国際宇宙ステーション(ISS)がわずか“毎秒250KB”でゲノム解析できる理由宇宙の商業化を支えるコンピュータ【後編】

人々が宇宙に滞在する未来に向けた実験に、国際宇宙ステーション(ISS)とクラウドサービスを接続するシステムが活躍している。具体的にどのような仕組みなのか。

2021年10月26日 05時00分 公開
[Caroline DonnellyTechTarget]

 宇宙をより多くの人々が訪れる将来に向けた実験が進んでいる。その研究用のコンピュータとして、国際宇宙ステーション(ISS)にはHewlett Packard Enterprise(HPE)のエッジコンピューティングシステム「Spaceborne Computer-2」が配備されている。Spaceborne Computer-2はネットワークでクラウドサービス群「Microsoft Azure」と接続する。

 前編「宇宙からのクラウドバースト? 国際宇宙ステーション(ISS)のゲノム解析方法」で紹介した通り、Spaceborne Computer-2は放射線被ばくが宇宙に滞在する人に及ぼす影響を調べる実験に使われている。

宇宙の商用化に向けた実験の仕組み

 ヒトゲノム(ヒトの遺伝情報)の配列は約30億個の塩基対から成る。ISSからこのデータを地球に転送するための時間は週当たり2時間、データのダウンロード速度は最大で毎秒250KBの帯域幅しか割り当てられていない。

 この狭い帯域幅への対策として、ヒトゲノムのほとんどの解析はISSで実施されている。さらに精査が必要な異常を含むヒトゲノムのセグメントだけがISSからAzureに送信される。Microsoftのブログによれば、地球にデータが届いた後は世界中の科学者がAzureの何百台ものコンピュータと専用のアルゴリズムを使ってヒトゲノムを解析する。

 ISSのSpaceborne Computer-2は、無重力状態で作物がどのように育つのかを調べるものなど、これまで4つの実験に使われている。こうした宇宙空間での実験にHPEやMicrosoftの「既成」の技術やサービスが使われていることは興味深い事実だ。「今後より多くの人々が宇宙を訪れるというトレンドの一部を担っている」とMicrosoftはブログに記している。

 宇宙に関する事業には非常に費用がかかるため、かつては州や国が主導することが普通だった。だが状況は変わっている。Microsoftの宇宙事業を率いるスティーブ・キタイ氏は次のように話す。「宇宙は大きな変革期の真っただ中にある。宇宙の商業化が急速に進み、企業に新たなチャンスが開かれている」

Computer Weekly発 世界に学ぶIT導入・活用術

米国TechTargetが運営する英国Computer Weeklyの豊富な記事の中から、海外企業のIT製品導入事例や業種別のIT活用トレンドを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

From Informa TechTarget

お知らせ
米国TechTarget Inc.とInforma Techデジタル事業が業務提携したことが発表されました。TechTargetジャパンは従来どおり、アイティメディア(株)が運営を継続します。これからも日本企業のIT選定に役立つ情報を提供してまいります。

ITmedia マーケティング新着記事

news079.jpg

CMOが生き残るための鍵は「生産性」――2025年のマーケティング予測10選【中編】
不確実性が高まる中でもマーケターは生産性を高め、成果を出す必要がある。「Marketing D...

news023.jpg

世界のモバイルアプリ市場はこう変わる 2025年における5つの予測
生成AIをはじめとする技術革新やプライバシー保護の潮流はモバイルアプリ市場に大きな変...

news078.png

営業との連携、マーケティング職の64.6%が「課題あり」と回答 何が不満なのか?
ワンマーケティングがB2B企業の営業およびマーケティング職のビジネスパーソン500人を対...