OSSは企業にとって、認識しているか認識していないかにかかわらず、極めて“身近な存在”になった。OSSは企業に何をもたらすのか。その存在意義を、4つの視点で改めて考えてみよう。
近年、オープンソースソフトウェア(OSS)の利用が広がっています。企業は日常業務にOSSを活用し、クラウドサービスから携帯電話、家電製品に至るまで、私たちの身の回りのさまざまなものがOSSによって支えられるようになりました。
既存のテクノロジーを活用することは、企業にさまざまな利点をもたらします。例えばOSSを使うことで、一から作ることなくシステム構築が可能になります。OSSのパーミッシブライセンス(ソフトウェアの使用に関する制限が最小限のライセンス)は、ビジネスのアジリティー(俊敏性)を向上させます。
今日の複雑なITシステムを運用する企業にとって、OSSは“最適な一手”をもたらす存在です。OSSが企業にとって重要になったのはなぜなのか。本稿ではその理由を4つの視点で解説します。
OSSは、複数の場所で同じソフトウェアを実行し、必要に応じて切り替えることを容易にします。開発者は、オンプレミスでもクラウドサービスでも、自身のノートPCでも、同じ使い慣れたOSSのコンポーネントにアクセスすることができます。
中には、異なるシステムが連携するプロセスを簡素化する“統合レイヤー”として機能するOSSがあります。そのようなOSSの一つが、ストリーミングデータ(継続的に発生するデータ)を中継する分散メッセージングシステム「Apache Kafka」です。Apache Kafkaはアプリケーション間のアーキテクチャ(設計)上の境界を明確にするとともに、開発者が複数のアプリケーションやデータストアにまたがるデータをシームレスに移動できるようにします。
開発者はこうしたOSSを使うことで、アプリケーションが特定のアーキテクチャにどのように適合するのかを検討したり、必要に応じてアプリケーションを切り替えられるのかどうかを心配したりする必要がなくなります。その代わりに、特定のビジネスニーズを満たすアプリケーションの構築に重点を移せるようになります。
OSSの使い方を習得するハードルは、ソースコードが公開されていない“プロプライエタリ”なソフトウェアよりも低いと言えます。開発者はOSSを使うことで、小規模なテストを実施しながらその有効性を評価し、必要に応じて利用の規模を拡大させることができます。アプリケーションの実地経験を積むためにベンダーとの契約にコミットする必要はありません。テクノロジーを習得する際、自身のスキルが足りなくなった場合は、OSSのコミュニティーに助言を求めることができます。
通常、複雑なソフトウェア群を運用するには、ITの高度な専門知識が必要です。特に複数ベンダーのクラウドサービスにまたがってシステムを運用する際、個々のベンダーに特有のアーキテクチャや運用方法に習熟するのは容易ではなく、そのためには時間や予算をトレーニングや人材採用に投入する必要があります。そうではなく、異なる運用環境でも一貫性を提供するOSSに頼ることが、賢明なアプローチになり得るのです。
一般的に、OSSはプロプライエタリなソフトウェアよりも安価であり、ベンダーとの契約なしで使用できます。新しいシステム環境に移行する際、開発者の再スキルアップのコストのみで済むことも利点だと言えます。
ITチームは、セキュアなアプリケーションを実行するために必要となるサポートを、OSSのコミュニティーから得ることができます。どのソフトウェアも、悪意ある行為を前にして“完全に安全”であることはできませんが、この点でOSSにはリスクを軽減できる特性があります。OSSには、「悪意ある行為の兆候を探す目」がさまざまな場所にあることです。OSSの使用する全ての開発者が、ソフトウェアのセキュリティを維持するためのパッチ(修正プログラム)やアップデート(更新)に貢献する存在です。
一方で組織のITリーダーは、OSS利用のガイドラインを作成し、さまざまなOSSのライセンスに準拠する方法について、従業員を教育する必要があります。ただし幸いなことに、OSSを利用することで、特定のクラウドサービスにロックイン(閉じ込められること)してその対処に時間やコストを取られてしまう事態を避けやすくなります。その分を、従業員の教育に充てればよいのです。
OSSの基礎は、ソースコードの透明性と可視性にあります。この特性によっては、組織は単一のベンダーや製品に依存することなく、独自のデータを活用したり管理したりすることが可能になります。そうした“自律性”は、ロックインを避けるために不可欠なだけではなく、
などを促進します。
次回は、Apache KafkaなどのOSSを一例として紹介します。
ITインフラやクラウドサービスの分野で、エンジニアリングやビジネス企画・開発を中心に20年近くの経験を持つ。2022年4月に、オープンソースのデータプラットフォームを提供するAivenが日本法人を設立する際に同社カントリーマネジャーに就任した。
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