企業とともに成長する情報セキュリティ対策講座【第3回】
ライセンス管理と情報漏えいの密接な関係――従業員20人の場合
企業を取り巻くさまざまな脅威に対抗するウイルス対策ソフト。あなたの企業はそれをきちんと管理できているだろうか? 従業員数20人の事例から見えてくる課題、その対策を明らかにする。
前回の「変化する脅威への備えは『今のウイルス対策を疑え』」では、「企業が直面している脅威」と「取り組むべきセキュリティ」の概要を紹介した。
企業規模を問わず対策が必要なウイルスの感染を防ぐには、当然ウイルス対策ソフトを導入することが不可欠だ。しかし、ウイルス対策ソフトを導入する際は無駄な投資をしないためにも、ウイルスからPCを防御する仕組みとして「ヒューリスティック」「レピュテーション」といった最新の脅威に対抗する手法が取り入れられているかどうかなどをきちんと調べた上で購入する必要がある。今回は、前回紹介したWebからの脅威に加えて、さらに具体的な脅威と企業が取り組むべきセキュリティを紹介していきたい。
そこでまず、分かりやすいように事例を挙げて、そこにどのようなセキュリティの課題があり、どのような対策が必要なのかを説明する。ここでは「管理の必要性」「総合製品である必要性」という2つのポイントを考えながら読み進んでいただきたい。
中小企業におけるセキュリティの課題
事例:従業員数20人の企業
A社は従業員数が20人、主な業務内容はカタログやWebサイト/デジタルコンテンツの企画・制作である。PCは1人1台所有しているため、社内には合計20台ある。専任のシステム管理者はおらず、経理担当者がセキュリティソフトなどの管理を兼任しているが、パッチ適用やライセンスの管理までは行っていない。また、同社は既にセキュリティソフトを導入しているが、個人向けの、ウイルス対策機能のみの製品を使用している。
ある日、事件は起こった。K太が自分のPCを起動すると、Windowsのロゴが表示された後、黒い画面にマウスカーソルだけが表示される。再起動をしてみるが同じ画面が表示されるだけでPCを操作できない。K太は兼任のシステム管理者である経理のJ子に聞きに行くことにした。
K太 「ねえ、J子さん。何だかPC調子悪いみたいなんだけど……」
J子 「えっ、そのPCまだ買い替えたばかりですよね。おかしいなぁ。ちょっとメーカーに問い合わせてみましょうか」
取りあえずPCのメーカーに問い合わせてみると、最近はやっているウイルスに感染していることが判明した。
J子 「K太さん、ウイルスに感染しているみたいです。でもそのPCって、ウイルス対策ソフト入ってましたよね?」
K太 「あ、うん。入ってたんだけど、そういえば、契約期間終了が近づいているとかメッセージが出てたかも」
J子 「そうなんですか? もしかしてライセンス契約期間が終わってしまっているのかもしれませんね。でも、言っていただかないと分からないですよ。知らせてもらえればすぐに買いに行くのに」
K太 「ごめんなさい……」
-数日後-
J子 「新しいウイルス対策ソフト買ってきましたよ。今度からはライセンスが切れそうになったら、ちゃんと言ってくださいね」
K太 「ありがとう、J子さん! ホント面目ない……」
J子 「まあいいですよ。動かなくなったPCもメーカーが修復してくれたし」
K太 「次からは契約が切れそうだったら、すぐに言うね」
J子 「はーい」
しかし、このとき2人はPCがスパイウェアに感染していることには気付いていなかった。
事例に見る脅威
さて、この事例には一体、どのような脅威が存在するのだろうか?
