ARMチップ共同設計者ファーバー氏、チップ業界のイノベーションを語る「IoTは大きな将来性を秘めている」

ARMチップの共同設計者、スティーヴン・ファーバー氏がComputer Weeklyのインタビューに応じた。彼が見るモノのインターネットの展望とチップ業界の現状とは?

2014年03月03日 08時00分 公開
[Cliff Saran,Computer Weekly]
Computer Weekly

 ARMチップの共同設計者であるスティーヴン・ファーバー氏とソフィー・ウィルソン氏が、Economist誌が表彰する2013年の「イノベーション賞」を受賞。2013年12月3日にロンドンの英国映画テレビ芸術アカデミー(BAFTA)で授賞式が行われた。この機会に、Computer Weeklyはコンピュータのイノベーションについて、ファーバー氏に話を聞いた。

Computer Weekly日本語版 2014年2月19日号無料ダウンロード

本記事は、プレミアムコンテンツ「Computer Weekly日本語版 2014年2月19日号」(PDF)掲載記事の抄訳版です。本記事の全文は、同プレミアムコンテンツで読むことができます。

なお、同コンテンツのEPUB版およびKindle(MOBI)版も提供しています。


 ファーバー氏は、家庭用マイクロコンピュータとして知られたBBC Micro(訳注)の主任設計者だった。

訳注:英Acorn Computersが設計・製造したコンピュータ。

 そして30年前の1983年10月、同氏はAcorn RISC Machineプロジェクトに参加した。このプロジェクトから生まれたのがARMチップだ。ARMチップは、現在ではiPhoneから車載インフォテインメントシステムまで、100億個を超える機器や端末に搭載されている。ARM社は累計で400億個のプロセッサを出荷してきた。ざっと数えて、地球上の人間全員がこのチップを6個ずつ持っている計算だ。一般的なスマートフォンには10個以上のARMプロセッサが搭載され、さまざまなジョブが実行されている。

 プロセッサの設計という観点から見たARMのアプローチのすばらしさは、アーキテクチャを単純化したシンプルなシステム、縮小命令セットコンピュータ(RISC:Reduced Instruction Set Computer)にある。米Intelや米AMDのx86プロセッサファミリーとは全く対照的だった。x86ファミリーのチップは、従来のアーキテクチャであるCISC(Complex Instruction Set Computer)を採用していた。CISC命令セットはRISCよりも強力だ。ただし多くの電力を消費するため、結果として稼働時に熱を持つ。

コンピュータ業界への英国の貢献

 ところで、マンチェスターの町を有名にしたものは、サッカーだけではない。 ファーバー氏は英ICL社の会長であり、マンチェスター大学のコンピュータサイエンス学部でコンピュータエンジニアリングの教授も務めている。マンチェスター大学は、世界初のプログラム内蔵式コンピュータ、愛称「Baby」が生まれた場所だ。 現代コンピューティングの父、アラン・チューリングも晩年はこの大学で過ごした。

 英国のコンピュータ業界はそう悪くないと、ファーバー氏はみている。「われわれはコンピューティングの世界を2世代進化させてきた」と同氏は語る。「英国内のコンピュータ業界で企業合併が相次ぎ、ICLが誕生した。当時はメインフレームなどの大型機を重視していた」(同氏)が、1990年代に入るとコンピューティングの主流がメインフレームからコンシューマー向けの電子機器、そしてWebへと移っていったとファーバー氏は話す。

 「Webがコンシューマー向けの電子機器(デバイス)を統合した。これが現在のような、スマートフォンで何でも好きなことができる状況につながっている」(同氏)

 デバイスからWebへのアクセスを実現するには、コンピューティングと通信の両方の技術が必要だ。コンピューティング技術の歴史において、英国の役割はテクノロジーを誰でも利用できるものにすることだとファーバー氏は考える。同氏は次のように語る。「このような技術を進化させる中で、英国は大きな役割を果たしてきた。地球上のほとんど全ての携帯電話には、ケンブリッジに拠点を置く会社で設計されたARMプロセッサが搭載されている」。また、インターネットは米国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)で開発されたものであるにもかかわらず、同氏は次のように主張する。「インターネットが現在のように広く普及したのは、Webの基礎となるプロトコルを発明した、欧州原子核研究機構(CERN)のティム・バーナーズ=リーの功績だ」

