オーストラリアのChildren's Cancer Instituteは当初オンプレミスでHPCを構築したがクラウドベースのHPCに移行することにした。だが他にも、一般企業でもあり得る課題を抱えていた。
前編(アストラゼネカとマクラーレンがオンプレミスHPCを使い続ける理由)では、オンプレミスのHPCを選んだAstraZenecaとMcLaren Racingの事例を紹介した。
後編では、オンプレミスからクラウドベースのHPCに移行した事例を紹介する。
CIO(最高情報責任者)の多くは、オンプレミスHPCに満足している。だが、必ずしも全てが満足しているわけではない。
オーストラリアのChildren's Cancer Instituteのエレイン・ニーソン氏(CIO)は、同研究所が生物数学者を採用した当時を振り返り、次のように話す。その生物学者はHPCを利用する必要があった。そこでニーソン氏が率いるチームはDell TechnologiesのHPCをオンプレミスで構築することに決めた。
「しかし、そのオンプレミスHPCは希望通りに機能することは決してなく、かなりの資金を投じ続けなければならないことに気付いた。それは実現不可能だった」と同氏は話す。
同研究所は、仮想化と「Microsoft 365」用にAzureを既に利用していた。そこで試験的にAzureでHPCワークロードを運用してみることにした。その際、クラウドに切り替えることでコストが急増しないことを重視した。
「コストが膨れ上がる一方なので、膨大な量のリソースをスピンアップすることも、リソースを使っていないのに年中無休で24時間利用することもチームは望んでいなかった。そのため、6カ月の試験運用中にクラウドを効率良く利用する方法を確認した」とニーソン氏は話す。
現在、生物数学者チームは作業の90%をクラウドで行っている。
DellのオンプレミスHPCからAzureへの移行は簡単ではなかった。その大きな理由は社内のリソースとスキルにある。この2つは同研究所が最初にオンプレミスHPCを導入する際の妨げにもなっていた。
「当研究所は主に『Windows』を利用しているが『Mac』を使っている研究者もいる。しかしHPCは全て『Linux』で運用される。そのことも当研究所にとっては大きな課題だった。その専門スキルの習得に今も悪戦苦闘している」(ニーソン氏)
同氏はこの専門スキルを有するスタッフを獲得するために、オーストラリアの求人市場でMacquarie Bankなどの巨大企業と競争しなければならなかった。
「Linuxのスキルを有するスタッフを見つけることはできなかった。そのため、Linuxは社内における最大のスキルアッププログラムの一つになった。クラウドは多くの点でプラグ&プレイになっているため、実際には全てがやや簡単になる。そのため、オフプレミスへ移動するメリットは大きかった」と同氏は話す。
Children's Cancer Instituteは、オンプレミスHPCの利用をまだやめてはいない。だが、そのサポートは2021年2月に終了する。
「現時点では、幾つかの分析パイプラインをクラウドでできるようにするため、研究者チームが行う必要のある作業は少し残っている。研究者チームはその作業に取り組んでいるので、切り替えが完了するまではオンプレミスのシステムをバックアップとして保持しておくことになるだろう」(ニーソン氏)
クラウドベースのHPCに迅速に移行するようチームに強く求めたことをニーソン氏は認めている。だが、大きなワークロードを抱える企業にとっては必ずしも可能なことではない。
HPC市場には成長の余地が十分ある。この市場はオンプレミス導入とクラウド導入の両方の需要に支えられている。
Hyperion Researchのレポートによると、オンプレミスHPC市場には2020年に240億ドル(約2兆5267億円)の値打ちがあり、2024年まで年間7%の成長が見込まれる。クラウドベースのHPC市場には2020年度に43億ドル(約4527億円)の値打ちがあり、2024年まで年間17%の成長が見込まれるという。
つまり、時間がたつにつれてクラウドベースのHPC市場がオンプレミスHPC市場を追い抜くと考えられる。だが、それには時間がかかるだろう。
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