- ライセンス切れのPCがウイルスに感染
現在、中小企業でもウイルス対策ソフトを導入している割合は大きい。しかしその一方で、ソフトをきちんと管理できている企業はどの程度あるだろうか。個人ユーザー向けのウイルス対策ソフトを企業で使用している場合、管理面で以下のような脅威が考えられる。
セキュリティベンダーによっては1パッケージで複数のユーザーに対応した製品を提供しているので、6ユーザーパックを使用していれば、1パッケージで6台のPCまでインストールできる。事例のA社は20人なので、4パッケージ購入すればいいことになる。だが10人を超えると、ライセンス管理面で問題が出てくる。つまり、インストール作業の関係で4パッケージを異なった日に登録していたとすると、クライアントPC(A)~(C)のライセンスは4月、(D)~(H)のライセンスは6月に切れる……などといったことが起こり得る。その結果、管理が煩雑になり、ライセンス期間の終了に気付かないまま最新のセキュリティ状態ではないPCがウイルスに感染してしまうのである。ライセンスが切れているPCが存在するということは、ウイルス対策を行っていないことと同義といえる。
- スパイウェアによる情報漏えい
A社ではウイルス対策のみの製品を導入している。つまり、ライセンス契約が切れていない場合でも、スパイウェア対策やフィッシング対策を行うことはできない。事例ではウイルス感染が見た目にも分かりやすいこともあり、すぐに把握することができたが、こっそりとWebサイトの閲覧履歴や個人情報を外部に送信するようなスパイウェアの感染にまでは気付かなかった。
また、スパイウェアの中にも幾つかの種類がある。例えば、アドウェアと呼ばれるものは広告などを画面上に表示する機能を備えている。そのほかにも、Webブラウザの「ホームページ」を勝手に書き換えて、ユーザーが設定したホームページ以外のサイトを表示するものなどがある。このようなスパイウェアであれば、感染したことが認識できるだろう。だがさらに危険度の高いものとして、ユーザーがキーボードに入力した氏名、住所、ID・パスワードなどの情報を保存して外部へ送信するキーロガーがある。表だった活動をしないキーロガーなどのスパイウェアに感染すると、感染したかどうか分からないうちにスパイウェアがPC内の特定の情報を収集し、外部に送信してしまう。知らないうちに企業内の情報が漏えいしているということが十分起こり得る。
小規模企業向けのウイルス対策製品の要件
本事例を基に、具体的にどのような製品・対策が必要なのかを考えてみよう。
クライアント管理の必要性
ライセンス管理の問題については、まさに先述の通りだ。その点、中小企業向けの製品の多くでは専用のWebコンソールの管理画面が用意されている。「(営業部、経理部、開発部のように)部署ごとにPCが何台つながっているか」「最新のパッチを適用したのはいつか」「ライセンスの契約期限はいつまでか」といったことを管理画面で視覚的に把握することができる。
さらに、ウイルス対策ソフトのバージョンアップやパターンファイルの適用状況もWebインタフェースなどで管理できる上、「毎週月曜の12~13時にパッチの一括適用を行う」といったスケジュール管理も可能だ。これに対して、運用を管理できない個人ユーザー向けの製品の場合、パターンファイルの適用を行うとPCの動作が遅くなることから、ユーザーが勝手にアンインストールしてしまうことが起こり得る。また、会社として最低週1回はパターン更新をするように呼びかけても、ユーザーが更新期間を変更してしまうようなケースもある。
ここまでを読んで「でも管理すると面倒だしなぁ……」と思った方がいるのではないだろうか。だが、よく考えていただきたい。管理をしない結果、ライセンスが切れてウイルスに感染してしまったり、ライセンス切れが分かっても予算計画外の時期にショップに買いに走らなければいけなくなったりといった事態が起こるのだ。本来の業務に加え、PCの管理まではなかなか手が回らないので、後回しにしたいという気持ちも強いだろう。しかし実際は、PCの管理をしっかりと行うからこそほかの仕事と兼任している人の手間や負担が減り、本来の業務に注力できるのだ。管理がおろそかになると、情報漏えいなどの脅威が常に発生することも認識すべきだろう。
