“iOSデスクトップ”登場の可能性も
「Androidデスクトップ」が職場を席巻する日
「Windows 8」搭載端末の導入に二の足を踏む企業が少なくない中、企業端末の有力候補として「Androidデスクトップ」に白羽の矢が立つ。ただし、Windowsの牙城を崩すのは容易ではない。
「アンドロイドデスクトップ」。まるでSFの小道具のような名前だが、とっくに製品化されている。米Hewlett-Packard(HP)がモバイルOS「Android」搭載のデスクトップ端末(以下、Androidデスクトップ)を投入していることから見ても、ベンダーがAndroidの新たなフロンティアとして、企業デスクトップ市場に狙いを定めているのは明らかだ。
驚くには当たらないだろう。Androidデスクトップは手ごろな価格、モビリティ中心のプラットフォームなど、さまざまなメリットを提供するからだ。だがこうしたメリットが、Androidデスクトップの企業導入に伴うデメリットを上回るのか否かという問題がある。どちらの結論を出すにしても、意思決定者はよく考えなければならない。
変容するコンピューティング
われわれは新しい世界に生きている。スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末が普及し、かつては遠い未来に実現されると思われた世界が到来している。ハードウェア中心からデータ中心のコンピューティングへのシフトが進む中、われわれのビジネスのやり方も変わってきている。
さらに、「Windows 8」の売れ行きの鈍さや「Windows XP」のサポート終了も相まって、デスクトップコンピューティングのための代替OSやその他の代替アプローチの普及の素地が整いつつある。
そこでAndroidの出番となる。米調査会社Gartnerの最近のリポートによると、2014年末にAndroidユーザーは11億人に達する見通しだ。Androidは既に、モバイルコンピューティングとAndroidエコシステムになじんでいる巨大なユーザー基盤を誇る。3億6000万人と推計される2014年のWindowsユーザー数を考え合わせると、かなりの人がAndroidデスクトップを使うようになると予想するのは、それほどとっぴなことではない。
実際、クライアントPCメーカーはそう踏んでいる。台湾Acer、中国Lenovo、HP、韓国Samsung Electronics、台湾ASUSTeK Computerなどの企業は、独自のAndroidデスクトップをリリース済み、または開発中だ。特にHPは企業での利用を想定し、デスクトップおよびモバイルコンピューティング双方を兼ね備えた統合型環境を実現した一連の製品を提供している。
例えば、HP初のAndroid 4.3(開発コード名:Jelly Bean)搭載デスクトップ「Slate 21 Pro」(国内未提供)は、21.5インチLEDタッチディスプレー、720p(1280×720ピクセル)のWebカメラ、USBポート3基、HDMIポート1基、Wi-Fiおよびイーサネットサポート、その他の多くの企業フレンドリーな機能を提供する。
Androidのメリット
Androidは、米Appleの「iOS」を含む全OSの中で、世界で最も多くのモバイル端末に搭載されている。モバイルコンピューティングとITコンシューマライゼーションの最前線に位置しているといえるだろう。
Androidユーザーは、Webベースのサービスやタッチスクリーン、アプリケーション管理、マルチデバイス連携に慣れている。WindowsからAndroidへの移行は、多くのユーザーにとって簡単だろう。既にAndroidを使っているユーザーには(それほどではないものの、iOS端末のユーザーも)、移行トレーニングはほとんど不要なはずだ。
Androidのもう1つのメリットは、対応アプリの数と種類の多さだ。確かに、中には気晴らしにしかならないゲームやソーシャルネットワーキング関連のものも山ほどあるが、ビジネスや生産性アプリも数多くある。例えば、「Evernote」「Google Cloud Print」「KINGSOFT Office」などだ。KINGSOFT Officeは「Microsoft Office」に代わるもので、HPのSlate 21 Proにプリインストールされている。従来のデスクトップアプリの代わりになるアプリがかつてなくたくさん出回っており、その数はこれからも増えるばかりだろう。
また、デスクトップメーカーはAndroidデスクトップをWindowsデスクトップよりも安価に提供できる。高額なOSライセンス料を支払わずに済むからだ。それだけでも価格を数百ドルは抑えられる。例えば、Slate 21 Proは、400ドルをわずかに切る価格で販売されている。
Androidデスクトップが企業でどのような用途に進出するかは、既に予想しやすくなっている。例えば、自分専用のマシンを必要としない従業員向けのWebキオスク端末として使われる可能性がある。こうしたWebキオスク端末は、空港や工場などに設置される。
Androidデスクトップは、ERPなど特定のアプリ専用の端末としても使われそうだ。Androidデスクトップはマルチユーザーでの利用が可能であり、各ユーザーが自分のデスクトップ画面を利用できる。実際、Slate 21 Proは最大5ユーザーで利用できる。
Androidデスクトップ導入の障害
これらはいいことずくめに聞こえるが、IT部門は他のさまざまな点を考慮することなく、Androidデスクトップに飛び付いてはならない。検討事項としては、例えば、
- Googleインフラへの依存をどのくらい許容するか
