医療データ基盤に「もう失敗しない」と意気込むNHS 何が問題だったのか?NHSのデータ基盤移行計画が始動【前編】

NHS Englandは新しい医療データ基盤の構築計画を発表した。「公共の信頼を獲得できるよう、同じ失敗は繰り返さない」という意気込みの背景には、どのような出来事があったのか。

2023年03月28日 05時00分 公開
[Brian McKennaTechTarget]

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 英国の国民保健サービス(NHS:National Health Service)でイングランド地域を管轄するNHS Englandは2023年1月、同組織が医療サービスのために使用する、新データ基盤の構築に関する入札を公告した。5年間の契約金額は最大3億6000万ポンドになる見込みで、契約を1年間延長するオプションがある。契約延長時の推定金額は最大4億8000万ポンドに上る。

 この計画の目標は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のまん延で医療現場が混乱していた最中の2020年に構築したデータ基盤「NHS COVID-19 Data Store」をリプレース(更改)することだ。NHSの入札説明書によると、新しいデータ基盤はクラウドサービスになり、安全な方法で医療情報を共有することを主な目的としている。

「計画中止」の失敗を繰り返さない NHSが考えた新データ基盤のポリシー

 NHS Englandは計画中の新データ基盤を「federated data platform」と呼称している。この計画はニコラ・バーン氏の「公共の信頼のために、最初から国民に対して明快かつオープンでなければならない」という主張を反映して進行している。バーン氏は、英国の医療機関が市民の機密情報を適切に保護するよう助言や異議申し立てをする政府組織National Data Guardian所属の医学博士だ。

 バーン氏がこう主張する背景には、かつてNHSが失敗した医療データ基盤プロジェクト「Care.data」の経験を繰り返さない、という思いがある。Care.dataプロジェクトは2013年に開始したが、その後プライバシー保護活動家たちの圧力によって2016年に廃止となった。Care.dataの目的は、かかりつけ医(GP:General Practitioner)から患者のデータを集め、当時の英国保健社会ケア情報センター(HSCIC:Health and Social Care Information Centre)が保有する中央データベースに格納することだった。

 2022年11月、バーン氏はNational Data Guardian公式ブログのエントリ(投稿)で次のように述べた。「Care.dataは、National Data Guardianの前任者フィオナ・カルディコット氏が定めた透明性、ポリシーの明確さ、コミュニケーションに関する重要な原則に適合することができず、失敗に終わった。NHSがこの教訓を心にとどめ、今回のデータ基盤プロジェクトの最初から個人情報保護という重要なテーマに取り組み、Care.dataでは獲得できなかった“国民の信頼と支持”を得られるよう願っている」(バーン氏)

 NHS Englandは、NHSトラスト(NHSにおける病院運営組織)や統合ケアシステム(ICS:Integrated Care System。注1)に対して、新しいデータ基盤の使用を義務付けておらず「それぞれの用途に応じた活用を促す」と述べている。入札説明書には次の説明がある。「特定の、必要な、事前に合意された目的(サプライチェーンの効率化や、政策決定の指標となる“優れた実践事例”の作成に役立つワクチン接種レポートの作成など)のために、情報ガバナンス原則とデータ保護法を順守して、個人を特定できないデータを収集して中央データ基盤だけに格納する」

※注1:地域住民への医療と福祉サービスを提供する組織(NHS傘下の医療機関、地方自治体、ベンダーなど)が、サービス提供体制の改善を目指して締結している、パートナーシップおよび包括的なサービス提供体制のこと。


 後編は、現在稼働中のデータ基盤であるNHS COVID-19 Data Storeが、データプライバシー保護活動家に不審を抱かれてしまった理由について解説する。

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