アナリストのキナスト氏は、AIの規制について考え始めるタイミングであると説く。AIが人間を規制するSFチックな可能性だけでなく、同氏はより現実的であり得る問題を想定している。
人工知能(AI)を規制するのは時期尚早だ。現時点では、AIに関する一般的な定義もなければ十分な理解もない。だが、世界的な合意の形成に向けて今から考え始めておくのが得策だろう。そう語るのは、法律の専門家にしてアナリスト企業KuppingerCole Analystsのフェローアナリストでもあるカルステン・キナスト氏だ。
「AIが確実に最大限のメリットを社会にもたらすには、現実的に可能かつ遅過ぎないタイミングで規制を導入する必要がある。さもなければ、効力がなく、まとまりのない規則になりかねない」とキナスト氏は本誌に語った。
「これは社会のあらゆるレベルと分野で公開議論すべきことだ。そうすれば、AIについて実現を望んでいることについて意見の一致を図ることができる。モバイル技術で発生した、私たちの生活を技術が規制する状況を回避することが目的だ」
多くの人がモバイル端末に依存し、肌身離さず持ち歩いているとキナスト氏は指摘する。「私たちは以前のように電話番号を覚えていない。その必要がないためだ。だが、意識的に電話番号を覚えるのをやめた人はいないだろう。これは自然に起きたことだ」
AIが生活に与える影響は大きく、モバイル端末の比ではないとキナスト氏は言う。そのためAIの目指すところと潜在的な影響について意見の一致を図り、これらの目的を達成するための規制について分かりやすく組織的にアプローチすることが重要だ。
「これは感情的にならずにグローバルに取り組む必要がある。まずAIに関する基本的な規則を作成し、その理解が深まったらより詳細な規則を使ってフォローアップする」(キナスト氏)
キナスト氏は次の2つの点から、これが重要なことだと考える。一つはAIの前向きな目標を達成できること。もう一つは、特定の技術企業や一握りの技術企業がAIに関する規則やアジェンダの設定を支配できないようにすることだ。
本当の意味で学習できるAIが現実になる前の今が、AIの規制に向けた取り組みを始める絶好のタイミングだとキナスト氏は語る。真のAIが現実になれば、AIは人間社会が同意して設定した規則に従わず、自身で規則を設定して既存の規則を書き換えることも十分可能になる。
「欧州委員会は既にAIの利用に関する倫理的なガイドラインを公開し、大規模なパイロットプロジェクトを発表している(訳注)。このパイロットプロジェクトにはガイドラインが適用されるが、これは全ガイドラインのほんの一部にすぎない。さらなる作業をグローバル規模で行う必要がある」とキナスト氏は語る。
訳注:Computer Weekly日本語版 6月5日号掲載の「欧州委員会が人工知能(AI)のガイドラインと試験運用開始を発表」を参照。
「真のAIが現実になってからAIを規制し始めるのでは遅過ぎる。そうなる前に、技術がコミュニケーション、思考、問題解決策の探し方、他の人との付き合い方を規制しているのと同じように、AIが私たちを規制することから身を守らなければならない」
それほど遠くない将来に社会はAIを規制して、共通目標を達成するための規則を設定する知識と機会を手に入れるとキナスト氏は推測する。「AIが私たちを規制して判断や行動に影響を与えるようになる前に、私たちがAIを規制しなければならない」とキナスト氏は言う。
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