Dellのクラウド戦略、その狙いと製品を探るアナリストいわく「Dellはクラウドを正しく理解している」

クラウドサービスと製品を着実に強化してきた米Dell。彼らのクラウド戦略はユーザー企業に受け入れられるだろうか?

2011年06月01日 08時00分 公開
[Carl Brooks,TechTarget]

 企業のIT担当者はクラウドコンピューティング関連のベンダーを探したとき、そこに意外な企業の名前を見つけるかもしれない。コンピュータハードウェアメーカーの米Dellは、クラウド市場の急速な発展と企業からの需要増大に対応すべく、自社の企業イメージと製品ラインを大幅に刷新する考えだ。

 Dellによると、同社は2011年、オンデマンドアプリケーションプラットフォーム(具体的には自社のデータセンターで運用する米MicrosoftのAzure)に加え、企業ユーザー向けにVMwareベースのクラウドインフラを提供する予定だ。これに先立ち、同社は新たなクラウド構想のキックオフとして、4月初めに仮想化技術とプライベートクラウドの配備用として構成済みのハードウェアアプライアンス製品シリーズを発表した。

 同社の新しいIaaS(Infrastructure as a Service)製品の詳細は不明だが、米Amazon、米Rackspace、米GoGridなどの企業が提供する(誰でもクレジットカードで利用できるような)小口ユーザー向けのサービスではなく、サブスクリプションモデルが基本となり、Dellのデータセンターで運用される見込みだ。

 同社は、AzureおよびVMwareをベースとするクラウドサービスを提供するデータセンターを新たに10カ所開設するという壮大な計画を立てているが、この取り組みがユーザーに支持されるかどうかは不明だ。

クラウドの時流に乗ろうとするDell

 「これが独自の方向性を持った取り組みなのかどうか、はっきりしない」と話すのは、米調査会社Forrester Researchのアナリスト、ジェームズ・スタテン氏だ。Dellはクラウドコンピューティングを正しく理解していると同氏は考えている。かなり以前から「Dell Data Center Services」がクラウドプロバイダーの間に浸透しているからだ。

 スタテン氏によると、Dellは米Perot Systemsの買収を機にITサービス分野への進出を狙っており、同社のVirtual Integrated System(VIS) Architectureプログラムはプライベートクラウドを販売しようという試みだ。しかし、これらの取り組みはいずれも大した成果を挙げていない。一方、米IBM(参考:企業内クラウド環境を迅速に構築可能なIBMのプライベートクラウドソリューション)や米Hewlett-Packard(HP)といった大手ライバルメーカーや、後発組の米Cisco Systemsといった企業は以前から、クラウド製品あるいはクラウド的な製品を提供している。スタテン氏によると、VISのようなプログラムはDellが成熟してきたことを示すものだという。

 「HPも以前はDellと同じように、顧客に製品カタログを見せて“どれがいいですか”と言うだけだった。だが両社とも、こういった販売手法から脱皮しつつある。このようなやり方が通用しなくなったからだ」とスタテン氏は指摘する

 企業の間でも、プライベートクラウドを拡張し、パブリック(あるいは半パブリック)クラウドインフラとの連係が可能な高い統合性と機能性を備えたインフラ(参考:ハイブリッドクラウドの実現に向けて)への期待が徐々に高まっている。

 スタテン氏によると、Dellは長い間、コンシューマー側に軸足を置いてきたが、ここにきて、より大きな獲物を狙える大海に飛び込みたいと考えているという。

 「彼らがAmazon Web Servicesと競争するのは無理かもしれないが、HPの最近の発表に対抗するものをPerot部門が打ち出してくる可能性は十分ある」と同氏は語る。HPは既に、プライベート/ハイブリッド型クラウドアプライアンスとIaaSサービスを発表している。

 Dellのマーケティングディレクター、マヘッシュ・クマー氏は「ターゲット市場は、数台のサーバを保有し、クレジットカードで購入するといった小口ユーザーではない」と話す。

 クマー氏によると、企業向けのクラウドサービス製品を形式化・標準化し、それをプライベートクラウド用ハードウェア製品群と結合するのがDellの狙いだという。

Dellのクラウド製品の概要

 4月7日に発表されたDellの新アプライアンス「vStart」はVMwareをベースとする製品で、同社が投入予定の新しいIaaSサービスとの連係が訴求点になるとみられる。

 「vStart 100」および「vStart 200」は、PowerEdge R710サーバにEqualLogicストレージを組み合わせた製品で、このハードウェアを管理するためのVMware vCenterが付属する。モデル名に付いている数字はサポートする仮想マシン(VM)の数を示しており、例えば、vStart 100は100個の仮想マシン用とされている。

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 Dellは2010年、今回の新バンドルと同様の製品ラインを発表した。MicrosoftのHyper-Vが動作するように構成された認定済みリファレンスアーキテクチャ「Hyper-V Cloud Fast Track」だ。価格はvStartアプライアンスとほぼ同じに設定され、100個のVMが動作するHyper-V Cloud Fast Trackは10万ドル前後になる見込みだ。

 Dellは既に、クラウドコンピューティングへの進出をにらんだ動きを幾つか展開しており、「cloudcomputing.com」というドメインまで取得している。しかし同社の本業であるビジネスコンピュータの枠を超えるような際立った製品をまだ打ち出せないでいる。同社はこれまでに、米Joyent、英Canonical(Ubuntuの開発企業)、米Eucalyptusと協力関係を結び(「UEC on Dell Servers」と呼ばれる製品を開発)、MicrosoftとはHyper-Vで提携した他、Perot部門を通じてインテグレーションとクラウドのコンサルティングサービスを売り込もうとしてきた。Dellはクラウドコンピューティング市場に風穴を開けることができるのだろうか。

 「現段階ではまだ何とも言えない」と話すのは、米Thermo Fisher Scientificのシステムアーキテクト、ドミトリー・イルカエフ氏だ。同氏はDellのVirtual Data CenterおよびVIS製品の一部をクラウド戦略のコンポーネントとして検討中だ。同氏はVISが「オープンソリューション」である点が気に入っているという。すなわち、VISではさまざまなベンダーのハードウェアを管理できるということだ。

 「これはクラウド構想実現に向けたコンポーネントの1つになりそうだ」(同氏)

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