- ユーザーがGoogle Playからアプリをダウンロードする方式でよいか
- 組織として「Google Apps for Business/Education/Government(米連邦政府向け)」を使うか
などがある。Googleユーザーは「Google+」の利用をしきりに促されたりするだけに、企業は従業員をGoogleエコシステムから引き離して厳密な管理下に置くのに苦労するかもしれない。
従来のWindowsデスクトップには、ウィンドウ管理をはじめ、Androidにはない機能があることにも留意したい。Android端末は、一部の分野では生産性の面で確かにメリットがある。ただし、マルチウィンドウやマルチタスクといった機能を幅広く備えるWindowsデスクトップは、多くのユーザーにとって依然として最適な選択肢となっている。
では、Windows 8の販売が振るわないのはどうしてなのか。Windows XPのサポート終了を受けて販売は上向いているが、そっぽを向いたままのデスクトップユーザーが多い。Windowsストアアプリの統合の仕方が強引なことや、Microsoftアカウントを使うのが煩わしいことが、その理由に含まれるかもしれない。
Microsoftがモビリティ中心モデルをデスクトップユーザーに押し付けようとしたことが、Windows 8の導入がなかなか進まない一因だ。Android端末は、メッセージのやりとりやWeb閲覧にほとんどの時間を費やす人にはぴったりかもしれない。だが多くのユーザーは、従来のデスクトップ向けのアプリがなければ仕事ができない。そのOSがWindows、Linux、Mac OSのどれであるかにかかわらずだ。
Androidデスクトップの利用を検討する際、IT部門が直面するもう1つの問題が、ビジネス部門が複雑なWindowsベースプログラムに依存し続けていることだ。もちろん、Androidアプリのエコシステムが進化を続ける中で、こうしたプログラムに匹敵するAndroidサービスや製品が提供されるようになるだろう。だがそれまでは、Androidデスクトップを利用する場合、こうしたプログラムを機能させるための工夫が必要になる。
最もよく提案されるアプローチの1つは、Androidデスクトップをシンクライアントとして使い、仮想化したWindowsアプリを配信するというものだ。だがアプリの仮想化にはデメリットもある。信頼性の高いネットワークと、連続稼働するサーバやサービスの構築・運用が必要になるからだ。
例えば、アプリ仮想化のサーバがダウンすると、そのサーバに接続している全てのユーザーが影響を受ける。ネットワークが過負荷になったり、インターネット接続が切れたりした場合も同様のことがいえる。クラウドサービスと同様、仮想化は多くの要素に依存しており、そのどれかに問題が生じると正常に機能しない。
さらに、全てのアプリで仮想化がうまくいくとは限らない。仮想化がうまくいっても、デバイスエミュレーションやクリップボード共有を効果的に実行するのに必要な機能を、Androidデスクトップが十分に備えていない可能性もある。
多くの企業では、セキュリティも大きな問題になる。Androidデスクトップの支持者は、Androidに加えられてきた改善を盛んにアピールする。だが米国政府のセキュリティ基準を満たす安全なAndroid端末は、セキュリティ技術「Samsung KNOX」を備えたSamsung製品しかないと考えられている。デスクトップでこの基準と同じレベルのセキュリティが保証されることを求める企業が多い。
Androidデスクトップは、インターネットとクラウドサービスに大きく依存している。多くの企業では、双方とも自社に必要な安全性を備えていないと考えている。
選択は一筋縄ではいかない
Androidデスクトップはまだ初期の段階にあり、制限もある。Androidやアプリには今後多くの改良が加えられ、企業により適したものになっていくだろう。さらに、仮想化やクラウドベースサービスのような技術の改良が積み重ねられることで、Androidデスクトップはより有効な選択肢になる可能性がある。
だが現在の技術と市場の動向の中で、Androidデスクトップだけでなく、他の製品/技術にも企業市場への扉が開かれている可能性もある。例えば、Linuxデスクトップが企業にどんどん入り込むかもしれないし、Macが大成功を収めるかもしれない。やがて“iOSデスクトップ”を目にすることになる可能性もある。
1歩引いて、1人のユーザーの企業デスクトップの全用途を1つの手段でまかなうアプローチが現実的か、あるいは便利かどうかを考えてみよう。Windows 8があまり成功していないのは確かであり、他のやり方を検討する価値があるかもしれない。例えば、AndroidをVMで実行するという手がある。「Oracle VM VirtualBox」のようなオープンソースの仮想化製品では、既にAndroidをVMで稼働させることができる。
メールやテキストメッセージ、ツイートのやりとりにはどんな端末も使える。だが多くの業務では、WindowsデスクトップやノートPCの処理能力とマルチタスキング機能には、他の端末ではなかなか太刀打ちできない。この状況はすぐには変わらないだろう。
それでも、Androidデスクトップは多くのまっとうな理由から、無視できない有力な存在になる可能性がある。Androidデスクトップと従来のWindows端末の選択は、一見するほど単純明快にはいかない。その選択は、時間とともにもっと難しくなるかもしれない。
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