「分子メモリ」がストレージを変える【後編】
「分子メモリストレージ」と「HDD」の違い “容量はHDDの100倍”の理由は
「分子メモリ」のストレージはHDDよりも少ない物理的なスペースで、はるかに多いデータ量を保存できるようになるという。HDDとは何が違うのか。その仕組みを解説する。
「分子メモリ」を使ったストレージは、HDDよりも飛躍的に記憶密度が高まる可能性がある。前編「容量はHDDの100倍? 『分子メモリ』を使ったストレージとは」では、分子メモリのような技術がストレージ分野で必要とされている背景を解説した。後編は、なぜ大幅に記録密度を高められることができるのかなどを中心に、分子メモリを使ったストレージについて、より具体的に説明する。
ドイツにあるキール大学の研究チームが分子メモリに関する研究を開始したのは2014年のことだった。同大学のマヌエル・グルーベル氏は「このプロジェクトには、物理学、化学、材料工学を含むさまざまな分野から多数の研究者が関わっている」と話す。同プロジェクトの目標は「分子スイッチ」(分子の状態によってオンとオフの切り替えを実現する仕組み)の特性を理解し、その技術を向上させることにある。「長期的には、ストレージだけでなく、医療分野の用途などさまざまな種類のアプリケーションに役立つ分子の仕組みを探りたい」と同氏は説明する。
HDDとは異なる「分子メモリ」ストレージのデータ保持の仕方
グルーベル氏は「分子メモリを使ったストレージは、われわれの発見を応用できる可能性がある」と話す。同氏の研究チームはコンセプトを実証したが、技術の開発を進めているわけではない。代わりに研究チームは、分子機構がどう機能するかを探るための新しい実験に着手している。これはさらに優れた分子スイッチを生み出す可能性を秘めている。
HDDの記憶媒体である磁気ディスクは、複数の小さな領域(磁区)に分割されており、その磁区の1つが1bitに該当する。これまでに登場している一般的なHDDは、磁区の磁化方向(S極、N極の方向)によって、「0」または「1」としてデータをディスクに保存する。分子メモリを使った新技術は、約1ナノ四方の大きさの分子にデータを保存する点で、HDDとは異なる。これはHDDの記憶媒体に比べてはるかに小さい。加えて、分子メモリでは「0」「1」「2」という3つの状態を利用できる。これらの特性が組み合わさることで、ストレージ密度が大幅に増大する可能性がある。
研究チームが直面した最大の課題は、ストレージに適切な分子と、その分子を配置するのに最適な表面を持った基盤を見つけることだ。さらにそれらの壊れやすい2つの要素を結び付け、正しく効率的に機能させる方法を見つけることも必要になる。やがて化学チームは特別な種類の磁気分子を合成することに成功した。グルーベル氏とパートナーのスジョイ・カラン氏を含む物理学チームは、その分子を窒化銅の表面に配置することに成功した。
長期的展望
このストレージ技術を実験室の外で使えるようにするためには、まだ研究チームが克服すべき課題が山積している。研究チームは、超高真空環境や非常に低い温度といった、極端な条件の下で実験を進めている。こうすることの狙いは、環境の条件が測定結果に影響を及ぼすことを避けることにある。「そうしなければ、この技術に対するわれわれの認識に偏見が入る可能性があるからだ」(グルーベル氏)
分子メモリ技術の実用化までにはまだ何年もかかるだろう。「実用化までの時間を推定するのは非常に難しい。確実なのは、あと10年は商用利用が難しいということだ」と、グルーベル氏は話す。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
「分子メモリ」がストレージを変える
分子メモリを活用したストレージの研究開発に取り組んでいる大学の研究チームが、記録密度を飛躍的に高めたストレージを開発できる可能性を見いだした。実用化は近いのか。
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
技術文書・技術解説
[ネットアップ合同会社] 金融庁ガイドラインから読み解く、「次世代データレジリエンス」の在り方 -
製品資料
[ネットアップ合同会社] 製造DXでデータ活用ニーズが拡大 分散データ活用とAI活用をどう実践する? -
製品レビュー
[ネットアップ合同会社] AIで使いたいデータが内外に点在、研究におけるAI活用を阻む“真の課題”とは -
製品資料
[株式会社kickflow] 稟議・承認作業の「脱オンプレ・脱Excel・ペーパーレス化」を一気に進める方法 -
製品レビュー
[株式会社kickflow] ワークフローシステムのクラウド化 “みんなが不幸になる”事態を避けるには?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
「契約業務のAI活用」に関するアンケート
-
2
なぜ人はいるのにDXが進まない? ライオンも直面した“老害”レガシーシステム
-
3
「エージェントを作るな、スキルを作れ?」 Anthropicが提唱するAI運用の勘所
-
4
半数がブルーカラー転向を視野に? ベテランエンジニアを追い込む“54歳の壁”
-
5
障害対応に「余裕なし」が9割超 運用担当316人調査で見えた「運用赤字」
-
6
Microsoft月例パッチ1400件超で過去最多 「限界点」を迎えたパッチ管理
-
7
「年1回の外部診断」が限界に 大手小売が脆弱性管理を内製化・一元化した方法
-
8
「高額な外部委託」はもう不要? AIが変える中小企業のEDR運用
-
9
シャトレーゼを悩ませる偽メール 混乱なしでBIMI導入とDMARC強化を実現した方法
-
10
PHP脆弱性「PHP2Shell」で2260万件に影響 情シスの緊急チェックリスト
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
AI駆動攻撃にどう対抗する? 超速の攻撃からエンドポイントを保護する方法
-
2
2026年のサイバーセキュリティには何が必要か? 最新データに学ぶ傾向と対策
-
3
経験豊富な即戦力人材に直接アプローチできる、「攻めの採用」への転換術
-
4
「IT史に名を残すシステム障害」8選
-
5
最速72分でデータが流出? 最新の脅威トレンドや侵入手法から分かった防衛策
-
6
10G回線の真価をフルに享受するには? 導入前にチェックしたいポイント
-
7
AI駆動開発のスピードと安全性を両立 「品質・セキュリティ管理」の実践ガイド
-
8
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
-
9
「標的型攻撃メール」事例・サンプル集
-
10
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー