PCを処分する際、特に気を付けたいのが「データの消去」問題だ。一歩間違えると、訴訟に発展する可能性もある。HDDのデータを消去し、PCを安全に廃棄するための方法を紹介する。
企業がPCを新調する際、古いPCは電子廃棄物として処分することになる。廃棄時に気を付けたいのが、データ漏えいのリスクだ。廃棄するPC内にデータが残り、それが暗号化されていない場合、処分に回されたPCを誰かが回収し、HDDやSSDなどのストレージ内のデータにアクセスしてしまう恐れがある。
デバイスの廃棄方法が不適切だったためにデータが漏えいし、不正アクセスとそれに伴う金銭的、法的被害に遭った企業は実際に存在する。金融業のMorgan Stanleyは、顧客情報を残したままのデータセンターを再販したとして、2022年に訴訟で和解金6000万ドルを支払った。再利用(リユース)やリセール(中古販売)の業者に依頼した場合も、データを安全に廃棄できる保証はない。
HDDやSSDなどのストレージからデータをきれいに消去し、PCを安全に処分するための方法を紹介する。
一般的に企業は、PCを廃棄する際にストレージのフォーマット(初期化)を実施する。これでデータがストレージから消えるわけではない。データの呼び出し処理ができなくなっただけで、データはストレージに残っている。ローレベルフォーマット(物理フォーマット)を実施する、もしくは古いデータを上書きするソフトウェアを使用しない限り、復元用のソフトウェアを使えば元のデータにアクセスできてしまう恐れがある。
「OneDrive」や「Google Drive」などのオンラインストレージサービスにデータを保管すれば、データ漏えいを防げると考える企業も存在する。ただしたいていのPCでは、数カ月分のデータがローカルに保存される点に注意が必要だ。例えば、メールクライアント「Microsoft Outlook」のローカルファイル(.pstファイル)がある。これにはメールや連絡先、カレンダーの情報などが含まれる。
機密情報を含む可能性のあるHDDなどのストレージを搭載するPCを安全に処分するためには、以下のプロセスを徹底することが重要だ。
元データの痕跡が残らないように、ストレージのデータを上書きできるソフトウェアを活用するのが有効だ。「NIST Special Publication 800-88」といった、データ抹消処理に関するガイドラインに準拠するツールを選ぶと安心だ。
消磁(デガウス)とは、文字通りHDDの磁性を消去し、読み取り不能にする処理を指す。デガウスは効果的である一方、処理後のドライブは使用できなくなる点に注意が必要だ。SSDにはデガウスの効果がない。
データ消去やデガウスが難しい場合、ストレージをシュレッダーにかけて物理的に破壊する選択肢がある。ここで言うシュレッダーは、電子機器の破壊専用に作られた工業用シュレッダーを指す。シュレッダーにかけたストレージは、適切に廃棄することが求められる。
PCやHDD、SSDを物理的に破壊する場合は、法令や規制にのっとって破棄したことを証明するために、認定された事業者からデータ破壊証明書を取得するのを忘れないようにしよう。
PCを廃棄する前に、データが全て確実にバックアップされていることを確認しよう。データをローカルに保存しないよう、ガイドラインを従業員に共有することも必要だ。
廃棄に当たっては、欧州連合(EU)の一般データ保護規則(GDPR)やHIPAA(米国医療保険の相互運用性と説明責任に関する法令)など、データ保護法に準拠していることを確認する必要がある。
米国連邦政府のデータについては、国家安全保障局(National Security Agency)が定める要件への準拠が必要な場合がある。基本的にはHDDをデガウスした上で破壊する、という2段階のプロセスが求められる。SSDの場合は分解装置と焼却炉の使用のみ認められている。
後編は、持続可能性(サステナビリティ)の視点からPC廃棄を解説する。
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