これからのAI時代、雇用市場は激変する。企業が採用者に求めるスキルは何か。世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)におけるパネルディスカッションの内容を基に解説する。
テキストや画像などを自動生成するAI(人工知能)技術「生成AI」(ジェネレーティブAI)に世界中の視線が集まっている。2024年1月の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)のパネルディスカッションでは、生成AIがホワイトカラー(知的・技術労働者)の仕事に与える影響が語られた。
IBMのCEOアービンド・クリシュナ氏や、ITコンサルティング会社Accentureの会長兼CEOジュリー・スウィート氏などが、退職や採用に関する動き、これから労働者が身に付けるべきスキルなどについて意見を交わした。
クリシュナ氏は2030年までにコーディングの生産性が40%上昇し、顧客サービスが大きく改善するとの見通しを示した。その他に同氏は、生成AIが人間の職業を代替する可能性に言及した。これはIBM自身の方針にも影響している。同社は、バックオフィス(人事や経理、総務などの管理部門)についてはAI技術で代替可能な仕事があるため、採用の一時停止を検討していると2023年に説明していた。
AI技術が必ずしも仕事を奪うとは限らないが、労働者は仕事を失う事態を想定して対策を練る必要があるとクリシュナ氏は指摘する。これから労働者が身に付けるべきスキルとして同氏が挙げるのは、クリティカルシンキング(批判的思考)だ。
スウィート氏は、これから従業員に必要なスキルは「適応力」だと話す。雇用主は学習意欲の旺盛な人材を求めるものだ。「従業員はスキルアップに前向きな姿勢を示すべきだ」と同氏は語る。Accentureは同社の採用面接において、職種にかかわらずある質問をしている。「この半年で何を学んだか」だ。「答えは何でも構わないが、当社は探求心のある人材を採用したい」(同氏)
シンクタンクOliver Wyman Forumがダボス会議で発表した調査によると、生成AIは従業員の定着率に影響を及ぼす可能性がある。求職中の労働者のうち約3分の1が転職希望理由として「生成AIによる混乱」を挙げている。調査会社Gartnerが2023年9月開催のカンファレンス「Gartner ReimagineHR Conference」で発表した調査も、生成AIが仕事にもたらす影響を危惧する従業員は、そうでない従業員と比べて退職率が高いことを示していた。
国際通貨基金(IMF)は2024年1月に発表したブログエントリ(投稿)で、世界における雇用の約40%、先進国の雇用に絞ると約60%が、AI技術によって代替または補完される可能性があると指摘している。一方で、IT投資が進んでも生産性の上昇が確認されない「ソロー・パラドックス」(生産性パラドックス)といった事象がある通り、AI技術の利用が必ずしも生産性向上につながるとは限らない。「重要なのはAI技術の能力ではなく、その実装方法にあるのではないか」と、IMFは述べる。生成AIの導入や運用の方法が適切ではないことが、生産性のボトルネックになる可能性があるということだ。
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