取引先の監査人が、それを不正の端緒として扱うと)場合によっては取引先の監査人がさらに他の監査人に照会することも考えられ、その連鎖により波及的に社会全体で負担する監査コストが脹らむことも想定される」。日本公認会計士協会ではこれらの理由から「期待される効果よりも弊害の方が大きいことが懸念される」としている。
委員の八田進二氏(青山学院大学大学院教授)は、スキーム2について特に実行が難しいとして、「循環取引が想定されるが、企業がつながっていることを考えるとどこまで追いかけるのか。実現可能性は低い。監査人を縛り、適正な監査対応ができない懸念がある」と指摘した。その他、取引先の監査人が調査を行う場合のコスト負担や、取引先が海外企業の場合に海外の監査法人に協力を求めるのが難しい点、取引先が監査対象企業でない場合の取り扱いなどが指摘された。
これらの指摘に対して栗田氏は「全ての場合にオールマイティに対応できるわけではない。だからといって何も手だてをしなくていい、とはならないのではないか。マストの手続きとするのではなく、有効に機能する場面があれば使ってもらえるのではないか」と話した。
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