設備やノウハウ不足をどう扱う?
プログラミング教育に不安を抱く先生を救う、専門教材に込められた秘策とは
小学生を対象としたプログラミング教育が注目を集めている一方、教える側の設備やノウハウの不足といった課題がある。この課題を解消すべく、教育関連企業はさまざまな工夫を凝らしている。
2020年度からの小学校におけるプログラミング教育必修化に伴い、小学生向けのプログラミング教育に対する注目度が高まっている。一方でプログラミング教育を実施するに当たり、教える側の立場である学校や学習塾も懸念を抱えている。「PCなどの設備がない」「授業のためのノウハウがない」「他の教科や発展的なスキルにつなげるためには何をすればよいか分からない」などがその例だ。
教材メーカーや塾運営会社などの教育関連企業は、こうした課題を解決すべくさまざまな趣向を凝らした商品を打ち出している。以下では2019年1月9日開催の「塾・教育総合展2019」で出展されていたプログラミング教育用の製品やパッケージを参考に、これらの課題に対するアプローチ例を紹介する。
PCを使わないプログラミング教育
プログラミング教育に必要な設備といえばPCがまず挙がる。「授業に十分な数のPCをそろえ、適切に運用することは、費用や保守などの点から考えると簡単なことではない」。そう語るのは、教材販売会社のアーテックでプログラミング教材を担当する鈴木啓二氏だ。この課題に対し、PCを使わずにプログラミングを学べる手段を提供する動きがある。
PCを使わないプログラミング教育用の知育ロボットの一例が、アーテックの幼児/小学校低学年向け知育ロボット「アリロ」(写真1)だ。「直進」「右旋回」など、動作について一連の指示を与える、つまりプログラミングすると、アリロがその通りに動く。アリロ本体のボタンによる入力か、行動内容が描かれたパネルを並べてその上をアリロに走らせることで、動作を指示できる。アリロは本体の光学センサーで、パネルに描かれた指示内容やパネル自体の有無を識別する。目的の行動を遂行するためにはどのような指示を与えればよいかという、いわば簡単なフローチャートを考える行為を通じて、プログラミング思考の基礎を学べるようにしている。
指導者の不安や負担をなくす
教員や講師といった指導者がプログラミングになじみがなく、「授業方法が分からずに戸惑うケースもある」と鈴木氏は指摘する。「学習者に他の教科と結び付けて考えてもらう流れを作る」「基礎的な内容から発展させる」といった展開方法が分からず、プログラミングという行為を持て余してしまう場合もあるという。
これを受け、製品やプログラミング環境単体ではなく、テキストやカリキュラムも含んだ総合的学習パッケージの提供が広がりつつある。現在は学習塾向けが中心で、提供元企業と学習塾がフランチャイズ契約を結び、プログラミング講座を開設するビジネスモデルが一般的だ。指導者は提供される教材を基に授業内容を組み立てることができ、プログラミング教育に対する不安の解消につながる。
総合的学習パッケージを提供する各社は、テキストやカリキュラム自体にも工夫を施す。プログラミング学習と他教科の知識をリンクさせる情報を盛り込んだり、ビジュアルプログラミング言語から本格的なプログラミング言語へスムーズにステップアップできるようなカリキュラム構成にしたりする工夫だ。
教材販売や学習教室運営事業などを手掛ける学研エデュケーショナルは、アーテックと共同で「もののしくみ研究室」(写真2)という学習塾向け教育パッケージを提供している。このパッケージに含まれるテキストは算数や社会など複数教科の要素を取り入れており、さまざまな教科の知識とプログラミングを関連付けて教えやすくする。
もののしくみ研究室は教材として専用のブロックと、組み立てたブロックに取り付けるモーターやセンサーなどの電子部品を含む。学習者自らがブロックと電子部品を使ってロボットを組み立て、電子部品に対してプログラミングすることで動作を制御する。このブロックはアーテック製で、縦横斜めに連結できる特殊な構造をしている。
学習者はブロックを使い、温水洗浄便座や信号機など、身近にある装置を模倣したロボットを組み立てる。例えば組み立てたロボットがうまく動作しない場合、プログラムだけでなく動かす方の機構、つまりブロックの組み方にも問題があるのではないかと学習者は考える。「ブロックという実物体を使った学習が、総合的な問題解決力の習得に役立つだろう」と、学研エデュケーショナルの担当者である力山千夏氏は語る。
社会人や大学生をメインターゲットにしたオンラインのプログラミングスクール「TechAcademy」を運営しているキラメックス。同社が学習塾運営者向けにフランチャイズ展開する小中学生向けの「TechAcademyキッズ」は、TechAcademyの運営を通じて培ったリソースやノウハウを利用し、現役エンジニアによるチャットサポート体制を敷くことで指導者の負担軽減を図る。ビジュアルプログラミング言語から本格的なプログラミング言語の橋渡しとなるカリキュラムを提示。学習者が段階を踏んで実践的なプログラミング技術を獲得できるよう支援する。