一般的に各セキュリティベンダーは、個人ユーザー向け、小・中規模向け、大規模向けといったように、ウイルス対策ソフトをラインアップで提供している。これらのラインアップでは機能がどのように異なるのだろうか。例えば個人ユーザー向けの製品では、広く必要とされる機能を搭載している。また、小・中規模向けは主に管理がしやすいように作られていることが多い。さらに大規模向けでは、企業のセキュリティポリシーに則した運用が可能なようにカスタマイズしやすい製品となっている。このように規模に合わせて機能設計されているため、自社にどの製品が最も合っているのかをきちんと考えて購入する必要がある。
小・中規模向け製品の多くは、10~100台程度のPCを保有しており、管理者が兼任、もしくは片手間に行わざるを得ないような企業をターゲットにしている。そのため、大企業向けの製品に存在するような細かい設定項目は設けず、必要最低限に絞られている。このように小・中規模向けに特化して設計されているのは、管理を複雑にしてしまうとシステム管理者が戸惑うからだ。ウイルス対策ソフトを導入する際には、機能のほかにも企業規模(PCの台数)に合った製品を選択することが重要だ。
小規模なら総合セキュリティ製品を
幾つかのウイルス対策ソフトを比較してみると分かるが、製品によっては機能別にラインアップが分かれて販売されているものもある。例えばウイルス対策のみ、スパイウェア対策とフィッシング対策のみといったものだ。専任のシステム管理者がいない中小企業なら「うちはどれを買えばいいのだろう。あるいは全部買うのか?」と悩んでしまう。この場合はずばり、「総合セキュリティ(ウイルス対策+スパイウェア対策/フィッシング対策)」製品をお勧めする。つまり単機能ではなく、これ1つ導入すればウイルスやフィッシング対策などすべてに対応できる製品だ。
実際「ウイルス対策ソフトを導入していたのにウイルスに感染して個人情報が漏えいした」とされるケースでは、実はウイルスではなくスパイウェアに感染していた。コストを重視するあまり、単機能の低価格なウイルス対策ソフトだけを導入するということがないようにすべきだ。
パターン更新やPC負荷の軽減も考慮する
前回も触れたように、現在は2.5秒に1個の割合で新種のウイルスが発生している。各ベンダーは、未知のウイルスに対抗するためのヒューリスティックやレピュテーションといった新しい手法の模索だけではなく、既知のウイルスに対抗するためのパターンマッチングの精度をいかに上げていくかも課題の1つとしている。
パターンマッチングはウイルスの検知が非常に正確なため現在でも重要な機能だが、最新のウイルスに対抗するためには、いわゆるパターンアップデートが必須になる。パターンアップデートは週1回など定期的に行う必要があるが、例えば毎週月曜日にアップデートしている場合、翌日の火曜日に完成したパターンファイルは含まれないことになる。さらに、パターンアップデート時は基本的にPCの動作が重くなる。月曜日の12~13時に定期アップデートを設定していたところ、その時間帯にたまたま客先でプレゼンテーションを行っており、PCが急に重くなってしまったというのは、よくあるケースだ。
パターンファイルを常に新しくする方法は簡単である。パターンアップデートの間隔を短くすればいい。しかし、パターンアップデートの間隔を短くするということは、それだけPCに負荷が掛かることになる。そこでセキュリティベンダーは、パターンアップデート時の負荷を軽減するような仕組みを作ったり、パターンマッチングに必要なデータベースをインターネット(クラウド)上に置いておき、必要に応じてリアルタイムで参照するという仕組みを提供し始めている。これは、最新のパターンファイルをすべてPCに配信するのではなく、大半をセキュリティベンダーのサーバが保有することで実現される。不正な疑いのあるファイルを見つけた際は、PCからインターネット経由でベンダーのサーバに随時問い合わせを行うというものだ。
このような仕組みには、どのPCにも常に同じ水準で最新のセキュリティ対策を提供できると同時に、ウイルス対策の運用におけるネットワークへの負荷、そしてメモリ使用量やCPU使用量などのシステム負荷を長期的に削減、抑制できるという利点もある。社内のPCの台数が増え始め、管理をする必要性が高いほど有効となる機能といえる。製品選定ポイントの1つとして覚えておくとよいだろう。
