ネットワークを変革するSDN、導入のタイミングは?Computer Weekly製品導入ガイド

SDNはルータとスイッチ事業を革新し、何百万ドルものコスト削減につながるだろう。だがそれを押しとどめている要素とは何か。

2013年11月29日 08時00分 公開
[Steve Evans,Computer Weekly]
Computer Weekly

 SDNでは、ネットワークインフラのハードウェア層とコントロールパネルが切り離される。これまでネットワーク上の各ルータとスイッチには、特定タイプのトラフィックを別のタイプより優先するといった動作を制御するソフトウェアがプリインストールされていた。このため、ネットワークの特性を変更したい場合はルータとスイッチを手動で設定する必要があった。

 SDNはネットワークのそうした機構を一元管理型のコンソールに移動させ、物理的にハードウェアを調整することなく手早く変更を行って、ほぼリアルタムでネットワークにプッシュできるようにする。これでIT管理者はネットワークインフラの管理を大幅に強化でき、ビジネスの一部としての柔軟性と機敏性を大幅に高めることが可能になる。

 SDNの問題の1つは、明確で普遍的な定義が存在しないことだ。だが、エンタープライズに恩恵をもたらすことは明らかだ。SDNではインテリジェンスとそれに伴う価値がハードウェアから切り離され、ソフトウェアに移行されると解説するのは、ネットワークインフラ自動化ソフトウェアとハードウェアを手掛けるInfobloxの創業者で最高技術責任者(CTO)のステュ・ベイリー氏。

 同氏は言う。「ネットワーク管理者は実際のところ、サーバやPC、タブレット、モバイルコンシューマーのような形では、コモディティ化されたハードウェアのメリットを享受できていなかった、SDNは最も高いレベルで市場を是正する存在だ。ネットワーク管理者がついに、極めて低価格のハードウェアと付加価値ソフトウェアの豊富なエコシステムの経済的メリットと機能的メリットを得るという経済の話だ」

破壊的テクノロジー

 SDNはまだごく初期の段階にあるにもかかわらず、その潜在的可能性から業界関係者の多くが大胆な予想を展開してきた。調査会社のIDCは、この市場は2013年の3億6000万ドル規模から2016年までには37億ドル規模に成長すると予想。Gartnerは2012年の「Hype Cycle for Networking and Communications Technologies」(ネットワークおよび通信技術のハイプサイクル)の中で、実質的にSDNを定義しているオープンソースプロトコル「OpenFlow」の項目において、SDNを「トリガー技術」と位置付けている。

 Gartnerで先端ネットワークインフラを専門とするアナリストのジョー・スコルパ氏は、SDNは破壊のための重要な機会を提供すると指摘する。ネットワークはこれでようやく、過去数年で進歩してきたビジネスの他の部分に追い付けるようになるというのがその理由だ。

 同氏によると、例えば新しいサーバをネットワークに導入するには2週間かかることもある。5年前であれば、物理的サーバの発注から構築、出荷、到着、インストールまでには2カ月かかっていたため、誰もそのことを気に留めなかった。今では仮想化のおかげで新しいサーバをわずか数時間で起動できるようになった。にもかかわらず、ネットワークの設定にはいまだに2週間かかっている。

 「事業部門の関係者は、ネットワークをビジネスバリューと機敏性の障壁と見なしている。例えばマーケティングの担当者が新しいキャンペーンの展開についてCIOに相談したとする。サーバ担当者は数時間でマシンを起動できるだろうが、ネットワーク担当者は『では2週間後に』と言うだろう。この状況は間違っている」とスコルパ氏は言い添えた。

 ハードウェアからコントロールを(必然的にインテリジェンスも)切り離せば、ルータやスイッチはコモディティとなり、ユーザーにとっては多大なコストの削減につながる。もちろんそれは、CiscoやJuniper Networksといった従来のネットワーク機器メーカーに大きな打撃を与えるだろう。

 こうしたメーカーはルータとスイッチの販売で収益を上げている。SDNがネットワーク機器のコモディティティ化を招けば、その収益源が脅かされる。Gartnerのスコルパ氏は、SDNがCiscoの事業を根本から脅かす存在になると予想する。「コマンドラインインタフェースのコマンド入力方法を学んだCisco認定エンジニアは何千人もいる。彼らはそうやって執着心を保ち、アカウントを制御してきた。だがその価値を吹き飛ばす恐れのある新技術が登場した」(スコルパ氏)

コモディティ化に対応するネットワーク機器メーカー

 SDNアーキテクチャでは、企業が1つのサプライヤーの製品に縛られることがなくなり、スイッチ、コントローラー、アプリケーションなどを全て別の企業から調達できるようになる。これは間違いなくCiscoやJuniperなどの利益に打撃を与えるだろう。利益率60%のビジネスだったネットワーク業界が、利益率10〜20%前後のサーバ業界のような状態になる可能性も十分ある。

 当然ながらCiscoやJuniperは、SDNは自分たちにとって脅威ではなくチャンスだと主張している。Cisco英国・アイルランド法人のイアン・フォダリング最高技術責任者(CTO)は、同社は何年も前からSDN市場に積極的だったと話す。ここ数年のCiscoの買収案件を見ると、同社がソフトウェアを戦略の中心に据えているのは明らかだ。LineSider Technologies、Pari Networks、AXIOSS、newScaleといった企業の買収は、Ciscoのソフトウェアおよび管理ポートフォリオに貢献している。

