AI時代を支えるNVIDIA【前編】
GPUベンダーから“AIの会社”に変貌 NVIDIAの歴史とこれから
GPU市場を深耕してきたNVIDIAは、AI技術分野で勢力を拡大しようとしている。同社がGPUの用途を開拓してきた歴史を振り返るとともに、今後の方向性を考える。
ビッグデータ処理やAI(人工知能)技術が企業のIT分野において広く活用されるようになってきた。DX(デジタルトランスフォーメーション)推進という文脈においても、まずはデータの活用が必須になり、AI技術が重要な役割を担う。そしてAI技術の活用と発展を支えるのがプロセッサの進化だ。
NVIDIAは、今や「AIの会社」と呼んで過言ではないほどにAI技術分野への注力が目立つ。GPU(グラフィックス処理ユニット)ベンダーとしての確固たる地位を築き、Arm買収まで発表した同社はこれから何を目指すのだろうか。
“GPU一筋”だったNVIDIA
NVIDIAはグラフィックスチップ、より一般化した言葉で言えばGPUの“最古のベンダー”というわけではない。過去を知るPCユーザーは、「S3」(S3 Graphics)や「Matrox」(Matrox Graphics)、「ATI」(ATI Technologies)といった名前を記憶しているだろう。NVIDIAの歴史について同社のWebサイトには次の説明がある。
(NIVIDA創業の)当時、24を超えるグラフィックスチップの会社がありましたが、3年後に、その数は70まで急増しました。2006年までに、NVIDIAは当時から操業を続けている唯一の独立系企業となりました
2021年現在、GPUベンダーはATIを買収したAMD(Advanced Micro Devices)と、NVIDIAの2社にほぼ集約された状況だ。NVIDIAは1993年に、ジェンスン・フアン氏、クリス・マラコウスキー氏、カーティス・プリエム氏の3人の創業者が設立した。2021年現在、フアン氏はNVIDIAのプレジデント兼CEO(最高経営責任者)を務め、マラコウスキー氏はフェローとしてNVIDIAに籍を置いている。
NVIDIAが「GPU」という用語を始めて使用したのは、1999年に「GeForce 256」を発売したときだった。2006年にはGPUで汎用(はんよう)の並列計算をするための開発環境およびプログラミングモデル「CUDA」(Compute Unified Device Architecture)を発表した。これがGPUを汎用計算に用いる「GPGPU」(General-Purpose Computing on GPU)への取り組みの土台となった。同年に競合のAMDはATIを買収している。
GPUとAI技術が“主従”逆転
AMDのATI買収によって、事実上AMDのプロセッサと組み合わせることができるのは旧ATIのGPUに決まってしまった。Intelも自社製GPUの開発に注力し始めたことから、「NVIDIAの将来展望に暗雲が垂れ込めている」と見る向きが強まった。実際、さほど高度なグラフィックス処理を必要としないビジネス向けPCの場合、ユーザーは「CPUベンダー標準のグラフィックス処理機能で十分」と判断するようになった。サードパーティ製のグラフィックスボード(ビデオカード)を購入するのは、ゲームプレイヤーなどハイエンドのユーザーに限られると業界関係者は予測した。その予測の通り、GPU市場に占める割合の大きかったビジネス向けPC向けのグラフィックスボードを追加で購入する例はほとんどなくなった。
NVIDIAがGPGPUというコンセプトを打ち出したのは、こうしたタイミングだった。業界関係者は総じて「グラフィックス処理専用だったGPUの用途を拡大し、市場を確保するための取り組み」だと捉えた。同社は創業当初からあくまでもGPU専業のベンダーであり、GPUを軸として事業拡大を目指すことは必然だったため、この見方は実態に即していたものと考えられる。
CUDAによるGPGPUの初期の成功例として国内でよく知られているのは、東京工業大学のスーパーコンピュータ「TSUBAME」だろう。2008年11月に同大学が発表した「TSUBAME 1.2」は、680基のGPU「NVIDIA Tesla」を搭載し、スーパーコンピュータおよびHPC(高性能コンピューティング)の分野でGPUの有用性を鮮烈にアピールする形になった。その後、GPGPUは機械学習などのAI技術やブロックチェーン、暗号通貨のマイニング処理などの分野で段階的に利用が拡大してきた。昨今は「GPU」の名称に違和感を抱くほど、AI技術などグラフィックス処理ではない用途に必須のアクセラレーターとしての地位を確立している。
NVIDIAがグラフィックス処理以外でもGPUの能力を生かせる用途を探していたとき、ちょうどAI技術の発展のタイミングが来た――。これが、AI技術の活用にGPUが使われ始めた当初の現実に近いのではないかと考えられる。その後AI技術の活用が広がり、同社のAI技術分野への取り組みは戦略的な重要度を高めてきた。今では、NVIDIAは「AI技術に必要なハードウェアとしてGPUを開発している」という逆転が起こっていると言っても過言ではない。もはや同社は“GPUベンダー”ではなく、“AIの会社”と呼んでいいほどだ。