最後に、中小企業にはどのような製品が適しているのかをまとめると、以下のようになる。
- 管理面の充実など利用企業の規模が配慮された製品
- スパイウェア対策など必要な基本機能がすべて搭載された総合的な製品
- パターン更新時にネットワークやPCの負荷を軽減する仕組みのある製品
次回は、今回の事例よりも規模の大きな、従業員50~100人の企業が直面する脅威と、それを解決するための具体的なソリューションを紹介する。
<筆者紹介>
坂本健太郎
トレンドマイクロ プロダクトマーケティンググループ
富士通ビジネスシステムでのSE、マイクロソフト、コンピュータ・アソシエイツ(現CA)でのマーケティングを経た後、早稲田大学大学院国際経営学技術経営(MOT)を修了。現在はトレンドマイクロで中小企業向けセキュリティ製品を担当。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
この記事の著者
関連記事
新着ホワイトペーパー PR
-
事例
[日本オラクル株式会社] ピンチをチャンスに変えたEPR製品は? 先行企業の導入事例3選 -
技術文書・技術解説
[日本オラクル株式会社] 無自覚なリスク 秘伝Excelファイルが監査の壁、不正・ミスの温床となる理由 -
製品資料
[日本オラクル株式会社] 戦略的経理の第一歩 失敗のない「脱Excel」を実現する秘訣とは? -
技術文書・技術解説
[日本オラクル株式会社] いまさら聞けないオンプレERPとクラウドERPの違い 最適な製品をどう見極める? -
事例
[株式会社ビザスク] 連結売上高が約2倍に成長、富士フイルムが実践した新規事業創出の戦略とは?
こんなメディアも見られています
TechTargetジャパンに関連する情報をお探しであれば、こちらのメディアもお役に立てるかもしれません。
ベンダーコンテンツ PR
From Informa TechTarget
SpecialPR
アクセスランキング
-
1
損保ジャパンはなぜ「COBOL」を捨てなかったのか? 脱メインフレームの真相
-
2
なぜ「全社配布Copilot」は使われないのか? 失敗に学ぶAI定着
-
3
「0.3秒のスピード顔認証」の入退室管理が社員に好評 事例に学ぶオフィス改革
-
4
「ノートPC派」は損をしている? Dellと考える“自作PC”のメリット
-
5
エンジニアの生産性はどう測る? マネジメントに不可欠な可視化の実現方法とは
-
6
慶應義塾が「Notion」を選んだ理由 AI導入の盲点になる“情報のサイロ化”
-
7
LINEヤフーはなぜ「社内の管理者」すら信用しないインフラを作ったのか
-
8
1200万円のSaaS導入を回避 スギ薬局「運用費10万円」のAIエージェント構築術
-
9
「また同じ説明か」 消費者の半数が離脱するAIチャットbotの“記憶喪失”
-
10
「Copilot」はなぜ放置される? “議事録要約止まり”を脱する処方箋
ホワイトペーパーランキング PR
-
1
不審メールの経路や見せ方に変化? 2026年夏の3事例から見えた動向と対処方法
-
2
DX/AI投資の壁を突破、現代の最高財務責任者が直面する課題と克服のヒント
-
3
「オンプレミス回帰」せざるを得ない“合理的な理由”
-
4
LLMが兵器化? 元FBI高官が鳴らす警鐘とセキュリティツール統合のポイント
-
5
システムの保守がモダン化を阻む? 「変えない判断」から脱却する方法とは
-
6
生成AIを開発に導入しても効果が見えない? 実証実験で分かった成果と課題
-
7
経産省DX指針から読み解く、受発注業務デジタル化ロードマップ
-
8
“あのファイル転送”で暗躍するノーウェアランサム
-
9
Microsoft 365を安全に運用 うっかりミスやサイバー攻撃に備えるデータ保護術
-
10
HDDを使わない「SSDオンリー」が無謀なのはなぜ?
TechTargetジャパン SNS
インフォメーション
注目情報をチェック
TechTargetジャパンをフォロー