NVIDIAを単に“GPUベンダー”と呼ぶことはもはやできない。CPUの処理をオフロードする「DPU」に加えて、同社製CPU「Grace」を発表した。その狙いと、これまでのCPUとの違いを紹介する。
中編「NVIDIAがHPC市場に投入するDPU『BlueField』の役割 SmartNICとは違うのか?」で紹介した通り、NVIDIAは買収したMellanox Technologiesの「SmartNIC」ベースのDPU(Data Processing Unit)「BlueField」シリーズを提供している。NVIDIAがAI(人工知能)技術やHPC(高性能コンピューティング)分野で打ち出す新たな取り組みはこれだけではない。
Mellanox時代との大きな違いとして、ソフトウェア開発フレームワーク「DOCA 1.0」の存在が挙げられる。これはNVIDIAが「GPGPU」(General-Purpose Computing on GPU)向けに整備した開発環境およびプログラミングモデル「CUDA」の経験を踏まえた取り組みだ。GPGPUとは前編「GPUベンダーから“AIの会社”に変貌 NVIDIAの歴史とこれから」で紹介した通り、GPU(グラフィックス処理ユニット)をグラフィックス処理以外の汎用(はんよう)計算に用いることを指す。
DOCA 1.0は、NVIDIAがネットワークやセキュリティ関連などさまざまなソフトウェア技術を持つパートナーと協力し、DPU活用を強力に推進するエコシステム(関連製品・技術群)を構築する土台になる。2021年4月にDOCA 1.0の提供が開始したばかりではあるが、DPUとDOCA 1.0の周りには既にそうそうたる企業が集まっており、DPUを活用したCPUのオフロードが急速に一般化する可能性がありそうだ。NVIDIAは同社が提供するAI技術向けコンピュータ「NVIDIA DGX」にもBlueFieldを搭載することを発表しており、これもDPUの活用を広げる一因になるだろう。
2021年4月中旬にNVIDIAが開催したプライベートイベント「NVIDIA GTC 2021」の基調講演で、同社はDPUの他に新たなCPUも発表した。それが「NVIDIA Grace」(以下、Grace)だ。これは端的に表現するなら「ArmベースのNVIDIA製CPU」ということになる。NVIDIAの表現を借りれば「大規模のAI技術およびHPC向けに設計されたCPU」だ。NVIDIAは、DPUがCPUの処理負荷をオフロードする新たなアーキテクチャであることと同様に、Graceについても既存のCPUのアーキテクチャの課題を解決するための次世代アーキテクチャとして位置付けている。
GPUはAI技術やHPCで極めて有用なアクセラレータとしての利用が拡大している一方で、NVIDIAは「GPUの性能をフルに生かすためにはCPUがボトルネックになりつつある」と指摘する。データを置くメインメモリとGPUの間にCPUが位置し、メモリからGPUへとデータを転送するのが現時点での一般的なアーキテクチャになっている。これではGPUの処理速度にデータ転送が追い付かないというわけだ。
そこでNVIDIAが新たに考えたアーキテクチャでは、CPUの機能を小さく分割してより少量のメモリを担当させ、CPUとGPUを接続する。さらにデータ転送速度を重視した設計にすることによって、処理効率を引き上げることを想定している(図)。これがGraceの基本になるアーキテクチャだ。ある意味では、CPUをGPUのための「データ転送エンジン」として位置付け直す逆転の発想と言える。
Graceの提供開始は2023年初頭になる見込みだ。既に市場で圧倒的な支持を得ているNVIDIA製GPUにMellanox由来のDPUと高速インターコネクト、さらにデータ転送のボトルネックを解消するCPUとしてGraceが加わると、HPCシステムの中核要素がほぼ全てNVIDIA製品で実現できる形になる。
GPUという特定用途に特化したプロセッサのベンダーという立ち位置だったNVIDIAが、AI技術という新たな用途を得たことでその事業領域を大きく拡大させた。そして今や次世代のHPCシステムのための新たなシステムアーキテクチャを提案し、それを自社製品で実現できる体制を整えるに至っている。今後のコンピューティングアーキテクチャの進化をけん引する存在として、NVIDIAの存在感が急速に高まっているのは間違いない。
問題があるとすれば、現在市場でのGPU等のニーズの高まりに応えるだけの製品供給が難しくなっている点が挙げられる。特にGPUに関しては、世界的な半導体供給不足や暗号資産(仮想通貨)のマイニング用途で利用拡大などの影響もあり、市場では奪い合いに近い状況にもなっていると聞く。安定的に十分な量の製品を供給できるかどうかは、ラージエンタープライズ(大企業)市場やトップエンドのHPC市場などでは重視されるポイントの一つだと考えられる。
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