モノのインターネット(IoT)から生まれる新たな機会

 一方ファーバー氏は、モノのインターネット(IoT: Internet of Things)は英国のコンピュータ業界にとって大きな将来性を秘めていると考えている。同氏はこんな話をしてくれた。「これまでのコンシューマー向け電子機器市場では、コンピュータは人間(ユーザー)につながっているものだった。IoTの場合は機器が、人間の手を離れてモノの世界だけで動作する。機器は必ずしも人間とつながっているとは限らない」。だから現在は、インテリジェントな電球も商品化されている。

 「自宅の冷蔵庫やコンロが全てインターネットに接続されて、帰宅する前に電話から、自宅の暖房のスイッチを入れて部屋を暖めておけるところを想像するといい」(同氏)

 IoTのために、いずれ住宅の配線の方式が劇的に変わるだろうと同氏は指摘する。電器類は全て、統合された主電源に接続され、電源コードがイーサネットにも対応して、電力とデータが同時に各機器に送られるという。「だから、電灯のスイッチと電球もその家のネットワークに接続される機器の一部となって、ケーブルを通じて機器同士が相互に通信する。電灯のスイッチと電球を物理的に直接つなぐ必要はなくなる」(ファーバー氏)

チップを作る新興企業が直面する課題

続きはComputer Weekly日本語版 2014年2月19日号にて

本記事は抄訳版です。全文は、以下でダウンロード(無料)できます。


Computer Weekly日本語版 最近のバックナンバー

Computer Weekly日本語版 2月5日号:仮想化コストを増大させる勘違い

Computer Weekly日本語版 1月22日号:Amazon Web Services vs. Google

Computer Weekly日本語版 1月8日号:オープンソースハードウェアになるデータセンター


Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

製品資料 アステリア株式会社

ノーコードで現場が変わる、kintoneとPlatio連携で始める現場DX

多くの企業でオフィスDXが進む一方、現場にはアナログ業務が多く残りDXが進んでいない。現場DXを推進し、オフィスと現場のデータを活用するためにはどうしたらよいか。本資料では、ノーコード開発ツールを活用した解決策を紹介する。

製品資料 アステリア株式会社

年間約400時間削減の声も、業種別の口コミで分かる業務アプリの導入効果

工場や倉庫などの現場では、紙中心の業務が今も多く残っている。だが現場DXを進めようにも、人材や予算の不足、システム選定の難しさが障壁となっているケースは多い。この問題を解消する、モバイルアプリ作成ツールの実力とは?

製品資料 ServiceNow Japan合同会社

生成AIで「ローコード開発」を強化するための4つの方法

ビジネスに生成AIを利用するのが当たり前になりつつある中、ローコード開発への活用を模索している組織も少なくない。開発者不足の解消や開発コストの削減など、さまざまな問題を解消するために、生成AIをどう活用すればよいのか。

製品資料 ServiceNow Japan合同会社

「ローコード開発」実践のヒント:AI主導のイノベーションに向けた4つの戦略

急速に変化する顧客ニーズに応えるような適切な製品を継続的に提供するためには、より多くのアプリを生み出す必要があるが、そのための開発者が不足している。そこで注目されているのが、生成AIやローコード開発プラットフォームだ。

製品資料 ServiceNow Japan合同会社

ローコードによるアプリ開発と高度な自動化で成功を収めるためのポイントとは?

あらゆる組織は、従業員と消費者の双方に良質なエクスペリエンスを提供する義務を負っている。アプリ開発と高度な自動化は、この目的を達成するための有効策の1つだが、それぞれを適切に実装できなければ、むしろリスク要因ともなり得る。

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ITmedia マーケティング新着記事

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...

news025.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。

news014.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。