液冷システムを検討していないデータセンター事業者は時代後れデータセンターの液冷化【前編】

冷却効率の高さとコスト削減の可能性によって注目されている液冷システム。ある事業者は液冷化を必然と捉えて準備を進めている。当然、懐疑論者もいる。データセンターは変わるのだろうか。

2020年07月10日 08時00分 公開
[Caroline DonnellyComputer Weekly]

 データセンターにおける液体冷却(液冷)はそれほど目新しい考え方ではない。だがそのユースケースは依然ニッチで、主にエクサスケールのハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)環境に限られている。

 データセンターの温度を制御する手段としては相変わらず外気冷却が好まれ、最も普及している。ただし今後もずっとそうだとは限らない。英国エセックスに拠点を置くコロケーション企業Kao DataのCEO兼COO(最高執行責任者)ポール・フィンチ氏はそう述べる。

 同社は機械冷却ではなく間接蒸発冷却を活用する英国初の卸売りコロケーション施設だと主張する。機械冷却はサーバの排熱を大気に放出するものであり、外気を取り込むことで機器の温度を低く保つわけではないとも述べている。

 英ハーロウにある同社の主力マルチテナント施設は、液冷が普及する可能性に備えて設計されている。フィンチ氏が考える通り、空気冷却(空冷)システムと液冷システムが混在するハイブリッド施設の開発は、そうした未来を見据えて下地を築く適切な方法になる。

 「データセンターコロケーション市場に身を置きながら自社の施設に液冷機能を導入する計画を立てていないとしたら、かなり時代に乗り遅れている。液冷処理装置技術がそう言える段階に達しているのは間違いない」と同氏は語る。

 液冷式施設の物理スペース要件やレイアウトには、空冷式施設とは異なるデータセンター設計が要求される。

 「データセンターの建物は進化している。液冷を次のステップにするなら、建築段階に入る前に考慮しなければならないことがある。リフト設計を含め、床荷重や天井高、設備搬入ルートなどを検討する必要がある」とフィンチ氏は付け加える。

 上記の全要素を考慮していないコロケーションプロバイダーは、液冷を必要とするワークロードへの対応に苦労することになる。後々競争上不利な立場に追いやられる恐れもある。

空冷から液冷に移行するストーリー

 データセンターが近い将来に空冷から液冷に大きく移ることを誰もが必然だと確信しているわけではない。独立系データセンターコンサルタントのマーク・アクトン氏は、そのような変化は数十年がかりで進行することになるはずだと話す。

 「個人的見解だが、現時点の問題の解決策は液冷だ。だが長期的に見ると状況は変わるかもしれない。『2025年や2030年のデータセンターはどのようになっているか』と聞かれたら、『今と何も変わらない』というのが私の基本的な回答になる」

 「現在構築しているデータセンターの寿命は20〜30年だ。そのため、2030年のデータセンターは全く異なるものになるという考えは全ての要素を熟慮していないのだろう。その頃までに若干違うものを構築する可能性はある。だが既存のものを使っていることは間違いない」

 これには空冷システムも含まれる。そうした状況が変わるのは、液冷を使う方が経済的に合理的になる程度まで各ラックのコンピューティング密度が高まったときだと同氏は補足する。

 「傾向としてコンピューティング密度は増加し続けている。高密度化が進めば、ある時点で限界を超えて液冷の方がより経済的かつ実用的という状況が生まれる。そこに到達するには、今よりはるかに高密度のコンピューティング環境が必要だ」と同氏は言う。

 「キャビネット1つ当たり40キロ〜50キロワットで動作する非常に高い演算能力を持つシステムをご存じだろう。このような規模に本格的に到達すると、初めて液冷の方が合理的になる」

 「ラックが1つ2つしかないなら、まだ空気で冷却できるだろう。だが高密度を必要とする規模になると、液冷の方がはるかに実用的な選択肢になる」

後編(Computer Weekly日本語版 7月15日号掲載予定)では、液冷化による環境への影響や経済的な分岐点について解説する。

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