TechAcademyキッズでは初級~中級編として、ビジュアルプログラミング環境「Scratch」を使った教材を用意している。2019年1月末から上級編として、プログラミング言語「Ruby」によるWebプログラミングのカリキュラムを順次提供する予定だ。今後はスマートフォンアプリケーションの開発講座も開講予定だという。
プログラミングに「親しみ」を与える
「親しみやすい外見」という、ここまでに挙げたものとは異なるアプローチでプログラミング学習のハードルを下げる教材もある。ソニー・グローバルエデュケーションのブロックプログラミング教材「KOOV」(写真3)は、カラフルな見た目のブロックが特徴だ。ブロックの形状は全7種で、縦横斜めに連結できる。「子どもが『プログラミング』や『ロボット』と聞いてイメージするとっつきにくさや重々しさを解消したい」と同製品の担当者である衛本章吾氏は説明する。同氏によれば、習い事としてプログラミングを学ぶ小学生は男子の割合が多いという。男女問わず手に取りやすいデザインにすることで、プログラミングになじみのない子どもでも興味を持ってもらいやすくした。
KOOVではブロックに加え、発光ダイオード(LED)やモーターなどの電子パーツで「ロボット」を組み立てる。専用アプリで電子パーツを制御するプログラムを記述し、それによってロボットを動かす。同アプリは子どもが一人だけでも学習を進められるような「学習コース」を提供し、教育者の指導に関する負担を軽減する。ブロックの組み立て方については「3D組立ガイド」を参照して向きや倍率を自由に変化させ、詳細な構造を確認しながら作業できる点も、学習者が自力で疑問を解決させる手助けとなる。公式サイトではユーザーがオリジナル作品を公開しており、学習者の創作意欲やモチベーションの刺激につながる。
文部科学省は『小学校プログラミング教育の手引(第二版)』で、小学校におけるプログラミング教育の狙いの一つに「プログラミング的思考の育成」を挙げている。プログラミングはあくまでも考え方やものの見方を会得する手段、という位置付けだ。その育成環境を実現するために、今回紹介したような専門教材の活用は役立つだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
技術文書・技術解説
[Jamf Japan 合同会社] MDMだけでモバイルセキュリティは十分? 不足する対策を16項目でチェック -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 世界的な家電メーカーが実践する「クリエイティブプロセス効率化」の方法とは? -
事例
[Wrike Japan 株式会社] 世界的テクノロジー企業に学ぶ、プロセス標準化とプロジェクト納品自動化の秘訣 -
事例
[Wrike Japan 株式会社] ソニー・ピクチャーズ テレビジョンに学ぶ、次世代サービスデリバリーのヒント -
製品資料
[株式会社ウェーブスプリッタ・ジャパン] 100Gbps対応の光トランシーバーはどう選ぶ? 10分で分かる選定のポイント
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「Microsoft 365」が乗っ取られる 跡形もなくMFAを破る手口
-
2
「企業内サーバ環境の利用実態」に関するアンケート
-
3
AI全部入り「Microsoft 365 E7」に企業が二の足を踏む訳 移行意向はわずか4%
-
4
エンジニアが選考を辞退する本当の理由 7割が隠す“面接の違和感”とは
-
5
「VMware離れ」は本当か 3000社がVCF 9にかじを切った現実的な理由
-
6
AWS障害でも補償ゼロの衝撃 サイバー保険で情シスが見落とす「細則の壁」
-
7
脱VMwareの前提が崩れる BroadcomのVDDK公開停止で確認すべき点
-
8
【基本情報技術者試験】「デュプレックスシステム」と「デュアルシステム」の違いは?
-
9
マンガで解説:採択率は3割台? デジタル化・AI導入補助金申請の落とし穴
-
10
なぜOpenAIやAnthropicのAIは「脱走」したのか 情シスが迫られるエージェント統制
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
生成AIのハルシネーションを防止 回答精度を高めるセマンティックレイヤーとは
-
2
5回聞くだけじゃ足りない? トヨタ式「なぜなぜ分析」の正しい実践方法
-
3
AIエージェントで多様な日常業務を効率化するための入門ガイド
-
4
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
5
「脱Excel」か「Excel快適化」か? 現場にやさしい業務改善の進め方
-
6
マンガで解説:「ゼロトラスト」「SASE」の必要性とメリット
-
7
5分で分かる「セキュア大容量ファイル転送サービス」の機能とメリット
-
8
情報セキュリティ対策早分かりガイド:25の自社診断で弱点と解決策を理解
-
9
国税庁の次世代基幹システム「KSK2」稼働開始に向けて、対応すべき変更点とは?
-
10
AIが「わざわざ使うツール」になっていない? 業務で自然に使う導線にする秘訣
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー