Windowsアプリ管理はどう変わる? パッケージ新形式「MSIX」のメリット「MSIX」を知る【後編】

「Windows」アプリケーションのパッケージングにおいて、「MSI」に代わる新たな標準ファイル形式を目指す「MSIX」。MSIから進化した機能にはどのようなものがあるのか。MSIXに乗り換えるメリットとは。

2024年10月17日 05時00分 公開
[Marius SandbuTechTarget]

 Microsoftは、「Windows」用のソフトウェアインストーラー「Windows Installer」用のファイル形式「MSI」の改良版として、「MSIX」を導入した。MSIXはMSIとどう異なるのか。従来のパッケージ形式から切り替える意義はあるのか。

「MSIX」でWindowsアプリ管理はどう変わる?

会員登録(無料)が必要です

 Microsoftは2018年、アプリケーションのパッケージ形式「AppX」の拡張版として「MSIX」を導入した。AppXの開発当初の目的は、「Windows 10」以降のWindowsで実行するアプリケーションを開発するための枠組み「ユニバーサルWindowsプラットフォーム」(UWP)を支援することだった。MicrosoftはMSIXの設計に当たり、MSIの他に以下で得た知見を活用した。

  • クライアント型アプリケーション仮想化製品「Microsoft Application Virtualization」(App-V)
  • 「Win32」や「.NET」に基づくアプリケーションを、UWPに基づくアプリケーションとして利用できるようにする仕組み「Desktop Bridge」
    • Win32はWindows用アプリケーションを開発するためのAPI(アプリケーションプログラミングインタフェース)。
    • .NETはMicrosoftが提供するアプリケーションフレームワーク(実装のための枠組み)。

 MSIXの構造はAppXやApp-Vに似ている。その中身は、アプリケーション本体のファイルと、設定を記した「XML」形式のファイルをまとめた「ZIP」形式のファイルだ。

 MSIXはモダンな開発手法で作られたアプリケーションに加えて、従来のWin32に基づくアプリケーションもパッケージ化できる。IT管理者は必要なアプリケーションをMSIX形式でパッケージ化して、「Microsoft Intune」「Microsoft Configuration Manager」などの管理ツールで配布可能だ。

MSIXを使用するメリット

 MSIと比較して、MSIXは以下の新しい機能と利点を備える。

  • アプリケーションのパッケージ化
    • MSIX形式ファイルは、デスクトップPCやモバイルデバイスなど、さまざまなWindows搭載デバイスに対して、一貫した方法でアプリケーションをインストールできる。
  • 強化されたセキュリティ
    • MSIXは、パッケージに署名と認証を適用することによって、正規のアプリケーションであることを保証し、安全なインストールプロセスを提供する。悪意のあるアプリケーションをインストールするリスクを軽減できる。
  • 効率的なアップデート
    • MSIX形式のファイルを用いたインストールでは、アプリケーションの変更箇所だけをダウンロードして適用する差分更新が可能だ。これはインストール時の時間と通信容量の削減に役立つ。
  • 状態管理
    • MSIXは、アプリケーションの状態を管理するための仕組みを標準で備える。この仕組みを通じて、アプリケーション更新時にユーザー設定とデータを引き継ぐことができる。
  • コンテナ化
    • MSIXを使用してインストールしたアプリケーションはコンテナ内で実行できる。アプリケーションをコンテナ化することで、他のアプリケーションとの干渉を防ぎ、OSの安定性を向上させることが可能だ。
  • 後方互換性
    • Win32、グラフィックサブシステム「Windows Presentation Foundation」(WPF)、アプリケーションフレームワーク「Windows Form」といった旧来形式で作成したアプリケーションも、MSIX形式でのパッケージ化の対象だ。開発者は既存のアプリケーションを大きく改修せずに、MSIX形式に移行できる可能性がある。

 MicrosoftがMSIXを公開した際、企業の間にMSIからMSIXに切り替える流れが生まれたとは言い難い。MSIXの初期バージョンにはバグがあったり、アプリケーションをMSIX形式でパッケージングするためのツールが不足していたりしたためだ。特にApp-Vを使用していた企業にとっては、MSIXのコンテナ化機能がApp-Vのものと完全に一致していないため、コンテナ化したアプリケーションの機能の一部が失われかねない問題があった。このため、App-VパッケージをMSIXフォーマットに直接変換できず、既存のアプリケーションをMSIX形式に適応させるための作業が必要となった。その後、MicrosoftがApp-Vのサポートを2026年に終了すると発表したことで、App-VからMSIXへの移行が加速しつつある。

企業のMSIX移行を支援するツール

 Microsoftやコミュニティーが、MSIXの導入やMSIからの移行を支援するツールを開発している。

 MSIXへの移行を支援するツールとして、Microsoftは以下を提供している。

  • Package Support Framework(PSF)
    • 古いアプリケーションがMSIX形式で正しく動作するようにするためのツールキット。
  • MSIX Packaging Tool
    • MSIX形式でのパッケージングを支援するツール。

 「TMEditX」は、仮想化技術の活用を支援するベンダーTMurgent Technologiesが提供する、MSIXパッケージの編集ツールだ。アプリケーションの互換性向上を目的として、PSFを内包している。TMEditXは、MSIや「EXE」といった形式のインストーラーファイルの挙動を解析して、MSIX形式でも問題なく動作するよう機能の互換性を維持する。アプリケーションが必要な時にだけ仮想マシンに接続する技術「App Attach」を適用できるようにする機能も利用可能だ。その他CitrixやVMwareといったベンダーは、VDI(仮想デスクトップインフラ)でMSIX形式のファイルを扱えるようにしている。

MSIXの将来性は?

