【連載コラム】医療ITの現場から
ITはツールにすぎず、使いこなせなければ医師を苦しめるだけ
電子カルテを導入した診療所の院長に話を聞くと、導入効果を実感する声や悪影響が出たという意見などさまざま。IT化成功の秘訣は「ITはあくまでツールである」という認識を持つことかもしれない。
IT化で変わる診察室の風景
一昔前の診療所はレセプトコンピュータ(レセコン)とCR(Computed Radiography)がある程度で、IT化とは縁遠い世界。診察室の机の上には大量の紙やボールペン、ゴム印などが所狭しと並んでいました。
しかし近年、診療所において電子カルテやレセコン、PACS(医用画像ファイリングシステム)、予約システムなどさまざまなシステムの導入が進んでいます。また、最新のシステムを先進的に導入している診療所では、上記に加えて看護師向けの指示受け用タブレット端末や、タブレット型問診システムなどの導入も始まっています。そのため、PCのモニターとキーボード、マウスがあるだけという診察室もあり、IT化は診察風景に変化をもたらしています。
電子カルテを導入した医師の声を集めてみると
電子カルテを導入した診療所の院長にヒアリングしたところ、導入効果として次のような声をいただきます。
- 「電子カルテを入れたおかげで、腱鞘炎に悩まされることがなくなりました」
- 「カルテ棚が毎月減っていくのを眺めるのが楽しみになっています」
- 「レセプトを全件印刷してチェックしなくて済むと思うと、これまで何をやっていたんだと思う」
これらは「電子カルテによる文書作成の効率化」「院内のペーパレス化」「レセプト点検作業の効率化」など導入効果を実感している声です。こうした言葉を聞くと、長年IT化を勧めてきた私たちは「もっとこのような声を世に発信していく必要がある」と感じます。IT化の恩恵は、例えば「紙カルテを探さなくて済む」という行為1つを取っても大いにありますが、そうした実感がなかなか伝わっていないと感じます。
ITを使いこなせないための弊害の声
一方で、IT化しても意外とシステムを使いこなせていない診療所が多くあるのも事実です。
- 「PCがそもそも苦手だと、スタートで本当に苦労します。最初のうちは残業が増えてしまった」
- 」患者が増えてくると、電子カルテに入力するのが追い付かなくなり、結局簡素なカルテ記載となっている」
- 「予約システムを入れたら、PCが苦手なためにかえって受付スタッフを混乱させてしまった」
これらはIT化の弊害を表した感想でしょう。IT化すること自体が診療所を混乱させてしまった結果です。電子カルテをはじめとしたさまざまなITシステムは、PC操作がおぼつかないスタッフにとっては苦痛以外の何物でもないでしょう。
ITはツールにすぎず、使いこなせなければ医師を苦しめるだけ
ITシステムの普及率は年々伸びており、いずれ診療所で電子カルテ運用が当たり前になる時代がやって来るでしょう。しかし、IT導入に対しては賛否両論があることを忘れてはならないと思います。
ある医師が講演の中で「ITシステムはツールにすぎず、そのツールを使いこなせなければ全く意味がない。医師を苦しめるだけだ」と話されていました。IT化に対する反対意見のようにも聞こえますが、IT化に期待しているからこそのありがたい苦言だと思います。診療所にとってIT化が本当に意味あるものになるためには「医師だけではなく診療所のスタッフにも直感的で使いやすいシステムである」ことが大前提です。例えば、米AppleのiPadのように、あるいは誰でも使えるテレビなどの家電のように使い勝手を高める必要があるでしょう(関連記事:iPadを筆頭に多様化する医療システムのタブレット対応)。
ITは習うより慣れろ
診療所が電子カルテを導入する場合、操作や運用に関するトレーニングを行います。そのレクチャーにも大きな革新が必要だと思います。「導入時のわずか1週間程度(1日2時間程度)の研修で本当に使いこなせるレベルになるのだろうか。レクチャーの内容は、診療場面をイメージしたものでなければ実際の運用では役に立たない」。そう考えると、模擬診療やシミュレーションの時間を多く取ることが「使いこなすことの近道」だと私は考えます。
「眺めるよりも使ってみること、習うよりも慣れること」――これがITを使いこなすための秘訣だと思います。ITを使いこなす能力のことを「ITリテラシー」と表現することがあります。リテラシーとは「ある行為を適切に理解・解釈し分析しまた記述・表現する能力」を意味しますが、そうした能力の向上こそがIT化の普及の重要なキーワードではないでしょうか。
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