AI技術市場を視野に入れた製品展開
2021年4月にNVIDIAがオンラインで開催したプライベートイベント「NVIDIA GTC21」で、CEOのフアン氏はさまざまな新たな取り組みを発表した。特に注目すべき点は、下記2点だ。
- Armアーキテクチャ(Armによるプロセッサ設計)のCPU「NVIDIA Grace」(以下、Grace)の発表
- Mellanox Technologies買収で獲得したSmartNIC(NIC:ネットワークインタフェースカード)を発展させた「NVIDIA BlueField DPU」(以下、BlueField)のロードマップ公開
NVIDIAは従来のGPU事業の枠組みから大きく踏み出し、「GPUを活用して大量のデータ処理を担う次世代のコンピューティングに必要なプロセッシングユニットを広範にそろえるベンダー」になったと言える。同社が「DPU」(Data Processing Unit)と呼ぶBlueFieldシリーズは、もともとは高速なネットワーク通信を実現するNICのコントローラーに、Armアーキテクチャのプロセッサを追加してさまざまなデータ処理を実行する“スマートなNIC”(SmartNIC)のコアとして設計されたものだ。
GRACEとBlueFieldは、いずれもArmアーキテクチャのコアを持つことになった。こうした取り組みに照らして考えると、NVIDIAがArm買収を発表したことはごく自然な成り行きだと考えられる。同社のArm買収に対しては反対の声も聞かれ、英国政府が国家安全保障の観点からこの買収計画に介入すると発表するなど、原稿執筆時点では成立するかどうかは不透明な面もある。しかしこれらの動きの進展によっては、汎用的なデータ処理向けコンピューティングプラットフォームのベンダーとして、NVIDIAが圧倒的な地位を確立する可能性もある。
中編では、NVIDIAの新たな取り組みの鍵となるプロセッサの一つ、BlueFieldについて詳細に見る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
AI時代を支えるNVIDIA
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
製品資料
[株式会社ビザスク] 製造業の新事業創出 成功の鍵は「タラレバ問題克服」と「3つの判断ポイント」 -
製品資料
[日本シーゲイト株式会社] 実験のやり直しを防止 研究データ基盤に求められる高可用性ストレージとは -
製品資料
[株式会社Leaner Technologies] もっと安く買えるのに…… 間接材購買で“コスト削減機会”を逃さないためには -
製品資料
[株式会社セールスフォース・ジャパン] フィールドサービスの熟練技術者が「AIエージェント」を求めている理由 -
製品資料
[株式会社グリーンフィールド・オーバーシーズ・アシスタンス] 基礎から分かる「就労ビザ」 アメリカ進出を目指すなら知っておきたい取得戦略
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
仮想化環境の死角を“未知の脅威”が狙う時代――新たな敵をどう見破るか?
-
2
「Salesforceのテスト自動化ツール」に関するアンケート
-
3
年収700万超エンジニアに共通するスキルと「もっと勉強すべきだった分野」
-
4
ITエンジニア1265人調査 生成AIを使い込むほど「人の確認」が重い理由
-
5
高額GPUを買っても成果ゼロ? 「プライベートAI」の落とし穴
-
6
「企業におけるAI導入検討度とIT投資優先度」に関するアンケート
-
7
障害対応の属人化を打破 ネットワークを一括制御して復旧を速める秘策
-
8
AppleのMシリーズチップからSafariの閲覧履歴を暴く「TIDE」攻撃とは?
-
9
kintoneで実践 製造業のための「見積もり管理」改善のヒント
-
10
優れた技術があっても成長できない 中堅製造業が「成長停滞」から抜け出すには
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
登録セキスぺが語る「SCS評価制度」の舞台裏 星を取得すべき理由と対応のコツ
-
2
インシデント対応工数を約3割削減、東京ガスの事例に学ぶ監視体制刷新のコツ
-
3
JR西日本ITソリューションズが「監視業務の属人化」を解消した方法とは?
-
4
「人員を増やす」という選択肢はない 情シスが負の連鎖から抜け出すには?
-
5
「問題が深刻化しやすいプロジェクト管理」から脱却する方法とは?
-
6
AI時代の組織設計:「判断と責任」を人に残すための2つの原則とは?
-
7
防御側の「3つの前提」が崩壊 AI時代のセキュリティに必要な3つの転換とは?
-
8
AI活用を停滞させる「2:6:2の壁」を乗り越えるためのポイントとは?
-
9
生成AIで文書活用を進めるには? 効率化と安全性をどう両立する
-
10
OSSでは困難 100超のサービスを持つマネーフォワードが実践した統合監視術
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー