【事例】救急医療から高齢者の包括的な情報連携までの支援を目指す「GEMAP」医療情報をICカード「manaca」に融合

救急医療の全面最適化を推進する「GEMAP」は、東日本大震災の課題を踏まえて高齢者の医療・介護連携の支援を進めている。愛知県豊田市では、ICカード「manaca」との情報連携プロジェクトを実施している。

2013年03月19日 08時00分 公開
[翁長 潤,TechTargetジャパン]

救急医療の課題は、高齢者医療の課題でもある

 高齢者の救急搬送が増えている。2010年国勢調査における高齢者の人口割合は23.0%だが、総務省消防庁「平成24年版 救急救助の現況」によると「救急搬送における高齢者の割合は全搬送患者の52%となり、心肺停止の患者は全体の73%を占める」という。特に人口の30%以上を高齢者が占める地域では、その割合はさらに高くなる。

photo GEMAPの小倉会長

 「救急医療の課題は、高齢者医療の課題でもある」。岐阜大学大学院医学系研究科教授の小倉真治氏は、会長を務めるGEMAP(GEMITSアライアンスパートナーズ)が主催した「GEMAP市民公開セミナー 災害復興の高齢者医療におけるICT利活用」の基調講演でこう語った。GEMAPは、2009年から実施されている救急医療体制支援システム構築プロジェクト「GEMITS」の普及促進を目的として設立されたコンソーシアムだ。

 小倉氏は「東日本大震災後の2年間の復興を支援する中で、GEMITSを“救急医療のみならず日常の医療や健康、介護分野を支援する包括的な情報連携基盤にしたい”という思いが募ってきた」と話す。GEMAPは現在、システムの適用範囲の拡大に積極的に取り組んでいる。

災害・救急時の高齢者医療の課題

 災害・救急医療の課題について、小倉氏は「災害時における援護が必要な災害弱者の支援体制」を挙げる。災害弱者の定義として以下の4つを挙げる。

  1. 自分の身に危険が差し迫ったときに察知することが困難である
  2. 危険を察知しても適切な行動を取ることが困難である
  3. 危険を知らせる情報を受け取ることが困難である
  4. 情報を受け取っても適切な行動を取ることができない、または困難である

 その具体例としては「高齢者」「孤立集落になってしまった地域の住民」「情報の入手や発信が難しい聴覚・視覚障害者」「常時薬、医療装置などが必要な慢性疾患患者や要介護者」「精神的に不安定になりがちな人」などがあるという。

 岐阜県は2011年4月、岐阜県震災対策検証委員会を設立。同県の震災対策の現状と課題を洗い出し、具体的な防災体制や防災対策を進めてきた。同委員会が発表した「震災の課題と提案・提言(5月25日現在)」では、「避難所になり得る老人福祉施設の損壊、災害対応施設の整備が不十分な事例が見られた」と指摘している。

 岐阜県は自治体やケアマネジャーとの連携・協力を促進する「災害時要援護者マップ」を作成し、要援護者情報の共有化に取り組んでいる。また「被災時の在宅介護者への対応体制の整備」を進めている。食事や排せつ、離床などのケアミニマムを実行できるよう、介護事業者の巡回介護スキルの向上に取り組んでいるという。

 小倉氏は「まだ発展途上ではあるものの、官民ともに進むべき方向性は共有できている」と現状を説明する。さらに「その実現に向けては、東日本大震災で課題となった“被災者の既往歴・投薬歴が分からない”“避難所を移動した際の診療情報の共有化ができない”などを解消する緊急時の情報の一元化が必要だ」と語る。

MEDICAを中心とした医療連携の広がり

 そうした災害・救急医療を情報連携で支援する基盤が「GEMITS」だ。小倉氏は「“Right patient to the right doctor in the right time(最短で最適な医療チームと患者をマッチングさせる)”という、救急医療全体を最適化するシステム」と説明する。GEMITSは救急医療情報カード「MEDICA」を情報連携の基盤として「病院前連携」「病院間連携」「階層別トリアージ」「緊急介護連携」などを支援する。MEDICAには緊急時の対応に最低限必要な患者基本情報や既往歴、投薬歴、アレルギー歴などが入っており、専用の読み取り端末で情報を参照することで、救急隊員の最適な介入を支援する。現在、岐阜県の全救急車が端末を配備している。

photo GEMITSのシステムイメージ(特定非営利活動法人 岐阜救急災害医療研究開発機構のWebサイトより)

 小倉氏は「現在、1病院完結型から地域連携型の医療提供にシフトしている。情報共有を円滑化するためには、多くの関係者が全国共通の医療ID番号の必要性を感じている」と説明。その上で「まずは、地域単位での病院間連携を可能にする共通診察券を普及させる必要がある」と指摘する。

糖尿病パスへの活用

 MEDICAは現在、岐阜県における糖尿病パスでも利用されている。地域の大学病院、診療所間で糖尿病患者の検査情報や治療スケジュールなどを共有することで、糖尿病治療の最適化を目指している。

 小倉氏は「地域医療連携システムは、その運用コストの負担が課題になることが多い。全ての情報をVPN経由で連携することは難しい。糖尿病パスではコストとベネフィットを考え、情報の重要度に応じたデータ連携を実施している」と説明する。岐阜県のシステムでは、患者を特定できるような情報はVPN経由で、検査データの数値など患者IDとひも付けない限り意味を成さないデータはインターネット経由で連携する。

phot 糖尿病パスのシステムイメージ《クリックで拡大》

 また、利用患者の救急時にはカード内の情報を連携医療機関に提供でき、平時には患者自身が検査結果などの経過状況を確認することもできる。

photophoto 糖尿病パス(左)とお薬手帳の比較表示例(右)《クリックで拡大》

交通カードと融合した包括的な支援システム

 GEMITSは2012年11月から総務省の「平成24年度ICT街づくり推進事業」プロジェクトの1つとして、愛知県豊田市の「平常時の利便性と急病・災害時の安全性を提供する市民参加型ICTスマートタウン」(豊田プロジェクト)の情報連携プラットフォームに活用されている。

photo 豊田プロジェクトのシステムイメージ(GEMAP提供)《クリックで拡大》

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