「ITIL 4」公開へ 従来のITILとの違いはモジュール化IT運用管理のベストプラクティス

ITサービスの設計保守に用いるガイダンスの新版「ITIL 4」が公開される。本稿では企業のITサービスマネジメントにおける課題と、この新しいガイダンスの特徴について紹介する。

2018年09月21日 05時00分 公開
[Linda TucciTechTarget]

関連キーワード

ITIL | ITガバナンス | 運用管理


photo

 ITサービスの設計、提供、保守に広く採用されているフレームワーク「ITIL」(Information Technology Infrastructure Library)の新しいガイダンスの公開が2019年初頭に予定されている。これは「ITIL 4」に当たる。このITサービスマネジメント(ITSM)ライブラリにとっては2011年以来のメジャーアップデートだ。テクノロジーの年月で言えば2011年は遠い昔のことになる。ITIL 4では何が実現されるのだろうか。そしてそれは十分なものだろうか。

 ITIL 4アップデートのリードアーキテクトを務めるアクシェイ・アナンド氏は、最近新しいガイダンスについてオンラインセミナーを開催した。同氏は、ITSMが現時点で直面している課題、こうした課題からもたらされる悪しき習慣、現バージョンのITILに対する批判を調査した。ITIL 4はこの全てに対処することを目指し、その方法が検討されている。

ITSMの課題

 まず、ITIL 4調査チームが割り出した課題を見ていこう。

  • 企業が局所的な問題を解決するために設計されたフレームワークを採用したこと

 アナンド氏によると、Open Groupの「IT4IT」や「DevOps」のようなフレームワークや手法は特定の部門やチームの問題を解決するために設計されたものだが、こうしたフレームワークは誤って適用されているという。同氏は次のように話す。「これらのアプローチは『組織のあらゆる問題を解決する特効薬』として売り込まれることがある。そのため企業は、これらを用いることで企業全体の問題が解決されると期待しがちだ。しかし実際の関連資料には違ったことが書かれている。多くのフレームワークはそれぞれの欠点を認めており、対象とする課題の範囲を認識している。あらゆる問題に有効な特効薬など存在しないのだが、残念ながらそのメッセージは行方不明になっている」

  • 組織構造にバイモーダルITを採用したこと

 バイモーダルは、不安定な時代におけるビジネス需要に対応する方法としてGartnerが大々的に宣伝したアプローチだが、厳しい糾弾を受けている。「バイモーダルは危険だと確信している。2つの速度だけでなく複数の速度を持つ、マルチモーダルIT組織についての議論を交わすべきだ」とアナンド氏は言う。

  • 「製品中心」の考え方を採用したこと

 現状では、ITサービスではなくソフトウェア製品の開発に重点が置かれている。しかしそれを変える必要があるとアナンド氏は述べる。Uberは輸送サービスを、Netflixはエンターテインメントを提供する。このように、UberやNetflixのような企業でも、最終的に提供するのはサービスだと同氏は主張する。

 「こうした企業は、顧客との関与、ブランド強化、顧客サポートの主な手段に製品を使用している。そのため、製品が重要な役割を果たすことは間違いない。だが、製品はサービスを提供するための仕組みだ」(アナンド氏)

ITSMの「アンチプラクティス」

 前述のITSMの課題が一部の悪しき習慣を引き起こしている。同氏はこうした習慣を「アンチプラクティス」と呼んでいる。これには「ウオーターメロンSLA」、ITIL実装に対する「点結び」アプローチ、「終わりなき成熟度向上戦略」などがある。

  • ウオーターメロンSLA:ITサービスプロバイダーは自社が優れたサービスを提供していると信じている。スイカのように全てが緑に覆われていると考えているが、切って中身を見てみると真っ赤に染まっている。つまり顧客は不満を感じている。こうした状況は期待のずれから生じるとアナンド氏は言う。測定基準をビジネスの成果ではなく生産活動に関連付けているとこうなる場合が多い。
  • 点結びITIL:アナンド氏によると、企業はITILを実装することで特定の問題を解決できるようになる直線的な取り組みを求めているという。しかしITILがこのように機能することはない。複雑な環境の管理では、サービス管理の成功へと至る道を連続的に何度もたどる必要がある。
  • 終わりなき成熟度向上戦略:より高いIT成熟度に達しようとして延々と探求を続けることは、無意味な取り組みになりがちだとアナンド氏はいう。資金の浪費にもなる。「もちろん、レベル3の成熟度よりもレベル4の成熟度の方が優れている。だが、ビジネスでは、レベル4に達するよりも、レベル3で終わらせることが必要になる場合が多い」

ITIL 4で修正される批判

会員登録(無料)が必要です

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

市場調査・トレンド インテル株式会社

知っておきたい「AI PC」の基礎知識:定義やメリット、評価ポイントを解説

近年、企業のPCを進化させるために“AI機能を搭載したPC(AI PC)”が注目されている。しかし、AI PCが具体的にどのようなものか分からないという声も多い。本資料では、AI PCの定義や導入メリットなどを詳しく解説する。

事例 Square株式会社

決済サービスが人件費削減につながる? 繁盛店オーナーが語る飲食ビジネス戦略

12年連続でミシュラン1つ星を獲得しているフレンチレストランのAlchimiste(アルシミスト)。そのオーナーシェフとマダムソムリエールが飲食ビジネスを運営するための戦略や実践テクニックなど、最高の仕事を行うための秘訣を語る。

事例 New Relic株式会社

モバイルアプリ「iAEON」のCXを向上、事例に学ぶオブザーバビリティ強化の秘訣

モバイルアプリケーション「iAEON」の開発/運用を行うイオンスマートテクノロジーでは、ユーザー規模の拡大に伴いエラーが増えてきたことから、オブザーバビリティの確保が課題となっていた。そこで採用されたアプローチと、効果に迫る。

事例 New Relic株式会社

全国2万以上の施設で利用されるSaaSサービス、自社運用で監視を強化した方法は

全国2万以上の保育/教育施設で職員の業務を支援するためのクラウドサービスを運営しているコドモン。ユーザー数の増加に伴いシステムの安定運用が課題になっていたという同社は、どのように監視体制の強化を進めたのだろうか。

製品レビュー 株式会社クレオ

パッケージではなく開発の必要もない、「業務効率が上がるITシステム」とは?

業務効率を高めて生産性を向上させるために、多くの企業がITシステムの導入を進めている。しかし、自社の業務に合わないITシステムを導入してしまっては、逆に生産性が低下する可能性も高い。この問題をどう解決すればよいのだろうか。

アイティメディアからのお知らせ

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ITmedia マーケティング新着記事

news017.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news027.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。

news023.png

「パーソナライゼーション」&「A/Bテスト」ツール売れ筋TOP5(2025年5月)
今週は、パーソナライゼーション製品と「A/Bテスト」ツールの国内売れ筋各TOP5を紹介し...