大阪証券取引所が2006年2月から稼働させている新売買システムは、国内の証券取引所では初のオープン系として注目を集めたが、今日に至るまで安定稼働を続け、世界トップクラスの応答速度を維持している。DBMSには日立製作所の「HiRDB」が採用され、その高い性能、可用性、拡張性が快適な取引環境を支えている。
証券取引所といえば、2005年から2006年にかけ、システムが取引件数の急増に耐えきれずに取引停止状態へ陥り、大きな社会問題となったことは記憶に新しい。証券取引所のシステムは重要な社会インフラだけに、当時の証券取引所各社への批判は厳しいものがあった。
そうした逆風が吹き荒れた2006年2月、大阪証券取引所(以下、大証)は、国内の証券取引所では初のオープン系システムで構築した売買システムの稼働を始めた。慎重を期して4年がかりで進めてきたプロジェクトではあったが、国内初の試みが無事成功するかどうか、関係者にとって相当なプレッシャーだったことは想像に難くない。ただ、それは幸いにも杞憂に終わった。新システムは大幅な性能改善と安定稼働を成し遂げ、今日に至っているのだ。
言わずと知れた大証は、国内で2番目に大きな証券取引所を運営する企業だ(同社自身も公開企業)。市場第一部、市場第二部のほか、新興企業向け市場のヘラクレスの運営や、国内における代表的なデリバティブ商品である「日経225先物取引」を提供している。
その大証は2002年から2003年にかけ、富士通製のメインフレームで構築/運用してきた旧売買システムの全面刷新を検討していた。システム本部上席調査役の山森 一頼氏は次のように話す。「16年前の1991年に構築した旧システムは、継ぎはぎで拡張を続けていたため、能力的な限界に達しつつありました。しかし今後、どれぐらい取引高が増加するのか分からない。そこで、極めて高い性能アップと拡張性を目指すため、オープン系の新システムへ刷新することを決断しました。当時、海外ではオープン系システムへの移行が進み、高速なレスポンスを売りにデリバティブ商品を提供する証券取引所が現れていました。われわれとしても、リスクを負ってでもそうしたグローバルな流れに対応していく必要があったのです」。
大証はもう1つリスクを負う決断をしている。富士通から日立製作所(以下、日立)へのベンダー変更だ。証券取引所の業務は特殊性が高く、システム開発は両社が寡占しているが、大証は今回、UNIX環境で提案した日立を選んだ(同時に進められた精算システムの刷新は、富士通が担当)。ハードウェア/ソフトウェア製品の提供、アプリケーション開発とほぼ“オール日立”である。システム本部調査役の浅野 和弘氏は「障害対応を考えると、(1社でシステム全体を把握できる)シングルベンダーが理想でした。日立さんならハードウェアからミドルウェアまでを垂直統合で持っており、総合力も期待できました」と話す。
日立製品で固めた新システムの概略は下図の通りだ。各サーバには、UNIXサーバのミッドレンジ機「EP8000/570」(IBMのOEM製品、OSは「AIX 5L」)を採用。ストレージには、「SANRISE」シリーズのハイエンド機「Universal Storage Platform」を据える。そして新システムの鍵を握るDBMS(データベース管理システム)には「HiRDB」を採用したほか、トランザクションモニター「OpenTP1」などのミドルウェアも搭載する(システム運用管理ソフトウェア「JP1」を稼働させる運用管理サーバのみ、PCサーバ「HA8000」と「Windows Server 2003」の組み合わせ)。
では、証券取引所の売買システムに求められる高いレベルの「性能」「可用性」「拡張性」をどのように実現しているのか見ていこう。
まず、性能面では旧システムと比べて飛躍的な向上が見られた。旧システムで60件/秒だった処理速度は現在、約9倍の550件/秒に達し、処理容量は注文件数で170万件/日から800万件/日、約定件数で120万件/日から330万件/日へ大幅アップしている。新システムの稼働以前、大証では旧システムの能力を完全に超える取引が発生。ヘラクレスの新規上場を一時凍結せざるを得ず、株価情報の配信にも遅延が多発していたが、その窮状を新システムが救った。切り替え以降も、個人投資家向けデリバティブ商品「日経225先物mini」の提供を始めるなどして取引件数は増え続けているが、新システムは余裕を持って処理している。
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