普及すると目されているがいまだに普及しているとは言い難いNVMe-oF。導入をためらわせる制約とは何か。
NVMeによって最大のボトルネックの一つが解消された。NVMeは高IOPS(1秒当たりのI/O操作数)かつ低遅延だ。ストレージとCPUの間に複数の並列チャネルを提供することで、SASやSATAよりもはるかに高いパフォーマンスを発揮する。
その次のステップがNVMe over Fabrics(NVMe-oF)だ。NVMe-oFの仕様はNVM Expressが定めているが、プロトコルには柔軟性がある。SNIA(Storage Networking Industry Association)がNVMe-oFをNVMe-oFsと複数形で表現する理由はここにある。
NVMeはPCIeバスで動作する。ローカルストレージであればこれは問題にならない。だが、スケールメリット、冗長性、管理の容易性から企業はネットワークストレージに大きく依存している。NVMe-oFはNVMeをLANのストレージアレイに拡張する。
NVMe-oF市場は急拡大している。IDCは、2021年度末までにストレージ収益の半分をNVMeストレージが占めるようになり、ほとんどのシステムがNVMe-oFを使うようになると予想する。
NVMe-oFに移行する場合、利用するネットワークトランスポートを選択する。選択できるプロトコルはファイバーチャネル、iWARP(Internet Wide Area RDMA Protocol)、RoCE(RDMA over Converged Ethernet)、InfiniBandなどがあり、最近ではTCPも含まれる。恐らく新しいプロトコルが今後もサポートされるだろう。
よく選ばれるのがファイバーチャネルで、32Gbpsという高いスループットを実現する。イーサネットで最高100Gbpsを実現すると主張するサプライヤーもある。
NVMe-oFが機能するには「バインディング」が必要だ。バインディングにより、トランスポートプロトコルがホストとストレージアレイに結び付けられ、管理、認証、機能を制御する。
SNIAのJ・ミッシェル・メッツ氏は「バインディングは接着剤の役割を担い、基盤となるファブリックトランスポートとのNVMe通信言語を保持する」という。NVMe-oFについては、SNIAのブログ(https://sniansfblog.org/nvme-over-fabrics-for-absolute-beginners/#more-969)を参照してほしい。
最新仕様のNVMe-oF 1.1では、TCPバインディングがサポートされる。これによりイーサネットでのNVMe-oF SANの運用が可能になる。
NVM Expressが定める標準仕様はユーザーに選択肢を与える。その仕様に準拠している製品を自由に組み合わせて利用することが可能だ。SNIAのメッツ氏が指摘するように、市場には標準仕様に準拠していない実装も出回っている。標準仕様に準拠していなくても、そのサプライヤーの製品だけで構成すれば完璧に機能する可能性がある。
NVMe-oFは、HDDアレイと単に種類が異なるSANにすぎない。ただし速い。NVMe-oFに移行するかどうかはコストに左右される面が大きく、容量はそれほど重要ではない。
従来のDAS(Direct Attached Storage)や内部NVMeストレージではなく、ネットワーク経由で外部ストレージに接続する必要があるならNVMe-oFが最適だ。
Gartnerのジュリア・パルマー氏(リサーチ部門バイスプレジデント)によると2022年以降、さまざまな形式でNVMe-oFをサポートするサプライヤーが増えると同氏は予測している。
NVMe-oFの初期ユースケースの大半はパフォーマンスが重要なケースだ。機械学習やリアルタイム分析、データベースアプリケーション、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)がその例だ。NVMe-oFは大量のデータやアーカイブにはあまり適していない。HDDよりも相対的に高コストだからだ。
NVMe-oFのメリットについては単純に「速度」と答えたくなるが、現実はもっと微妙だ。最高のパフォーマンスを求めるなら、サーバにストレージを直接組み込む方が優れている。
NVMe-oFのメリットは、HDD RAIDよりも高速なSSDのアレイとネットワークストレージや共有ストレージのメリットを組み合わせることができる能力にある。他にも、DASよりも使用率が高く、管理が容易で、冗長性や回復力が向上するというメリットもある。
制限事項にはコスト、複雑性、OSサポートなどがある。
NVMe-oFのデプロイに際しては各種技術に合わせて最適化しなければならない。例えばHBA(ホストバスアダプター)、ネットワークファブリック、アプリケーションサポートなどの最適化が必要になる。だが、NVMe-oFはその機能の大半を「ローカル」NVMeと共有し、ストレージメディア自体も共有するのでこうした最適化は一般的になりつつある。
NVMe-oFの初期実装には物理距離の制限があった。TCPを使ってイーサネットで実行する機能では、ほぼその問題は解決されているように思える。
本稿執筆時点では、「Windows」はNVMe-oFを直接サポートしていないが、ベンダーがWindows用ドライバを提供している。「Linux」は標準イニシエーターを提供している。
Windowsでの直接サポートが欠けていることから分かるように、全てのサプライヤーがNVMe-oFの完全サポートを提供しているわけではない。
Cisco Systems、Brocade Communications Systems、Mellanox TechnologiesなどのSANスイッチサプライヤーはNVMe-oFをサポートする。システムレベルでは、NetApp、Pure Storage、Dell EMC、IBMがNVMe-oFを販売している。Western Digitalは2020年にNVMe-oFサポートを発表し、Broadcomはファイバーチャネル経由のNVMe-oFをサポートするMarvell Technology GroupはファイバーチャネルHBAを製造している。
市場はまだ完全に成熟しているとは言えない。業界関係者は、サーバとストレージアレイのサプライヤーの大多数が、少なくとも1つの形式でNVMe-oFをサポートすることを期待している。DAS用NVMeが既に普及していることを考えれば、そうなっても不思議ではない。
CIO(最高情報責任者)の課題は、NVMe-oFのパフォーマンスのメリットとコストやアップグレードの複雑さのバランスを取ることだ。Windows環境を運用している場合は特にそれが当てはまる。
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