AWSで運用していた大規模なストレージシステムをオンプレミスに移行したDropbox。同社はなぜ、クラウドサービスからオンプレミスに回帰する「脱クラウド」の判断をしたのだろうか。
IaaS(Infrastructure as a Service)やPaaS(Platform as a Service)といったクラウドサービスにシステムやデータを移行させる動きは拡大の一途をたどっている。それに逆行するようにクラウドサービスからオンプレミスに回帰する「脱クラウド」に踏み切る企業もある。
脱クラウドを大規模に実行した企業として知られるのがDropboxだ。同社は2008年に同名ファイル同期サービスの正式提供を開始してから約7年が経過した2015年に、Amazon Web Services(AWS)の同名クラウドサービス群のクラウドストレージ「Amazon Simple Storage Service」(Amazon S3)で保管していた膨大なデータを、オンプレミスのストレージシステムに移行した。事業が成長を続ける中、AWSでインフラを拡充するという選択はしなかった。
なぜDropboxは脱クラウドを実行したのか。ストレージシステムをオンプレミスのインフラで構築する狙いは何だったのか。同社のインフラ分野を率いるジェームズ・コーリング氏の話を基に紹介する。
Dropboxはファイル同期サービスを2008年に提供開始する際、データの格納先としてAmazon S3を採用した。「クラウドサービスがないことが当たり前の時代と、クラウドサービスが普及する時代にまたがっていた」と、コーリング氏は当時を振り返る。こうした状況は「ベンチャー企業として幸運だった」と同氏は語る。
幸運だった理由の一つは、Dropboxのファイル同期サービスがクラウドサービスの一つとして注目を集めたことだ。インフラを迅速に用意するためにAmazon S3を利用できたのがもう一つの幸運で、自社サービスをできる限り早くユーザーに届けることは資金調達をする上でもプラスに働いたに違いない。クラウドストレージとしてAmazon S3を選んだのは、当時の状況が大きく影響している。Dropboxの提供が始まった2008年は、AWSがAmazon S3の提供を始めた2006年の直後だ。クラウドストレージ市場そのものの黎明(れいめい)期であり、選択肢は限られていた。市場を開拓したAmazon S3を選ぶのは自然な選択だったと言える。
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