IAMベンダーのIPO(新規株式公開)発表は、アイデンティティー市場の成長を裏付ける重要な出来事として受け止められている。アイデンティティーがあらゆるセキュリティ対策の基盤となった背景とは。
IAM(IDおよびアクセス管理)ベンダーのSailPoint Technologies(以下、SailPoint)は2025年2月に、IPO(新規株式公開)を実施した。SailPointのIPOによる調達資金は、一部の借入金やプライベートエクイティファンド(未上場の株式に投資するファンド)への費用の返済、企業運営費用などに充てられる。
SailPointのIPOは単に資金調達の手段にとどまらず、アイデンティティー(ID)の重要性を再確認させる機会ともなった。同社の長年の販売パートナーであるセキュリティベンダーIgnition Technologyは、2018年にSailPointと提携した決定を振り返る。「当時、成長が期待できる分野としてアイデンティティーとエンドポイントの2つを特定した」と、Ignition Technologyの最高戦略責任者(CSO)であるショーン・レムナント氏は語る。
「セキュリティにはさまざまな要素があるが、結局全てはアイデンティティーに行き着く」と同氏は指摘する。「ファイアウォールの設定、ログイン、データやアプリケーションへのアクセス、さらには建物への物理的な入退室管理まで、全ての基盤となるのがアイデンティティーだ」(レムナント氏)
レムナント氏によると、これまでアイデンティティーは「コンプライアンス(法令順守)やガバナンス(企業統治)の課題」として捉えられることが多かったが、現在ではあらゆるセキュリティ対策の基盤としての役割が強まっているという。
「市場の動向や購買行動を注視していると、アイデンティティーは2025年も引き続きCISO(最高情報セキュリティ責任者)の最優先課題になっている」とレムナント氏は述べる。「アイデンティティーが最上位にあり、次にデータセキュリティ、そして人工知能(AI)が続く。過去5〜6年間、アイデンティティーは常にトップ3に入っている」
レムナント氏は、今回のIPOがSailPointの市場での存在感を強めるだろうとみる。「ユーザー企業は、どのプラットフォームに投資すべきかを見極めようとしている。アイデンティティー市場において確かな実績を持つSailPointは有力な選択肢となるだろう」と同氏は語る。「このIPOはアイデンティティー市場全体の成長を証明するもので、SailPointの市場での地位を高める」とも指摘する。「パートナー企業やユーザー企業がアイデンティティー製品を探す際に、SailPointが最上位の選択肢となる可能性が高い」(レムナント氏)
Ignition Technologyは、新興のベンダーやテクノロジーを市場に投入する戦略を取っており、SailPointの成功はその戦略の正しさを示すものだとレムナント氏は語る。「私たちはパートナー企業が市場の動向を理解し、競争力を維持しながらユーザー企業に最適なサービスを提供できるよう支援している」(レムナント氏)
SailPointは2025年2月13日(現地時間)、1株当たり23ドルで株式を公開し、総額13億8000万ドルを調達すると発表した。これは事前予想の上限に相当する。SailPointは2022年にプライベートエクイティファンドThoma Bravoによって非公開化されていたが、今回のIPOでThoma Bravoは同社の持ち株の大半を売却した。
(翻訳・編集協力:編集プロダクション雨輝)
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