地盤沈下する日本の道路を守る切り札はAIレーダー画像をAIがチェック

老朽化した地下インフラを地下レーダーでチェックしている川崎地質の悩みは、目視によるレーダー画像の解析には限界があることだった。しかし、AIの導入も容易ではなかった。

2019年07月22日 08時00分 公開
[Alex ScroxtonComputer Weekly]

 日本の広大で複雑な(かつ実に不可解なことが多い)道路網の下には、同じく広大な下水道管網が広がっている。だが日本は地震多発地域にある。その上、戦後の高度経済成長期に敷設された地下インフラは今や老朽化し、劣化している。そのため地盤沈下や陥没穴が大事故の主な原因になりつつある。

 日本の国土交通省によると、2015年には全国3300カ所で道路陥没が発生したという。一例を挙げると、2016年11月に福岡県で大陥没事故が発生し、大都市中心部の交差点が数日にわたって通行止めになった。

地中レーダーで空洞を特定

 ディープラーニングをはじめとする人工知能(AI)の技術が、地中レーダーが生成するデータに応用されつつある。これにより、危険な地下空洞が出現する前に路面下の浸食領域を特定し、命を脅かす構造崩壊を防止することが期待されている。そう語るのは、東京を拠点とするエンジニアリング企業の川崎地質(KGE)だ。同社は土木や地下水の汚染、海底マッピング、地滑りと地震のリスク分析、構造劣化など、多岐にわたる地球科学を専門とする。

 同社の技術者、今井利宗氏は次のように語る。「地表からは見えない道路下の空洞を正確に特定する方法が必要だった。こうした空洞を陥没前に見つけ出さなくてはならない」

 そのため、同社は独自の地中レーダー探査システムを開発した。このシステムはミニバンの背後に取り付けられ、時速50〜60キロでけん引される。2メートル幅のコンテナには5本のアンテナが取り付けられ、50M〜1000MHz帯域で信号を送信する。これにより、沈下や地下水漏れなどが原因で生まれる空洞を、道路下2〜3メートルの深さまで正確に特定できる。

 データは路上で収集され、本社に転送される。今井氏は5Gによってこのプロセスが容易になることを期待している。

試行錯誤のAI導入

 同社の初のAI構想は、率直に言ってうまくいかなかったという。そんな中、他のプロジェクトで一緒に仕事をしていた富士通の交通および道路データサービス部門から、同社のAI製品「Zinrai」を試してみてはどうかという提案を受けた。

 「地下空洞を特定するAIの最終目標は、空洞を決して見逃さないことだ。だが実際には100%の精度を達成するのは非常に難しい」(今井氏)

 同氏はさらに続ける。「これに加え、精度向上、誤検知率低減をどこまで実現できるかという疑問があった。このための開発プロセスにおける課題は、トレーニングデータの品質の確保と、トレーニングデータの全体的な不足だった」

 同社にとって恐らく最大の課題は、トレーニングデータの不足だった。今井氏によると、猫や犬の画像をAIが認識するようにトレーニングするのであれば、インターネットにあふれている画像を利用すればよいのでずっと簡単な話だという。だが地下空洞の写真(具体的にはそのレーダー画像)の数は極めて少なく、猫や犬のようにかわいらしくもない。

 地下には石やコンクリートの塊などもあり、人間が空洞と見間違うようなレーダー信号を生み出す。同社は、人間が空洞と見間違う異常もトレーニングデータに含めるべきだと判断した。これによりデータが本来の量の2倍になったが、誤検知率は減った。

 この拡張されたデータセットでの試験運用により、Zinraiは約82%の精度で地下空洞を特定できることが分かった。人間の精度が80%であることを考えれば、統計的に大きな差異ではないように見える。だが同時に地下の異常の一次検出時間が90%短縮され、技術者が数時間かけていたものが数秒で完了する。AIの作業を手動で確認する時間を考慮しても、50%近く時間が節約されることになり、やはり無視できない結果となった。

 今井氏によると、印刷データの確認時、技術者は紙の特定の部分ばかりを調べがちで、重要な情報を見落とす恐れがあるという。「人手とAIを組み合わせれば、人間が分析している対象、調査しようとしている対象に客観性が加わる。これもAIがもたらすメリットになる」

人間の能力強化

 だからといって、技術者の数を減らすことにはつながらないと坂上氏は強調する。同氏にとって、AIとは「人間の能力を強化」するものでなければならない。

 「熟練の技術者は常に必要な存在で、AIの開発と技術者育成は当社の事業の両輪だ」(坂上氏)

 初期段階での目的は、社内の作業をできる限り効率化することだと今井氏は話す。

 川崎地質は、一般車両にも取り付け可能なコンパクトなレーダー技術の開発に取り組んでおり、日常業務の中でさらに多くのデータを収集したいと考えている。2021年または2022年の商用化を目指している。

 「当社の目的は、最終的にはこの技術を外部顧客向けのサービスに進化させることだ」(今井氏)

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