 買収に加えて、同社にはOpen Network Environment(ONE)プラットフォームがある。これは顧客がそれまでのネットワーク機器に対する多額の投資を無駄にすることなく、SDNの恩恵を受けるチャンスを与えるものだ。

 「多くの企業が既にCiscoプラットフォームに相当の投資を行ってきたことは認識している。われわれが目を向けているのは、顧客が既に出来上がったインストールベースを取り入れて、プログラマブルネットワークを通じてSDNを自分たちの戦略に組み込めようにすることだ。ONE戦略を見れば、そのことが分かってもらえるだろう」とフォダリング氏は話す。

 このプラットフォームは主に3つの機能で構成される。さまざまなCisco製品に対応したAPIを含む開発者向けの「onePK」プラットフォームキット、OpenFlowをサポートした「Cisco ONE Controller Framework」、仮想化されたワークロードでネットワークサービスを直接管理できるようにする「Overlay Network Technologies」がそれだ。

 Juniperも手をこまねいてはいない。2012年12月にはContrail Systemsを1億7600万ドルで買収した。それほど大きな案件には見えないかもしれないが、興味深いことに、買収された企業に顧客はなく、まだ何の製品も出荷していなかった。この動きは一般的に、大手ネットワーキングサプライヤーが、SDNへのシフトをどれほど深刻に受け止めているかの証と受け止められている。

 Juniperのクラウドサービスマーケティング責任者、ナイジェル・スティーブンソン氏によると、同社にはこの買収に加え、SDN戦略の指針となる6項目の原則があるという。

 まず第1に、ネットワークソフトウェアは4つの層、すなわち管理、サービス、制御、転送の4層にはっきりと分けなければならない。スティーブンソン氏によると、これはそれぞれの層を個々に最適化する一助となる。第2に、運用コスト削減と設計シンプル化のために、管理、サービス、制御ソフトウェアを一元化する。第3に、拡張性と柔軟性の高い環境のために、クラウド利用は必須だと同氏は言う。

 4番目はネットワークアプリケーションのためのプラットフォーム形成とサービス、そして管理システムへの統合だ。5番目の原則はプロトコルの標準化。これは別のサプライヤーをサポートする際の助けになる。そして最後の6番目の原則は、ネットワークとそのサービスの全局面にSDNの原則を大胆に適用することだ。

 JuniperやCiscoのような企業はSDNの台頭に対応しなければならないとスティーブンソン氏は言い、「業界はそこに向かっている。そうしなければ業界として進歩できない」と指摘する。

 だが、業界はそこに向かいつつあるかもしれないが、現時点でまだ到達していないのは確かだ。Gartnerのスコルパ氏は、SDNは普及規模には程遠いと指摘し、他の専門家も同じような見方をしている。一般的な予想として、SDNが普及するのは3〜5年先になりそうだ。

 そうした理由から、現時点でSDNを有効活用している企業はほとんど存在しない。SDNはまだあまりに新しく、これに目を向けている企業の大半は評価段階の域を出ていない。スイスの学術機関、欧州原子核研究機構(CERN)は、評価の域を脱した組織の1つだ。同機構はHPと共同で負荷分散アプリケーションを開発している。これはCERNが生成する膨大な量のデータをファイアウォールやサーバなど複数の装置に分散させるのに役立つ。

利用率

 早くからSDNの採用に踏み切ったもう1つの企業にGoogleがある。同社は全データセンターを結び付ける巨大ネットワークを横断するSDNを導入した。2012年4月に「Open Networking Summit」で講演したGoogleの技術インフラ担当上級副社長、ウルス・ヘルツル氏は、SDNの導入によって、Googleの社内ネットワークを経由してデータが移動する方法が改善されたと語った。例えばGmailのバックアップなど、特定のトラフィックを優先させ、タイミング良く通過させることが可能になったという。

 ヘルツル氏の講演で恐らく最も印象的だったのは、SDNを使って社内ネットワークのトラフィックを知的に管理することで、いずれ100%のネットワーク利用率を達成するという内容だった。30〜40%が標準と見なされている業界で、これは圧倒的な性能の向上といえる。

 HP、Dell、IBMといった各社もOpenFlow標準のサポートを表明することにより、SDN分野で動きを見せている。だがこの分野に最も大きな変動をもたらしているのは新興企業かもしれない。CiscoやJuniperが新興企業を買収したのと同様に、VMwareは12億6000万ドルを投じて、かつてSDN新興企業の筆頭だったNiciraを買収した。今、この筆頭の座は、元Cisco幹部のカイル・フォスター氏が共同創設したBig Switch Networksに受け継がれている。それと肩を並べるPLUMgridとEmbraneもやはりCiscoの元社員が設立した企業で、SDNの次の大きな動きを担う。

 Big Switch Networksは2010年に設立された。中心的な製品である「Big Network Controller」は、ハードウェアをネットワークから切り離し、IT部門が1つの管理コンソールからネットワークを制御できる。同社の技術では根底にあるネットワークファブリックをプログラミングして自動化することが可能で、この技術の上にソフトウェアアプリケーションを構築することができるという。この技術の潜在的可能性を見込んでGoldman SachsやIndex Venturesなどが同社に出資している。

 SDNは現時点で誇大な騒ぎを巻き起こしているかもしれない。確かに、SDNはネットワーク業界、そしてサプライヤーやユーザーにとっても多大な変化をもたらす見通しだが、それについて熱狂するのはまだ恐らく時期尚早ということだ。動向は注視しておくべきだが、飛びつくのはこの技術が成熟するまで待った方がいいだろう。

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