医療分野のIoT「IoMT」の導入が広がりつつある。IoMTの導入やシステムの構築を検討する際に理解しておくべき、医療現場特有の用途や課題を紹介する。
医療におけるモノのインターネット「IoMT」(Internet of Medical Things)の導入が広がっている。その目的は、医療機関が利用するデバイスをインターネットに接続し、患者の健康状態のモニタリングやデータの収集、その分析や関係者間での共有を進めることによって、患者の健康状態の改善に役立てることだ。IoMTの導入に当たっては、医療現場固有の課題や特徴を理解し、信頼性の高いシステムを構築することが重要になる。導入や運用時の判断ミスが人命を危険にさらす可能性があるためだ。その課題を理解するために、まずはIoMTの活用シーンを具体例と共におさらいしよう。
IoMTの用途例を以下に示す。
医療機関はIoMTデバイスやシステムとして以下を活用している。
IoMTの導入に際しては、医療現場特有の特徴や課題を理解しておきたい。MRI装置に使われる強力な磁石は同室にある電子機器にダメージを及ぼす可能性がある。この磁力は無線LANや近距離無線通信規格「Bluetooth」の通信にも影響を及ぼす。MRI装置は電源設備にも配慮が欠かせない。高電圧、大電流の電源回路と、電力供給が止まった際に非常用電源として機能する「無停電電源装置」(UPS)が必要になる。
一部の血糖測定器や輸液ポンプは、無線LAN経由でインターネットに接続可能だ。停電時には、内臓バッテリーによる駆動に切り替わる。
スマート体温計や輸液ポンプなどのIoMTデバイスには、SDカードに患者のデータを書き込めるものがある。こうして収集したデータを無線LAN経由で送受信することによって、デバイス間でのデータ共有が可能だ。
PERSとRPMシステムは、「4G」(第4世代移動通信システム)や「5G」(第5世代移動通信システム)といった通信回線およびBluetoothを使う。PERSとRPMシステムで使用するデバイスには、防水性が求められるものがある。
患者の体内で機能する小型センサーや小型カメラは、内視鏡検査や、患者の消化器官内に長期的に保持することを目的としている。
小型カメラと無線送信機を内蔵したカプセル型内視鏡の一例として、医療機器メーカーMedtronicが手掛ける「PillCam」がある。患者がPillCamを飲み込むと、PillCamの小型カメラが臓器内の様子を映し出し、記録装置に画像や映像を送信する。
医療機関のIT部門がIoMTデバイスの導入やシステムの構築に取り組む際は、以下の観点において注意が必要だ。
IoMTデバイスなどの通信機器は、適切なアクセス権限の付与を怠ると、本来デバイスにアクセスすべきではない人がネットワーク経由でデバイスにアクセスできる状況が生まれる恐れがある。そのため医療機関のIT部門は、IoMTデバイスが収集したデータに、データへのアクセス権限を持たない第三者や攻撃者がアクセスできないようにしなければならない。例えばベッド横にあるバイタルサイン(生命兆候)モニタリング用デバイスに第三者がアクセスできてしまうと、個人の健康情報が漏えいする危険性が高まる。
バッテリー駆動する小型サイズのIoMTデバイスは、搭載するメモリの容量が小規模になる傾向がある。一般的に、デバイスに搭載するメモリが大容量になるほど、バッテリーの電力消費が早まるためだ。IoMTデバイスにおけるセキュリティ対策は、搭載メモリの少ないIoMTデバイスをどう保護するかを意味する。対策の一つがIoMTデバイス間のファイアウォールの設置だ。IoMTを導入する医療機関のIT部門は、IoMTデバイスへのサイバー攻撃が患者に及ぼす影響を理解しておきたい。
IoMT活用が広がる中で、セキュリティとプライバシーの確保、デバイスへの継続的な電力供給は必須の取り組みだといえる。IoMTデバイスの誤作動や不具合は患者の生死に関わるからだ。
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