 企業やソフトウェアベンダーの間でMSIXが普及することは、市場におけるMSIXの成功の鍵を握っている。

 MicrosoftがMSIを導入した際、企業は程なくMSI形式のパッケージを受け入れ、ベンダーも広く採用するようになった。そうした流れが、WindowsアプリケーションのパッケージングフォーマットとしてMSIが定着している現状を作り出している。App-Vも企業間に普及したが、MSIを完全に置き換えるまでには至らなかった。

 現在、MSIXは苦戦を強いられている。大手ソフトウェアベンダーはMSIXを全面的には採用していない。ベンダーにフォーマットを切り替える動機があまりないためだろう。

 現代ではさまざまなアプリケーションがWebアプリケーションとして提供されるようになったが、Windowsアプリケーションも存続すると思われる。MSIXとApp-Vの互換性に関する問題は解消されつつあり、MSIXのエコシステムも成長している。

 MSIXの導入をまだ検討していない企業、特にApp-Vを利用している企業は、MSIXに移行することでメリットを得られる可能性がある。既存技術との互換性、アプリケーション管理を効率化するポテンシャルは、Windowsアプリケーションを利用する企業にとって貴重な資産になるはずだ。

TechTarget発 先取りITトレンド

米国TechTargetの豊富な記事の中から、最新技術解説や注目分野の製品比較、海外企業のIT製品導入事例などを厳選してお届けします。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

新着ホワイトペーパー

市場調査・トレンド SUSE ソフトウエア ソリューションズ ジャパン株式会社

ベンダー依存から脱却、柔軟かつ統合的なLinux環境を構築する方法とは?

エンタープライズ向け技術は、Linuxを中核に据え、オープンソースで動作しているものが多い。しかし近年、一部のベンダーが契約による囲い込みを強めており、ベンダーロックインのリスクが高まっている。安定したLinux運用を実現するには?

製品資料 株式会社野村総合研究所

運用効率化に欠かせないITSMツール、ノンカスタマイズが正解とは限らない?

ITサービスへの要求は年々増大しており、その対応を手作業でカバーするには限界がある。そこで導入されるのがITSMツールだが、特に自動化機能には注意が必要だ。自社に適した運用自動化や作業効率化を実現できるのか、しっかり吟味したい。

製品レビュー 株式会社クレオ

現場でカスタマイズ可能なITシステム、コストと時間をかけずに実現する方法とは

業務効率を高めて生産性を向上させるために、多くの企業がITシステムの導入を進めている。しかし、自社の業務に合わないITシステムを導入してしまっては、逆に生産性が低下する可能性も高い。この問題をどう解決すればよいのだろうか。

製品レビュー グーグル合同会社

重要なエンドポイントを守る、Chromeブラウザを企業向けに安全性を強化する方法

世界中で広く利用されているChromeブラウザは、業務における重要なエンドポイントとなっているため、強固なセキュリティが必要となる。そこでChromeブラウザを起点に、企業が安全にWebへのアクセスポイントを確立する方法を紹介する。

製品資料 グーグル合同会社

Chromeの拡張機能:企業における今求められる管理戦略とは

Google Chromeの拡張機能は生産性の向上に不可欠な機能であり、ユーザーが独自にインストールできる一方、IT管理者を悩ませている。ユーザーデータを保護するためにも、効率的な運用・監視が求められるが、どのように実現すればよいのか。

From Informa TechTarget

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは

いまさら聞けない「仮想デスクトップ」と「VDI」の違いとは
遠隔のクライアント端末から、サーバにあるデスクトップ環境を利用できる仕組みである仮想デスクトップ(仮想PC画面)は便利だが、仕組みが複雑だ。仮想デスクトップの仕組みを基礎から確認しよう。

ITmedia マーケティング新着記事

news025.png

「マーケティングオートメーション」 国内売れ筋TOP10(2025年5月)
今週は、マーケティングオートメーション(MA)ツールの売れ筋TOP10を紹介します。

news014.png

「サイト内検索」&「ライブチャット」売れ筋TOP5(2025年4月)
今週は、サイト内検索ツールとライブチャットの国内売れ筋TOP5をそれぞれ紹介します。

news046.png

「ECプラットフォーム」売れ筋TOP10(2025年4月)
今週は、ECプラットフォーム製品(ECサイト構築ツール)の国内売れ筋TOP10を紹介します。