企業はCOVID-19の感染が拡大する中でも事業を継続するために、SaaSの導入を急速に進めた。その結果、社内に存在する複数のSaaSが、“ある問題”を起こすようになった。その問題とは何か。
どのような結果に結び付くかには関係なく、「顧客が望むものを提供する」という考え方を重視する企業は珍しくない。自社が提供するSaaS(Software as a Service)の種類や、組み合わせの複雑さを振り返って、「いつの間にか顧客に商品を売り込み過ぎていた」と考えるITベンダーはあるだろう。
ユーザー企業がSaaSを導入し過ぎている問題は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)が要因の一つとなっている。複数種類のSaaSを導入したユーザー企業では、SaaSを使うために必要なデータが複数の異なるシステムに分散している。API(アプリケーションプログラミングインタフェース)を使用せずにデータ連携の問題を解決するために、新しいデータ連携ツールをSaaSとして導入するユーザー企業もある。こうしてユーザー企業の社内に存在するSaaSは増加の一途をたどる。
2023年3月にストレージベンダーNetAppが公開したレポート「2023 Cloud Complexity Report」によると、「クラウドサービスの役割や利用方法が複雑になることで、システムのパフォーマンス低下や事業収益の減少、ビジネスの停滞につながる恐れがある」と考えるシニアITリーダーは、98%に上る。同調査は2022年11月に、米国、フランス、ドイツ、スペイン、英国、インド、日本、シンガポール、オーストラリア、ニュージーランドの計1300人を対象に実施した調査を基にしている。
2023年7月にコンサルティング会社Accentureが公開したレポート「Innovate or Fade」は、欧州地域の企業が技術力不足に悩む現状を取り上げている。具体的には、定番の技術の導入や最先端技術の導入、実装、効果的な使用に関する、企業間の格差を指摘した。
クラウドサービスの利用状況やコストの管理ツールを開発提供するスウェーデンのDigitalRouteで、製品およびパートナーマーケティング部門の責任者を務めるステファン・ヘイトリー氏は、「データの保管場所が分散する『データの断片化』は、企業において日常的に起こる問題だ」と話す。「クラウド移行はさまざまな問題を解決する特効薬ではない。多種多様なSaaSを導入した結果、社内システムの一貫性が欠如したり、データの断片化が起きたりした企業もある」(ヘイトリー氏)
企業のデータの保管場所は、単一のデータセンターに限定されなくなった。企業のデータは複数の異なるクラウドインフラやオンプレミスインフラに散在している。「何年もの歳月を掛けてシステムを拡張したり、企業間の合併でシステムを統合したりした結果、複数のITインフラとサイロ化されたシステムを抱え、データの運用が複雑になっているユーザー企業が見られる」とヘイトリー氏は語る。
SaaSを導入するメリットはあるものの、導入を急いだ結果、課題が生じる場合もある。ユーザー企業がSaaSをはじめとした複数のクラウドサービスを利用した結果、データのサイロ化が進み、収益や事業成長の機会を逃す恐れがある。「自社内で十分にデータ連携ができないという問題を抱えているユーザー企業もある。こうした問題は特に金融サービスなどの大量データを保有する業界で顕著だ」とヘイトリー氏は説明する。
複数のクラウドサービスを利用することが当たり前になった今、どのようにデータ連携を進めればよいのか。第2回は、データのサイロ化の解消を進める企業の事例を紹介する。
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