企業が求人募集を開始してから候補者が入職するまでの期間が、世界的に長期化の傾向を示している。その原因は何か。採用プロセスにおいて改善すべき点はあるのか。
公共機関か民間企業かにかかわらず、採用担当者は採用活動の長期化に頭を悩ませている――人材開発(L&D)会社The Josh Bersin Companyが2023年6月に公開した調査レポート「Time-to-Hire Factbook: The Talent Climate Series」は、採用活動の長期化が世界的な動向であることを示している。同レポートによると、採用活動に要する日数は2022年だと平均43日だったが、2023年第1四半期の調査時点では平均44日だった。この調査には人材コンサルティング企業Alexander Mann Solutionsが協力し、APAC(アジア太平洋地域)、EMEA(欧州、中東、アフリカ)、ラテンアメリカ(中南米)、北米など25カ国以上のデータを使用しているという。調査対象の業界は金融業界、エネルギー業界、医療業界など多岐にわたる。
公共機関の状況はより深刻だ。米国サンフランシスコ市の民事大陪審(注1)が2023年6月に公開した調査レポート「Time to Get to Work: San Francisco's Hiring Crisis」によると、同市では職員1人を採用するのにかなりの日数を要している。その原因として考えられるのが、採用プロセスの複雑さや、採用活動に関わる人事部門の人手不足だ。
※注1 米国における民事大陪審は、政府を含む公共部門を監視する組織。同市の民事大陪審はボランティアとして志願した応募者の中から無作為に選ばれた19人で構成され、1年間活動する。
The Josh Bersin Companyをはじめとした人材分野の専門家が口をそろえるのが「雇用市場が求人であふれている」という実態だ。調査会社Gartnerで人事業務担当シニアリサーチディレクターを務めるジェイミー・コーン氏は、求職者の70%以上が複数の企業から採用通知を受け取っていると指摘する。
求職者数が減少する中、雇用市場は活況を呈し、企業が適切なスキルを持つ人材を見いだすことは難しくなりつつある。「採用候補者を洗い出しコンタクトを取るまでに長い時間が必要になる。複数の候補者と面接の日程を調整する難しさも、採用期間を長期化させる一因になっている」とコーン氏は説明する。
人事システムベンダーは、採用候補者の発掘や連絡、選考プロセスのスケジュール調整を実現するソフトウェアを提供することで採用活動の効率化に貢献してきた。だからこそ「採用期間を長引かせる最大の問題は雇用市場にある」とコーン氏は指摘する。
The Josh Bersin Companyの創設者でCEOを務めるジョシュ・バーシン氏もコーン氏と同じ考えだ。雇用市場の競争は激化し、求職者にとっては選択肢が増えている。失業率が低い状況はまだしばらく続く可能性がある、とバーシン氏は予測する。「AI(人工知能)技術を使って望ましい人材を見つけやすくなるのと、少なくなった求職者が勤務先にこだわるようになるのとどちらが速いかという話でもある」と同氏は添える。
雇用市場にはポジティブな変化も見られる。学歴や職歴ではなく、採用候補者のスキルに基づいて選考する「スキルベース採用」を実施する動きが広がっているのだ。「雇用市場における人材の流動性を高め、採用プロセスを円滑にし、失業率の低下につなげることができる」とバーシン氏は評価する。
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